DX後進国・日本、価値創出事例から「アウトカム型のビジネスモデル」を考えるIBM調査から読み解く「データ活用戦略の一般原理」(前編)

「IBM グローバル経営層スタディ日本版」が発表された。世界と日本の経営層のデータ活用に対する意識の違いが明らかになった。そもそも「どのようなデータを収集すべきか」が定まっていない企業が多いのはなぜか。

» 2020年02月04日 12時50分 公開
[岡田大助ITmedia]

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 デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みは、今日の企業の生命線となった。DXの源泉となるデータは重要な経営資源の一つと見なされ、その価値はかつての「石油」に等しいとも語られる。

岡村周実氏 岡村周実氏(日本IBM グローバル・ビジネス・サービス 事業戦略コンサルティング パートナー IBV Japan Lead)

 「日本企業の経営者は、データ活用やデジタル化に対して『これから取り組む』と考えている人が多い。そもそもデータを活用してどんな価値創出するのかという『ユースケース』の開発で出遅れてしまっている」――こう指摘するのは、日本IBMの岡村周実氏(事業戦略コンサルティング パートナー IBV Japan Lead)だ。

 日本IBMは2020年2月3日、「IBM グローバル経営層スタディ日本版 データ活用戦略の一般原理:顧客・企業・エコシステムをめぐるデジタル空間の価値転換」を発表した。IBM グローバル経営層スタディはIBMのビジネスシンクタンク部門が2003年から実施してきた調査で、今回で20回目。2019年調査は世界の経営者1万3484人にインタビューを実施した。日本版はそのうち国内の経営者858人の回答傾向に焦点を当ててまとめたものだ。

日本企業の4分の3でデータ活用に最も重要なモノが足りていない

 岡村氏は、日本企業とグローバル企業のデータ活用に向けた取り組み状況の違いに言及する。「事業戦略とデータ戦略の融合度合い」と「データからの価値創造能力」を2つの軸として回答者を分類すると、どちらも高い「先導者」の割合は世界の9%に対して日本は4ポイント低く(5%)、どちらも低い「始動者」は同25%に対して6ポイント多くなる(31%)。

先導者と始動者の割合 「先導者」と「始動者」の割合(出典:日本IBM)

 例えば「効果が明確に実証されたユースケースがある」と答えた日本企業の経営者は26%で、世界の経営者から13ポイント少ない。「データを十分に収集・利用・共有できている」と答えた日本の経営者は23%で、こちらも世界と比べて13ポイント少ない。

 このような調査データから岡村氏は、「ユースケースのイメージがないために、そもそもどのようなデータを収集し、利用し、共有すべきかが分からないのではないか」と推察する。

データ活用に向けた取り組み状況 データ活用に向けた取り組み状況(出典:日本IBM)

 ユースケースとは、いうなれば「打ち手のアイデア」だ。多くの企業がデータに基づいた経営にシフトした時、「今、打てる手がどれだけあるか」という引き出しの多さが明暗を分けることになる。そのためにも自社が属する業界にとらわれることなく、多くのユースケースを学び、理解することが企業の生存戦略で重要なウエイトを占めるようになるだろう。

 IBM グローバル経営層スタディ日本版は「データ活用戦略の一般原理」もまとめている。「顧客との関係性:アウトプットから、アウトカムへ」「企業経営と組織(予算・計画主義から、価値・実行主義へ」「エコシステムの体系と階級(競争優位から、共創優位へ)」の3つだ。前編の本稿では、このうち「顧客との関係性」の具体例と、その技術的な条件がどういったものかを見ていく。

「新たな価値」とは何か? アウトプットからアウトカムへの転換

 DXの文脈では、企業は変革を通じて新たな価値創出を期待する。ここで岡村氏は事業そのものの質の変化に言及する。従来型のビジネスモデルは、モノやサービスといったアウトプットを取引することで価値を生み出す。ただし、その活動によってどのくらいのアウトカム(=結果)が生み出されたかは分からない世界だ。

 それではアウトカムをベースにしたビジネスモデルとは一体どのようなものか。同氏は幾つかの事例を紹介する。

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