携帯とブロードバンドの組み合わせで企業に競争力を
iモード端末は4000万台を超える普及を遂げ、いまや国民インフラの地位を獲得した。電話という範疇に収めることのできない「ケータイ」は、企業の情報端末の1つとしても活用が進む。

 1999年から開始されたiモードサービス。携帯電話は情報端末として進化を遂げ、2003年は企業の情報端末利用の追い風となった一年だった。だが、企業利用の浸透には壁もあるとNTTドコモ 法人営業本部の潮田邦夫本部長は語る。企業文化という大きな壁だ。この壁はインターネットを使いこなす上で、遅れをとった日本企業に共通する課題でもある。

ITmedia 昨年を振り返ってみて、法人向け携帯市場はいかがでしたか?

潮田 2003年はiモード端末だけでも4000万台を超え、他社のブラウザフォンも入れると5000万台を超える数になりました。第3世代と言われるFOMAも100万台を超えて国民のほぼ1割を上回り、ブレークまでのスレッシュホールドを超えました。法人においては、このように普及してきた携帯電話をどうやって活用していくかの点で、2003年は一つのステップになったと認識しています。

 数年前からiモードを使って、電子メールで社外にいる人間に連絡や指示を出すといった使い方が出てきており、バイク便や保守、営業などで使われて出しています。このような携帯電話をPCの代わりとして使う事例が、2003年はずいぶんと多くなってきました。

ITmedia iモード登場当初から企業利用が想定されました。しかしコスト面などで思ったほど採用が進まなかったようですが。

潮田 当初は、どちらかというと社員の私的利用といった公私区分とセキュリティの2つが問題になり、導入に踏み切れないところが多くありました。しかし現在顧客は、便利さとセキュリティのバランスが分かってきたと言います。柔軟性、スピード、効率性を考慮すると携帯電話のメリットが理解されてきたし、セキュリティはパスワードやSSL、個体番号を使うことで解決できることも分かってきた。難しいことはPCで行えばいいという使い方の点も理解されてきました。

 しかし、社会には一番初めにチャレンジする「先行型」と誰かがやったからやるという「追従型」の2パターンが存在する点に問題が残されています。米国の場合、ベンチャーをはじめとして良いものはどんどん入れていこうという流れがありますが、日本の場合は先に事例や実績を求めます。


「IT技術大国なのか、利用大国なのか」。国としても日本はビジョンを描くのが苦手だと指摘する潮田氏

 私は基本的に国のIT対応度と競争力には相関関係があると考えているのですが、IMD(経営開発国際研究所)の過去10年間の世界競争力調査を見てみると、日本は1997年から急激にランクを落としてきました。1996年というのは、日本でインターネットが「社会革命」などと騒がれた年です。なのに、なぜ低下してしまったのかというと、それはITをうまく使いこなして経営改革や生産性の抜本的改善など、新しいビジネスモデルを作れなかったからではないかと思います。

 モバイルインターネットの分野で見れば、日本は現在2位の位置にいます。1位はフィンランドですが、これは国の生活事情に依存する面があり、質の点では日本のほうが優れているといえます。携帯電話もブロードバンドも浸透してきました。これからはこれらを活かして、競争力を高めていかなければいけません。その意味で、企業に求められてくるのは技術力でなく、「使いこなす」というリテラシーになります。企業はリテラシーを持って、ITは経営に役立つ道具だということを意識する必要があります。

ITmedia 技術の環境は整ってきているものの、問題は働き方や企業文化にあるということですね。

潮田 40歳代後半より上の人間になると、中には携帯電話を公衆電話の代わりだろうと考えている人がいます。企業の上に立つのであれば、自分は使いこなせなくても、携帯電話を使って何ができるのか、それを推し進める責任ぐらいは果たさなければなりません。

 日本に鉄砲が入ってきたとき、鉄砲を槍の代わりと思った人と、まったく違うものだと考えた人がいました。織田信長は後者で、それまでの槍の戦い方を変えました。企業のトップも同じです。携帯電話を単なる紙やPCに代わる道具として捉えるのではなく、仕事のやり方を変えるものだと考えて指示をださなければいけません。反対に、若い人たちや実務者には、それをもっと使いこなしてほしい。これはやはりカルチャーの戦いなのだと思います。

ITmedia 既にある考え方を変えるのは容易なことではありません。リモートオフィスの考えにしても、社内に浸透させるのは難しくありませんか?

潮田 外でできる仕事と社内でできる仕事というものは違ってきます。それをきちんと見極めないといけません。情報の報告や連絡は外からできますが、会社の中にはいろいろな人がいるわけでコラボレーションを行ったほうが効率が上がります。野球でいえば、昔は先発完投型のピッチャーを用意しましたが、「先発」「中継ぎ」「抑え」といったようにピッチャーそれぞれの特性を生かすかたちになってきました。ITも同様に、ITができる得意/不得意を捉えて、何に適しているかを見抜くことが重要になります。一度に全部やろうとするから難しくなるわけです。携帯電話は道具なわけで、目的と道具を一致させて最適な使い方をする必要があります。

ITmedia BtoCでの動きも目立ってきていますね。

潮田 後楽園のLaQuaと一緒になって、イベントや混雑具合の情報提供サービスや申し込み、二次元コードを使った入場券サービスなど、携帯電話を使っていろいろなことができる事例を作りました。森ビルとは、本にICチップをつけたてユビキタス時代の先例を作りましたし、11月にはR-クリックサービスというiモードと無線タグを連携させた街情報サービスに取り組みました。2003年には、こういった携帯電話の機能を使った街作りの事例が出てきました。

 携帯電話は人がいるところにツールがある国民インフラとなったわけで、まだまだいろいろな可能性があるといえます。クレジットカードなどとの連携もできるようになっているので、モバイルe-コマースというのも実現できます。

ITmedia これらを踏まえて、今年はどのような年になると考えていますか?

潮田 ブロードバンドと携帯電話がどう結びつくか、に注目しています。そういう意味で企業は、これらをどう使いこなすか腕の見せ所です。そのためには、ITの特徴を理解して取り組んでもらいたいし、我々はそれに対して提案し、一緒に臨んでいきたいと考えています。2004年は、ITやモバイルの使いこなしの年になるでしょう。

 当社においては、マスで成功しているので、昨年の事例をさらにステップアップさせて、法人でも成功したいと思います。過去を振り返っても、これだけの人が同じ情報端末を持っている時代はありません。いまは企業の経営者も社員も、取引先も消費者もみな同じ端末を持っています。これをどう使いこなしてくれるかが、今年の大きな課題になってきます。

 今年は昨年に比べて経済状況が良くなってくるのではないかと思います。これまで投資を相当控えていた企業も多くありますので、うまく使いこなしてくれる企業がさらに出てくるでしょう。企業が活性化して、日本の産業競争力に結びつき、消費者に還元され、消費者と一体になってサービスができればといいなと思います。

2004年、今年のお正月は?
「仕事で使っていない筋肉を使うと、とてもリフレッシュになるんですよ」と笑顔で話す潮田氏。普段のオフは町内会の草野球チームで朝6時から汗を流している同氏だが、年末年始はリラックスのために家族と旅行に出かける予定だという。

2004年に求められる人材像とは?
「これからはオールマイティよりも何かに得意な人があつまる社会になってくる」と潮田氏は話す。その中でも特に求められるのがクリエイティブな力を発揮できる人間という。「イマジネーションするってことは簡単そうに見えて、難しい。3年後、5年後のITの世界を想像することができますか?」。そう潮田氏は問いかけた。

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新春インタビュースペシャル2004

[聞き手:高橋睦美、堀 哲也,ITmedia]