日本のブロードバンドサービスは世界トップレベルへ
1990年代初め、Windows用スクリーンセーバー「AfterDark」でヒットを飛ばしたMPテクノロジーズ。その後、ニュースの表舞台から姿を消したが、同社が一貫して追求したマルチメディア技術は、ブロードバンド時代にようやく芽を出そうとしている。

エム・ピー・テクノロジーズ(MPT)というソフトウェアハウスをご存じだろうか? 1980年代半ば、マルチメディア端末の開発を目指して設立された同社だが、90年代初めにWindows 3.0が登場するとスクリーンセーバーの定番、「AfterDark」(開発元:米Berkeley Systems)を紹介し、一躍その名が知られた。その後、ニュースのヘッドラインからは姿を消したが、同社が一貫して追求したマルチメディア技術は、ブロードバンド時代にようやく芽を出そうとしている。「インフラはもちろん、サービス自体でも日本は世界リードしている」とMPTの吉本万寿夫社長は話す。

ITmedia 日本はブロードバンドインフラの充実では目を見張るものがありますが、2003年を振り返って、どんな年だったでしょうか。

吉本 これまでブロードバンドといっても、主役は通信事業者やネットワーク機器を販売するシスコシステムズのようなベンダーだったわけですが、昨年はそうしたインフラの上にビデオ・オンデマンド(VOD)やゲーム・オンデマンド、VoIPといった新しいサービスの芽が出始めた年だったと思います。レイヤが一段上がり、ビジネスとしても成長しました。

 例えば、マンスリーマンションのレオパレス21では、入居者向けにブロードバンドサービス「LEO-NET」を展開していますが、その加入者は10万人を超え、今後も伸びると見込まれています。インフラはもちろんそうですが、日本のサービス自体、世界をリードしていると思います。

 例えば、ブロードバンドでは先を行っていたお隣の韓国ですが、VODとなると、Korea Telecomはまだサービスを開始していません。VODで先行するわれわれにはノウハウが蓄積されつつあり、世界の手本となることができるでしょう。

ITmedia そのノウハウというのはどういったものですか。

吉本 有料のサービスとなると、その品質を高めなければなりませんし、日々寄せられる顧客のニーズにも細かく対応できないといけません。そうした手触り感は、われわれ日本人が得意とするところです。「日本発・世界展開」といってもおかしな話ではありません。国内に大きな市場があるため、世界もアジア、特に極東アジア(日本、韓国、台湾、中国)に注目しています。

ITmedia エム・ピー・テクノロジーズ(MPT)としては、そうしたノウハウをどのようにビジネスへと変えていくのでしょうか。

吉本 MPTは、英Pace Micro TechnologyのIP版次世代セットトップボックス(STB)、米Kasennaのビデオサーバ、そして、コンテントやユーザーを管理するミドルウェア群「MPT Back Office Series」(MBOS)を組み合わせ、すぐにブロードバンドサービスを開始できるソリューションを通信事業者やホテルなどに提供しています。


1990年代初めには米PCWEEK誌でもその名が取り上げられた吉本氏

 特にミドルウェアのMBOSは、われわれがいちから開発したもので、最大の差別化ポイントとなるものです。コンテントの管理、配信、課金、ログといった基本管理機能のほか、カスタマイズにも対応できるものです。

 2004年は、ホテルや病院といった、いわゆるホスピタリティ市場を主に狙い、ASP(Application Services Provider)的な事業を仕掛けていく計画です。ホテルなどは、ブロードバンドサービスで宿泊客に付加価値を提供したいのですが、そのためのインフラを自ら構築して所有するということはしたくないと考えていますから。

ITmedia ASP事業に乗り出すということですか。

吉本 ある場合にはサービスパッケージの主体にわれわれがなり、ユーザーに近いところまで手掛けるかもしれません。先行モデルを増やしていくことが重要だからです。

 MPTでは、サービスのコンポーネントは、ほとんど品ぞろえしているので、コスト的には見えています。パートナーを募ったり、不動産の証券化のような手法を使い、インフラ資産を流動化させることも検討しています。

ITmedia 業界全体の方向性はどうでしょうか。

吉本 MPTの市場へのアプローチは、今のところ、STBベンダーらと一緒にということが多いのですが、過去を見ても、STBは失敗の連続でした(笑い)。

 しかし、放送と連携したり、ホームサーバの機能をSTBに搭載することで新しいチャンスが生まれています。VODまでは米国市場に模範とすべきモデルがありましたが、ホームアプライアンスとなると日本が先行しています。ホームセキュリティや家電製品のリモートコントロールなど、今後は新しいサービスモデルがどんどん登場するでしょう。通信事業者もそうした新しいサービスに期待し、参入する意欲が旺盛です。

 やはり、ハコだけでは駄目だったんです。搭載されるソフトウェアが重要です。ギャップがあるところを埋めるのがソフトウェアですから。

ITmedia MPTはWindows 2.0の時代(1980年代後半)からそのアプリケーション開発に取り組み、ヒット商品も世に送り出してきました。日本のソフトウェア産業をどう見ていますか。

吉本 Windowsはパソコンに新しい表現方法をもたらしましたが、社会インフラになったかというとそうではありません。しかし、ここに来てパソコンがいろいろと形を変え、ようやく生活のインフラになろうとしています。

 例えば、STBやホームサーバ、あるいは携帯電話ですね。こうした分野でヒットしそうな臭いを嗅ぎつけ、使い勝手を良くしたり、面白くしたりするのは日本が得意とするところです。コンテントだけでは駄目だと思います。ソフトウェアで面白いインフラに変えていけると信じています。

ITmedia 放送との連携、という指摘もありました。具体的に教えてください。

吉本 既にお話ししているLEO-NETの例ですが、昨年末から「CSプラス」というサービスが始まり、WOWWOWなど10チャンネル以上が追加されました。これはVODではなくサテライト経由の放送なのですが、IPマルチキャスト技術を使っており、だれがどの番組を観たのかログを取ることも可能となります。

 10万人の加入者を抱える商用サービスでこうしたことが実現できている意義は大きいと思います。ワンツーワンマーケティングの第一歩といえます。携帯電話とSTBがつながれば、さらに可能性も膨らんでくるでしょう。

2004年、今年のお正月は?
忌中ということもあり、石川県金沢市の実家で正月は過ごすという吉本氏。「今年は雪が多そうなので、たぶん雪かきをしてる」と笑う。伝統的な旅館が多い地域でもあり、「VODや簡単なCRMがあれば、随分と新しい可能性が開けるのに……」と、ついつい本業の話に。

2004年に求められる人材像とは?
ベンチャー企業では、プランニング、開発、セールス、どれをとっても組織を頼みにできない、と話す吉本氏。組織立って仕事をしていたのでは、結局大きな組織に負けてしまうからだという。「一人ひとりが率先して企業家になってほしい」と、吉本氏はベンチャーマインドを重んじる。

関連記事
VODミドルウェア「MBOS」が可能にする柔軟なビデオ・オン・デマンドサービス
新春インタビュースペシャル2004
レオパレス21、自社のアパート・マンション向けにビデオオンデマンドサービス開始
セレスティンホテルの新デジタルVODシステム、N+Iでもプレビュー
日本IBMとMPT,IAサーバとLinuxによるBBコンテンツ配信システムで協業

関連リンク
エム・ピー・テクノロジーズ

[聞き手:浅井英二,ITmedia]