統合によってミドルウェアを次世代アプリケーションの基盤に引き上げるIBM
1995年に発足して以来、IBMのソフトウェア事業部はLotus、Tivoli、そしてRationalを加え、顧客らのミッションクリティカルな要求にこたえてきたが、「もはや局地戦の時代ではない」と堀田常務は話す。統合によって次世代アプリケーションの基盤へと昇華するミドルウェアについて話を聞いた。

「Oracle vs. DB2」「WebLogic vs. WebSphere」「Exchange vs. Notes/Domino」──ミドルウェアの覇権をめぐり、昨年もこうした「対決」の構図が幾度もニュースのヘッドラインを飾った。しかし、日本アイ・ビー・エムの堀田一芙常務は、「もはや局地戦の時代ではない」と話す。企業顧客は、アプリケーションを支える基盤であるミドルウェアにもソリューションを求め始めているというのだ。IBMではこうした顧客の要求にこたえるべく、ソフトウェア事業部の大幅な組織改編を計画している。800名に上る同部隊を率いる堀田氏に話を聞いた。

ITmedia 2003年のミドルウェア業界はどのような年でしたか?

堀田 2003年はミドルウェアの価値や将来性が劇的に変わったという印象があります。IBM自身、DB2 Information Integratorをリリースし、Rationalを統合、Tivoli Orchestrator(5月、カナダのThink Dynamics買収で獲得した自動プロビジョニング製品群)もリリースを開始しました。これまでは、局地戦で争ってきたミドルウェアが、分野を超え、一段レベルの高いところへと進化したのだと思います。恐らく他社も同じ印象を持っていると思います。

ITmedia 何か課題は見えましたか?


かつては同社PC事業の顔だった堀田氏、「タフなPC事業で鍛えられた」と話す

堀田 業界を見渡すと、マイクロソフトがWindows Server 2003を出荷、Linuxも負けじと認知を広げてきました。また引き続き、PCサーバの高性能化と低価格化が進んでいます。それに伴い、ミドルウェアのビジネスはその単位が小さくなってしまっています。商品企画や販促は、こうした新しい顧客の要求にも対処しなければなりません。

 顧客は、大規模なプロジェクトを始めるというよりは、試行を繰り返しながら、小刻みにITの技術や製品を採用していきたいと考えています。メーカーとしては、少しずつ製品を購入してもらいながらも、それらは長期的にマイグレートできるものにしなければなりません。

 一つ例を挙げましょう。Web化の流れの中、「Notesは死んだ」と言われましたが、蓋を開けてみれば、Microsoft Exchangeやサイボウズとの競争にも大事なところで勝つことができました。

 背景には、大企業ともなれば、大量のPCを配備しているということがあります。システム部門からすれば、ソフトウェア資産の管理は悪夢のようなものです。それから逃れるため、彼らはアプリケーションのWeb化、PCのThinクライアント化を進めましたが、いざやろうとすると、PCを一斉に更新しなければなりません。普通は2年、3年をかけて更新するものです。

 Lotus Notes/Dominoであれば、Windows 98が稼動する古いマシンでNotesクライアントを使い続けながら、最新のWindows XPマシンでは、十分パワーもあるので、Domino Web Access(旧iNotes Web Access)が利用できます。IBMとしても新しい発見でした。これが企業顧客の実情なのです。

ITmedia セキュリティ対策に対する需要はどうでしたか。

堀田 たいへん旺盛でしたし、さらに今後も成長が期待できる分野だと思います。

 ただし、以前と違うのは、製品単体では顧客の要求にこたえられなくなってきたということです。効率的な運用管理には、ユーザーIDの設定や変更、失効作業を自動化してくれる「Tivoli Identity Manager」が必要になるでしょうし、ユーザーからのアクセス環境を考えれば、ポータルも必要になります。Tivoliだけ、Lotusだけ(現在WebSphere PortalはLotus部門が担当)では、企業顧客にとっては、「足かせ」になってしまうだけです。今後は、IBMソフトウェア事業部がそろえる複数のブランドを同時に検討してもらい、少しずつ導入してもらえるよう提案していくことが重要になるでしょう。

ITmedia 現在はブランドごとに組織があると思いますが、それも見直す可能性があるということですか?

堀田 IBMのソフトウェア事業部は、1995年に発足して以来、Lotus、Tivoli、Rationalを買収によって加えてきました。各ブランドは大企業を得意とするIBMに統合され、ミッションクリティカルな業務にも耐えられる機能追加や品質向上が図られてきました。今後は、ほかのブランドも含めてステップ・バイ・ステップでの導入を検討してもらえるよう、単に5つのブランドではなく、それらを組み合わせた新しい12のソリューションを打ち出していく予定です。

 それに伴い、ソフトウェア事業部の組織も「私はTivoli担当」というのではなく、「セキュリティ」や「ポータル」といった、ミドルウェアを組み合わせたソリューションの専門家集団へと再編していこうと考えています。こうした再編は、企業顧客らがアプリケーションを支えるミドルウェアに対してもソリューションに近いところを要求してきていることを反映したものです。

 複数の製品を組み合わせるため、それを動作検証するために技術支援も強化しなければなりませんが、そうすることによって個々のブランドでは解決できなかったことを解決できるようになります。2004年は、ソフトウェア事業部を大変革する年になるでしょう。

ITmedia 「日本はメインフレーム大国」と揶揄されている中、IBMというとメインフレームというイメージがあります。それが「足かせ」になるということはないのですか。

堀田 S/390(現在はzSeriesと呼ばれるIBMのメインフレーム)だからレガシー、というのは間違っていると思います。レガシーが使い続けられているのは、その素晴らしさが評価されているからです。また今後、新規に開発するアプリケーションではDB2やWebSphereを活用していくわけですから、Linuxのようなほかのプラットフォームとほとんど同じです。高い信頼性を重視してzSeriesという選択肢は今後も十分考えられます。

 確かにミドルウェアを駆使していない時代のアプリケーションはレガシーかもしれません。しかし、そういう点からすれば、Visual Basicもレガシーだということになります。Visual BasicとOracleデータベースのクライアント/サーバ型システムが企業サイトで多数稼動していますが、次世代のシステム構築をどうする? と考えたとき、次の行き場がありません。

 2003年にWindows Server 2003がリリースされましたが、顧客はもはやOSが欲しいのではなく、その開発生産性の高さやソリューションを求めているのです。IBMとしては、ハードウェアやOSに依存しないJavaを全社挙げてサポートし、ほかのJava陣営と互いに競いながら、そのすそ野拡大に努めてきました。

 開発生産性が高いということで、これまでVisual Basicが採用されてきたのかもしれませんが、われわれもJCP(Java Community Process)で「JavaServer Faces」(JSF:WebアプリのGUIをドラッグ&ドロップで開発できるフレームワーク)の標準化を進めています。昨年12月上旬、WebSphere Studio の最新バージョンにJSF対応ツールのベータ版を同梱すると発表したところ、多くの反響がありました。今後も、生産性をめぐって.NETとJavaが競い続けていくことになるでしょう。

2004年、今年のお正月は?
今でも十分スマートなのだが、昨年10月から夫婦でダイエットを始めたという堀田氏。朝がニンジンとリンゴのジュース、昼はソバだけというもの。「夜は何を食べても飲んでもいい、というのが僕には合っている」と笑う。元日は親戚が集まるが、2日以降は「プチ断食」にも挑戦し、ソバ屋がしばしば話の中に登場する池波正太郎の小説「鬼平犯科帳」をまとめて読み返したいという。

2004年に求められる人材像とは?
必ずしも「即戦力」というのではなく、ゆとりのある人が欲しいと思います。最近も早稲田大学理工学部がプログラミングコンテストの開発環境としてWebSphere Studioを採用してくれたりしましたが、こうした大学との交流をさらに深めながら、優れた人材を受け入れていければと考えています。

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[聞き手:浅井英二,ITmedia]