ITへの需要は旺盛、2004年は回復基調に向かうと日本オラクルの新宅社長
多くのITベンダーと同様、バブルの後遺症に苦しんだ日本オラクルだが、ちょうど1年前、事業構造の転換を柱とする中期経営計画を打ち出し、その苦境を克服しつつある。顧客企業と同様、贅肉を削ぎ落とし、革新によって次なる成長に備える新宅正明社長に話を聞いた。

1990年代後半、「バブル」ともいえるIT好景気の恩恵を受けた日本オラクルは、大規模なOracle OpenWorld Tokyoの開催で業界を驚かせ、外資系ソフトウェアベンダーとしては異例の株式公開まで果たした。しかし、そんな同社も、多くのITベンダーと同様、バブルの後遺症に苦しんだ。新宅正明社長は昨年初め、この苦境を克服し、次なる成長に備えるべく、3カ年の中期経営計画を打ち出している。「計画は着実に前進している。ITへの需要も旺盛で、2004年は回復基調に向かう」と新宅氏は話す。

ITmedia 2003年、企業の業績に明るさが戻ってきましたが、引き続きIT支出には厳しい目が向けられています。そうした傾向を象徴するかのように米Harvard Business Review誌に掲載された「IT Doesn't Matter」(ITなんて大した話ではない)という記事が話題になりました。

新宅 2002年と2003年、ITに対する総需要が減少しました。今や3カ年のプロジェクトなんてありません。プロジェクトは小型化し、顧客企業もその成果も早く、しかも確実に勝ち取ろうとしています。企業のこうした収益確保への努力はIT分野に限りません。さまざまな分野で贅肉を削ぎ落とし、2003年3月は好決算が相次ぎました。恐らく2004年3月もその傾向が続くと思います。

 「IT Doesn't Matter」の議論は、真摯に受け止めるべきですね。この数年、何かイノベーティブなことがITによって成し遂げられたのか? という顧客の声を反映しているのだと思います。

 それまでのITは、ROI(Return on Investment)の議論を待たずとも、仕事のやり方の変革とそのスピードアップにおいて絶大な効果をもたらしました。ERPひとつ取ってもそうです。バラバラだった経営情報が統合され、可視化をもたらしました。これこそイノベーションです。

 現在のITも、サーバはどんどん安くなり、プロセッサは性能が上がり、Linuxも成熟度を増してきています。しかし、これらは「小道具」に過ぎません。オープンシステムやERPといった、劇的に仕事のやり方を変える「舞台装置」が新たにデザインされていないのです。

 コンサルティング会社、テクノロジーベンダー、そしてシステムインテグレーターすべてに言えることですが、今こそ発想の軸を変えていかなければなりません。顧客らが「安くしてほしい」と求めてきたとき、市場全体が縮小してしまったのでは大胆さがなくなってしまいます。

 2003年初め、日本オラクルは事業構造の転換を柱とする3カ年の中期経営計画「Oracle Japan Innovation 2003」(2003年6月〜2006年5月)を発表し、こうした市場、つまり顧客企業の声に対応しています。決してITのビジネスがストップしているわけではありません。IT需要そのものは、まだまだ大きなものがあります。底打ちから安定期を経て、今年は回復基調に向かうとみています。

ITmedia IT需要の回復を後押しするのは何でしょうか。

新宅 勝ち組みといわれる企業は、かつて事業部単位だったバリューチェーン、つまりビジネスプロセスの連鎖をコーポレート、エンタープライズ、アジア、そしてグローバルへと拡大しています。コストの安い地域で製造し、需要の旺盛な消費地で販売するというグローバルな展開がこれからの企業にはチャレンジとなり、情報を取り扱う産業への需要はまだまだ高まるでしょう。


昨年12月にはホノルルマラソンに初挑戦、見事完走した新宅氏。今年のキャッチフレーズ「挑」

 また、どんな企業といえども、経営陣は投資市場への情報開示に対してこれまで以上に厳しい責任を負わなければならなくなるでしょう。米国ではエネルギー卸売りのEnronやWorldComのスキャンダルが相次ぎ、「サーベンス・オクスレー法」(いわゆる企業改革法)が制定されました。この法律によって経営陣は、SEC(米国証券取引委員会)に提出する定期報告書が正確であると宣誓することが義務付けられます。米国ではコーポレートガバナンス(企業統治)と開示方法の変革がもたらされましたが、日本の証券規制にも少なからず影響を及ぼすでしょう。これは情報システムの支援なしではできないことです。

 セキュリティや企業の事業統合も企業統治と同様です。セキュリティ対策を怠ればリスクを抱え込むことになりますし、企業や自治体のスピーディーな統合・合従連衡はシステムの支援なしでは実現できません。

 企業を取り巻くこうした環境は、ITを「nice to have」(あったらいい)ではなく、「should to have」(あるべき)へと変え、ITに対する総需要を押し上げるでしょう。

ITmedia 企業は、ITに対する支出を厳しく見直す中、「best」のテクノロジーではなく、「good enough」なテクノロジーを選択しているように思います。

新宅 1年で捨ててかまわないものであれば、それは経費として考え、good enoughなテクノロジーを選択するという判断もあるでしょう。しかし、われわれが提供している最先端のテクノロジーは、われわれの知的所有権であり、販売されたあとは顧客の資産となるものです。導入後も、その資産が減価したり、不良資産にならないよう、製品拡張のために研究開発を継続していくわけです。

 企業も「エンタープライズ・アーキテクチャ」のような手法を用い、組織全体の視点から将来あるべきITの姿を描いていますが、そこで採用するコンポーネントはgood enoughではダメです。

ITmedia オラクルをはじめ各社が提唱し始めたユーティリティーコンピューティングの効率的な活用も不良資産を抱えないためには重要だと思います。

新宅 すべてが使用量ベースに移行するわけではありませんが、作るものと使うものは分かれてくるでしょう。ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)も次第に現実味を帯びてきています。

ITmedia オラクルでは共通の業務を北米、欧州、そしてオーストラリアの3カ所に集約して効率化を図っていますね。

新宅 われわれは、グローバルで共通するバックオフィス業務を集約し、標準的なサービスとして実施する「シェアードサービスセンター」を活用しています。これにより、単なるコスト削減だけではなく、ガバナンスを効かせ、セキュリティを強化し、その価値を高めています。現在は3カ所ですが、今後はインド1カ所に集約していく計画です。

 グローバル企業の経営者が考えていることは、ある意味で冷徹です。現場から「あなたでなくてもできること」を切り分け、ビジネスの価値が落ちないのであれば、安いところにその業務を移そうという考え方です。

 こうしたダイナミズムを大きく後押ししたのが、先ほど触れた企業改革法で、ITは単に刺激を与えただけです。顧客企業らが、ITによって業務を変革し、さらにITベンダーが次にやるべきことを示してくれるという好循環になってほしいと思います。日本の多くのメーカーは既にグローバルに事業を展開しており、日本発のアイデアが世界に広がっていくことも期待できます。

ITmedia 2004年に日本オラクルが打ち出す施策は何でしょうか。


新宅氏が掲げる今年のキャッチフレーズ「挑」(直筆)

新宅 既に触れましたが、昨年初め、事業構造の転換を柱とする中期経営計画を発表しました。シェアードサービスセンターによってオペレーションコストを削減する一方、顧客との新しいコミュニケーションチャネルとして「OracleDirect」を導入しました。2004年は、中期経営計画を着実に前進させると共に、次なる成長へ弾みをつけるべく、社員のモチベーションを変えていきたいと考えています。

 2003年に掲げたキャッチフレーズは「創」(つくる)でした。クルマに例えれば、性能の優れたエンジンをつくる過程です。次は走り出さなければなりません。社員が「これくらいでいいか」と思ってはダメで、もっと自主的なドライビングパワーが必要になってきます。社員一人ひとりがブレークスルーに挑戦し、パートナーや顧客らの期待にこたえていかなければなりません。そういう意味で2004年は「挑」(いどむ)を掲げていきます。

2004年、今年のお正月は?
久しぶりに大阪の実家へ娘たちと帰郷して、年越し、正月をゆっくりと過ごそうと思っています。これまでは温泉地などで正月を過ごすことが多かったのですが……。今年はなぜ大阪の実家? 特に理由はありませんね。

2004年に求められる人材像とは?
「頭が良い」というよりも、とにかく明るく、そして体力のある人がいいですね。個々が「このくらいでいい」と思わず、ブレークスルーに挑戦できるよう刺激を与えていきたいと考えています。

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日本オラクル

[聞き手:浅井英二,ITmedia]