基盤が整った2003年、e-Japan2では関心が企業から個人へ
ブロードバンドと家電における経済効果はIT業界へ計りしれない影響を与えるだろう。情報通信がインターネット利用で促進する現在、その利用形態にも変化が訪れている。日立製作所、執行役常務、情報・通信グループ長&CEOの古川一夫氏は、昨今の事情を挙げ、その取り組みへの課題を示した。

 日立製作所のインターネットへの取り組みは幅広い。例えば、ホットスポット構築支援を行ったり、業務用にウェアラブルインターネット機器の開発、CATVインターネットの課金システム開発を行っている。ほかにもPCからの利用にとどまらない同社家電との関わりも見られ、幅広い分野の情報機器とサービスを担っている。

 その情報通信という、今や切ることのできない業界動向について、日立製作所、執行役常務、情報・通信グループ長&CEOの古川一夫氏に話を聞いた。

ITmedia IT業界、インターネット界を見つめ2003年はどのような年だったでしょうか。

古川 IT業界全体でいえば、投資効果あまり回復しなかったのが残念なところです。しかし、さまざまな取り組みにおける「質そのものが向上してきた年だった」といえます。

 その要因のひとつには、ユビキタスの言葉に代表されるブロードバンドとモバイル機器が一般生活に深く入り込んだことでしょう。今や生活に密接な存在となっていることからも、その経済効果は計りしれません。常時接続という言葉は、もはや特にうたわれない程度にまで達したと言えるでしょう。この影響は、さまざまな意味でITシステム全体を刺激するものだといえます。

 その一方で課題も残されたのも事実です。それは、毎月のように世を騒がせたセキュリティ問題です。無線LANでのセキュリティはその象徴でもあり、個人情報の漏洩問題などが何度もニュースとして騒がせてしまいました。これは、2003年を象徴的するできごとだったと思います。このような世情からも、今後は、社会規制などが整備されて厳しくなっていくべきでしょう。

 その一端となるものとして、先ごろ「安心安全インターネット推進協議会」が総務省で発足されたことを挙げておきたいです。このような試みがインターネット上で行われるサービスの基盤となって安心感へとつながっていくはずです。

 このような状況を踏まえつつ総括すると、不安感は残されているものの、いわば「すてきな変化が見られた2003年」だったといえます。前でも触れたようにデフレな不安は残ったものの、実りのある年だったと思います。

ITmedia 2004年、インターネット界はどのように動いていくでしょう。

古川 2004年は、第一に前で触れたユビキタスが新たなビジネス基盤の事業として展開していくでしょう。

 今や生活に欠かせない銀行や鉄道、航空などの基幹が当たり前のようにインターネットを利用するようになっています。しかし、このような利用形態は、まだ従来のメインフレームがインフラとしてインターネットを使っているといった感があります。インターネットアクセスは常識になっているものの、従来からの業務形態には変化がない、というのが大多数なはずです。


「家電の追い風に乗って情報通信産業全体が上向きになっていくことを期待したいです」と情報・通信グループ長&CEOの古川氏

 このような利用形態がさらに変化していくのが2004年でしょう。その展開のためには、法的な整備が必要だと考えています。安心できる土壌があってこそ、新たなビジネス、そして新しい価値観が生まれてくるでしょう。

 例えば、現在でもサービスとしては存在しますが、個人がオークションなどの個人データを安心して扱えるよう、認証基盤の整備が必要です。保証され、手軽に利用できるという展開が望まれます。現状のインターネットサービスを見れば、個人情報のやり取りに経験がない人は気味悪がるし、ネットワークに詳しい技術者でも不信感を抱くことがあります。いずれの観点からも不安が残っているのは好ましくない状態です。

 e-Japan2はこのような現状に対する側面が強いものです。安心、安全、快適というキーワードが掲げられています。従来のe-Japanがインフラ整備を重視していましたが、徐々に企業からパーソナルでの価値観へとシフトしています。このような背景からも、e-Japan2の成果が2004年に見えてくると思われます。

ITmedia IPv6は今ひとつ見えづらいままだと感じます。IPv6普及・高度化推進協議会理事としての最新情報を聞かせてください。

古川 見えにくいのは確かであるものの、現在はすでに国内キャリアすべてで通っていることを忘れないでほしいです。土壌としては完備されているのです。そして、華やかさはないものの、関心が持続しているのも事実です。

 2003年12月には、通称「IPv6テクニカルサミット」がIAジャパン主催で行われました。年末に近い時期でしたが、会場には300人以上が会して狭く感じるほどでした。そして、交わされた話題は従来のようにテクノロジーベースではなく、実践的なビジネス寄りであったことが興味深い点です。具体的にいえば、情報家電や街頭端末で利用するといった話題です。このように、IPv6ということを意識せずに身の回りで利用され始めているのです。

 そして見えづらい原因としては「このサービスは、絶対v6でなければならない」という利用シーンが見えないためでしょう。技術というものは、進み方をイメージしていても思いもしない方向へ行ってしまうことがあります。しかし、IPv6は基盤となるプロトコルであるため、絶対に訪れるものだと考えています。

ITmedia インターネットの利用方法として端末が年々高機能化しています。この方向性はどのように見ていますか。

古川 機能がリッチな端末を個人が持ち歩くようになると、個人情報の漏洩問題が深刻化するのは避けられないでしょう。

 インターネットの起源からの利用形態は、TCP/IP標準化の中でサーバとのセッションを繰り返し、サーバからのサービスを受け取って利用するというイメージでした。しかし、端末が高機能化すれば、サーバから離れた機器でデータが解釈され、それを返すという手順になります。必然的に多くの情報が処理されます。

 高機能化する端末に個人情報や顧客情報などを入れてはならない、と言っても無理だと思うのです。このような背景からも、心配はありますね。

 方向性のひとつとして、これからはシン・クライアントがビジネスシーンで確立せざるを得ないようなイメージがあります。もちろんすべてがその形態になるとは考えていません。

 このような考えは、私自身、2002年まではイメージしづらかったものでした。しかし、2003年の社会事情を見れば、疑問点からも考えてくるようになりました。端末で情報漏洩を気にしなければならないというのは、あまりよい方向性ではないと思われますね。

2004年、今年のお正月は?
日ごろの忙しさから離れ、本をじっくりと読みたいですね。そして、2004年は景気が上向くと思われますが、日本が今後10年、20年先にどうなっていくのかと考えてみたいと思います。

2004年に求められる人材像とは?
ポジティブ、フレキシブル、グローバルな意識を持っていることが必要です。人数が多い大企業になれば意志決定において小回りが利かないものの、世の中は常にフレキシブルに変化し続けています。それに追従していかなければならないことも忘れてはならないでしょう。

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[聞き手:木田佳克,ITmedia]