企業内に収束しない研究開発を行っていくべき
ビジネスの変革に合わせスピードを重視した追従こそが現在の日本に欠けているもの、と富士通、取締役専務の高島章氏は語る。そして、企業内にとどまらない研究開発こそ、今後の日本を発展させていく原動力になる、と取り組むべき課題を示す。

 富士通の取り組みは、情報通信機器や電子デバイス製造、販売、そしてこれらに関するサービス提供など幅広い。2001年から下方修正が続く同社であるが、明確な方向性を見い出せた実りある2003年だったという。取締役専務、高島章氏に、情報通信業界についてを話を聞いた。

ITmedia 2003年、情報通信業界はどのように動いてきたと分析しますか。

高島 2003年の関心は、IT産業界が健全な黒字体質で定着すべく、次への発展の基を作り上げていくことでした。

 業界全体で見れば濃淡があるかもしれません。しかし、着実に前進がありました。特に情報家電の世界が顕著であり、携帯電話などのデジタル端末や液晶やプラズマTV、DVD(ハードディスク)レコーダーなど、比較的一般家電に需要が集中しています。このように挙げると業界として狭く思われがちですが、家電には半導体(ASIC)や通信のための技術やソフトウェア開発、流通などが関わるため、日本の産業全体に影響します。だからこそ期待しています。

ITmedia 家電に搭載するOSライセンス問題が問いただされるようになってきました。この点への見解を聞かせてください。

高島 情報家電に搭載することを前提とすると、焦りもありますね。そしてPCの世界のように、Windowsという選択肢はないでしょう。本当の意味での競争社会なので、選択肢はたくさんなければなりません。そして、家電大国としての日本が、誇るべき基本ソフト(OS)を持っていないのは悲しむべきことです。今後の課題でもありますね。

 今後、業界を超えてインターネットとつながるサービスが前提となれば、いっそうセキュリティ問題が問われます。現在もそうですが、さらに重要な事項になっていくでしょう。富士通では、医療分野への導入に取り組んでいますが、今までと異なる業界へと入り込めば深刻です。生活の仕組みに取り込まれれば、扱う情報としてますます個人情報が増える傾向にあるわけです。

 技術だけでなく精度の問題もありますが、まずは技術がしっかりとしていなければ人々に認知されないと捉えています。

ITmedia 2004年は情報通信業界がどのように動いていくと思われますか。

高島 2004年は、これまでに作り上げてきた基盤が生かされ、しっかりと足場が固まっていく年になると思います。何をするのかという具体性を持って遂行していく年ともいえます。

 そして、米国の景気回復を受けて、2003年末から2004年にかけて上向いていく期待があります。それに伴い、IT投資が増えることでビジネスチャンスが広がるはずです。問題なのは、ITマーケットがほとんど米国依存であり、ビジネス環境が米国基準ということですね。この点は、国内におけるIT産業として、今後いっそう問い正していかなければならないでしょう。そうとはいえ、戦争などの異変がない限り、いい線まで景気回復していく思います。

 そして重要な点としては、長期的な投資も考えていかなければならない年となるでしょう。どんなに苦しい時であっても、経営の在り方としてはあまり変動させるべきではないという考えがあります。苦しいからこそ、直近のものに執着してきたのが事実です。このような背景からも、これまでの見方を変えて脱却し、業界が動き出すという期待があります。

 具体的に言えば、投資の中心となる対象は研究と開発です。研究、開発を行わなければ、失速してしまうのが事実であり、日本は特に、韓国、中国などのアジア圏で莫大な設備投資を行っている現状を軽視できないでしょう。2004年には投資を行っていかなければ、3、4年後みじめな姿になってしまう恐れがあります。

ITmedia 研究、開発というキーワードを挙げられましたが、2003年にその兆しがありましたか。

高島 まず最初に、同じ業界だけで開発を考える固定観念から脱却する必要があるでしょう。その糸口になるのは、ひとつに大学との関係です。米国を見ればよく分かります。企業と相乗することで発展しているよい例でしょう。この点は、日本が最も遅れていました。


「2004年には研究と開発への投資を行っていかないと、3、4年後にみじめな姿になってしまう恐れがある」と高島氏

 米国における各企業内の投資額を追ってみると、新たな研究開発費は増えていません。大学に投資をしているからです。今後は、今までのように企業内だけで収束していると、大きなものが得られない可能性があります。

 そして、より具体性が持てる出来事として、日本でも2004年に国立大学が独立法人化されます。これにより、経営者的なセンスを持つ教授が増えていくはずです。非常によいタイミングで基盤が整っていくでしょう。今までの大学では、比較的実用レベルが見えづらい抽象的な物が多かったのですが、今後は早期に産業界へと応用できる物が増えていくはずです。

ITmedia 企業体質の変化が求められているわけですね。

高島 そうです。それに、これまでの日本を考えれば、大学との関係以外にも、女性や来日外国人を無くしてこれほどまでの成長を遂げたことに驚きさえ感じるべきです。

 昨今では頭脳流出などとも言われてますが、それを問いたださない業界が発展するわけがないのです。家電のOSについても触れましたが、日本の技術が基盤となる領域を作らなければなりません。これまでに、物自体には十分に投資されてきました。問題は人ですね。新しい人が流れ込む必要があるのです。

ITmedia 今後の企業変化には何が求められますか。

高島 これまでの安全、着々では業界の動きに追従できない可能性があります。これからは、状況に則した判断スピードがいっそう問われるでしょう。

 スピードが遅いというのは、十分にわきまえてからという行動パターンであり、これまでの経験から慎重さがリスキーであることも経験しているはずです。失敗しても戻ればよい。その方がリスクとして小さいことがあるのです。

 あの地点へ行く、という方針が分かっている時代であれば、がむしゃらでもよかったのです。しかし、どちらに行くか分からない現代であれば、何かと先送りになりがちです。おかしな道に迷ってもすぐに引き返せばよいわけです。これまでの日本は、長期的なプランを考えがちで、これは80年代に持てはやされてきた風潮です。最近はむしろ逆の指向でなければなりません。

 この理屈のひとつとして、長期プランによって過剰投資をしてしまう問題点が指摘できます。臨機応変さがあれば、膨大な無駄な投資をしなかったという見解になるでしょう。そして、業界全体が大きな投資を行ってきたからこそ、現状のようになっているという見方もあります。

 その反面、難しさも感じています。存在している物は合理的でもあるわけです。悪いと捉えていても良いと思っている面があるわけですね。たとえスピードが遅くても、その方が良いのではないか? という考えもあります。本当に嫌がるのであれば、急速に改革が進んでいくでしょう。大企業になるほどマネージメントする強い意志と行動力にかかっています。

2004年、今年のお正月は?
正月は、恒例となっている都内巡り、そしてゆっくりと小説を読みたいですね。普段訪れたことのない街角をぶらぶらして、偶然路地裏でおいしいそば屋などを見つけるとうれしいですね。また、その土地に歴史上の物語があれば、回想もできてなおうれしいです。

2004年に求められる人材像とは?
チャレンジ精神が旺盛な人です。新たな変化にも対応でき、そして行動していけることが大事です。現代では環境変化が激しく、ワールドワイドな観点が必要なため、このような精神にあふれた人でなければならないでしょう。

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[聞き手:木田佳克,ITmedia]