2004年、HPCとVoIPが中小企業に入り込む
コンピュータの開発・生産ノウハウを持つプロサイドは、国内PCメーカーとして1987年に設立された後、サーバの生産も開始し、現在はハードウェアをベースとしたソリューションが提供できる企業へとシフト中という。プロサイド以前から、日本のIT業界を見つめてきた椎名堯慶社長に話を聞いた。

椎名社長は、日本初のパーソナルコンピュータやオフィスコンピュータ、ノープログラミング言語「PIPS」など数々の先進的な製品を送り出したソード(現:東芝パソコンシステム)の社長を務められ、日本のコンピュータ/IT業界を古くから知る人物。その椎名社長が率いるプロサイドは現在、事業の形態を、ハードウェアを販売するだけでなく、これまでの経験とノウハウをもとに、ハードウェアをベースとしたコンサルティングを提供するという形態へ梶を切りつつあるという。大メーカーができないマーケットを狙うという椎名社長は2004年、VoIPシステムで中小企業マーケットに切り込むという。

ITmedia 2003年はどのような年だったと感じていらっしゃいますか。

椎名 プロサイドにとっては自社ブランドをより強化するため、PC/サーバ本体を売る「箱屋」から、箱にOSやアプリケーションを載せた、ハイバリューな製品を売る会社を目指した年でした。2002年に製品開発を強化した結果、利益率が上がり、2003年はそれを維持することができました。ただ思った以上に量を伸ばせなかったことが問題点です。

 2004年には箱売りプラス、アプリケーション、さらにコンサルテーションをビジネスとして展開する決意です。これまでは我々がハードを持っていて、お客さんがソフトを持っていると、お客さん自身がハードを買って組み込む形でした。買ってきたらすぐターンキーで使いたい、いちいちマニュアルを読んでインストールやいろいろな設定をやりたくはない、そういうお客さんに対して、利便ビジネスを追求しようということです。また、ERPの導入やちょっとしたOAの導入も数社に対して行い、成果を得ました。2004年に向けての方向が見えてきたと感じています。


「100台とか500台とか、あまりロット数が多くないが複雑で、多少の開発も必要というような、ハイバリューな仕事をやりたい」という椎名社長

 業界全体ということでは、景気は2003年2月くらいからかなり雰囲気が良くなってきたと思います。株価上昇などいろいろな環境が良くなり、大手企業もリストラを経て収益が良くなってきています。大手メーカーの中には過去最高というような利益を上げたところもあるようですが、彼らは輸出によるメリットを受けているわけで、私ども中小規模メーカーは、まだ難しいですね。

 国内のPCビジネスでは、6月くらいから日本ヒューレット・パッカードとデルの徹底的な低価格戦略が始まりましたが、ほかのPCメーカーはみんなその影響を受けただろうと思います。HP/デルと同じカテゴリーで同じように戦っているところは本当につらかったんじゃないでしょうか。HP/デルなどは今後も恐ろしいほどの価格競争を挑んでくると思います。米国で3000ドルくらいで売っているものを、日本ではまあ2000ドル以下で売っているんですから。ただ、こうした状況はずっと続くということではないだろうと思っています。

ITmedia プロサイドの取引先から、景気回復は感じられますか? 求められる製品の傾向に変化はありますか?

椎名 取引先企業は元気になっていると思います。ただ、その恩恵をプロサイドはその恩恵を受けられなかったですね。HP/デルの低価格戦略の影響で5〜50台くらいの仕事をずいぶん取られたために、売り上げを伸ばすことはできませんでした。

 製品の動向ですが、大学や官庁の研究所で大規模クラスターシステムが導入されつつありますね。そこでは産業総合研究所の1000台のクラスターにしても同志社大学の500台のクラスターにしても、AMDのOpteronが採用されています。我々はこれまでOpteron製品を持っていませんでしたので、そういう引き合いもないし、あまり動向をつかんでいなかったのですが、ここに来てそういうものがぼんぼんで始めています。そこで、残念ではあるがAMDも始めるということにしました。

ITmedia 残念とはどういうことですか。

椎名 インテルとは今まで非常に長い関係がありますので、インテルに、例えば電力がうんと下がる、50Wから30W台に下げてくれるとか、64ビットで非常にイージーに使えるCPUだとか、そういう製品を開発していただけなかったことが残念ということです。もちろん、AMDにとってはインテルができないことをやったということですが、我々としては新プロセッサに対応するために、いろいろなことが必要になり、ビジネスとしてはヘビーですよね。そういう意味で残念なんです。Opteron搭載製品は準備を進めており間もなく出荷を開始します。

ITmedia クラスターシステムは今後、研究機関だけでなく企業にも広がると思いますか。

椎名 そう思っています。いまプロサイドで開発しているものに、4〜8台のコンピュータを10Uクラスの小さな筐体に納めた製品があります。CPU数としてはその倍ですね。Linuxをインストールし、クラスターのソフトを入れてクラスターシステムとして動作させます。顧客はそれにアプリケーションを入れればいいようにします。それで価格は200万円以下に抑えます。これには非常に大きなマーケットがあると思います。当社の具体的な納入先としては、大学のほか半導体関連の企業です。クラスターシステムを使えば、半導体設計のレイアウトシミュレーションなどの分野で、エンジニアリングの効率を上げることができます。

 これまで説明したクラスターとは別に、台湾メーカーと提携して、ブレードサーバをクラスターシステムとして売り出す予定もあります。2003年になってようやくブレードサーバが我々にも入手できるようになりました。いま売られているブレードサーバは、16枚のブレードが入って1000万円程度と非常に高価です。プロサイドがやるものは、周辺機器やソフトもあるので一概には言えませんが、だいたい半値くらいで提供する予定です。

ITmedia インテルやAMDが進めているプロセッサの64ビット化に対する顧客の反応はいかがですか。

椎名 顧客としては、自分が持っているプログラムが速く動きさえすればいいんです。顧客が持っているアプリは1本で500万円とか1000万円とか高額のものが多いのです。すぐに買い換えるというわけにもいきませんし、まだ64ビットのものは少ないですから、現状では32ビットのアプリを32ビットのOSで動かすか64ビットのOSで動かすかという違いです。ただ、そういう高額なソフトを使っているような顧客は、パフォーマンスを重視しますから将来的には64ビットを選ぶでしょう。それは確実です。

 デスクトップ、ノートブック、ワークステーションということであれば、2004年には64ビットのブームになると思います。OSに関してもWindows XPも64ビット版が第1四半期には製品化されるでしょうし、Red HatやTurboLinuxも用意しています。64ビット化の動きは相当速いでしょう。

ITmedia クラスターシステム以外に注力する分野はありますか。

椎名 VoIPの分野です。VoIPによる電話システムは少人数の企業から大企業までみんな採用せざるを得なくなるものだと考えています。プロサイドが総販売代理店となっているVoIPゲートウェイ製品は、企業にある電話を接続するだけでVoIP対応にできるというものです。電話はキーテレホンであってもいいし、PBXが入っていてもかまいません。それとセットでVoIP化できるのです。先日ある展示会に出展したのですが、大変な引き合いが来ています。

 中小企業へのITの売り込みはなかなか難しく、マイクロソフトやインテルも苦労していますが、私の提案はVoIPです。2004年、2005年はVoIPが企業に普及する年になると考えています。企業向けでは500〜600万台、ポート数では2000万ポートぐらいのマーケットはあると見ています。先ほどのVoIPゲートウェイ製品を25セット(電話機50台分)ただで貸し出すキャンペーンを進める予定です。VoIPは中小企業に入り込むための新しい普及チャネルになると思っています。

2004年、今年のお正月は?
特に毎年やると決めていることはないが、今年は3人のお孫さんと過ごす予定という椎名氏。「うちの裏が公園なので、孫たちとうちの犬と一緒にだらーっと遊んでいると思います(笑)。プロサイドに風がまわってくる、いい年になると思いますよ」

2004年に求められる人材像とは?
プロサイドが2004年から最も力を入れるのがコンサルティング事業。そのため「コンサルティングができる営業」を求めているという。

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[聞き手:佐々木千之,ITmedia]