2007年は携帯用燃料電池 元年携帯向け燃料電池 現状と課題(1/5 ページ)

» 2005年01月22日 03時23分 公開
[斎藤健二,ITmedia]

 「燃料電池は電池不足の救世主か」──。

 KDDIの技術開発本部開発推進室の沼田憲雄次長は、燃料電池への期待をこう話した。1月21日に開催された国際燃料電池展のセミナーに、携帯キャリアをはじめ、東芝、NEC、Samsungなど燃料電池のトッププレーヤーが勢ぞろいした。各社のセミナーから、携帯電話向け燃料電池の現状と課題を探っていこう。

2007年、携帯に燃料電池が乗る

 各社が開発にしのぎを削る携帯向け燃料電池は、2007年には実用化されるという見方が多い。

 「2007年は携帯用燃料電池の元年」と話すKDDIの沼田氏をはじめ、「2007年は1つの目安だろう。そのあたりから市場が立ち上がってくると考えている」(NEC基礎・環境研究所の久保佳実統括マネージャー)、「2007年には標準化され、市場に投入される」(Samsung Advanced Institute of Technology燃料電池プログラムチーム/素材機器リサーチセンターのヒョクチャン主任研究員)といった意見が相次いだ。

 2007年がターゲットとなる理由は3つありそうだ。

 1つは、携帯電話の消費電力が飛躍的に大きくなること。国内では2006年にもモバイル向け地上デジタル放送(1セグ放送)がスタートし、世界的には第4世代携帯電話(4G)が視野に入ってくる。「2007年に4Gが導入されると、現在のバッテリーでは30分程度しか通話できない」(Samsung AITのチャン氏)

 2つ目は、消費電力アップにリチウムイオンバッテリーの性能向上が追いつかないことだ。「リチウムイオンは限界に近づいている。燃料電池しかない」(NECの久保氏)

 そして3つ目は、航空機内へのメタノール燃料の持ち込みが2007年を目処に解禁される見込みであること(12月2日の記事参照)

 技術的にはまだ十分ではないものの、各社は実際に動作する燃料電池をたびたび公開しており、性能のターゲットも見えてきた。NECの久保氏は、「携帯用では耐久性の要求は厳しくない。コストもランニングコストも大きな問題ではない」と話し、技術的な課題は触媒電極電解質膜だけだと見ている。

 燃料電池の現在と課題をそれぞれ見ていこう。

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燃料電池は電池というより、一種の発電機

 燃料電池のキソのキソとして、まず押さえておきたいのは、燃料電池は“電池”といっても、いわゆるバッテリーとは違い、一種の発電機だということ。燃料と酸素を入れると発電が行われ、電気と二酸化炭素と水が出てくる──それが燃料電池だ。

 「燃料電池は電池というより、一種の発電機」(KDDIの沼田氏)

 よく「燃料電池はリチウムイオンバッテリーに比べて、どのくらいの長く動作するのか」という話があるが、燃料電池の場合、燃料を継ぎ足せばいくらでも発電できる。そのため比較する際には、燃料と発電部分を合わせた重さと体積をリチウムイオンと比べることになる。

 比較に使う単位として覚えておきたいのは2つ。まず電池がどれだけのエネルギーを蓄えられるかをエネルギー密度(いわゆる容量)という。体積当たりのエネルギー密度をWh/l、重量当たりのエネルギー密度をWh/kgと書く。

 もう1つ、電池がどれだけのパワー(W:ワット)を持つかを出力密度という。携帯を直接動かすには約2ワット、ノートPCなら12ワット以上が必要だ。出力密度はW/kgやW/cm2などで表す。携帯を動かすための2ワットを得るのに、出力密度が小さければ電池は大きく重くなるし、出力密度を上げられれば小さく軽くできるわけだ。

エネルギー密度 Wh/kg Wh/L 比重
燃料電池(DMFC) 〜1300 〜1300 〜1
リチウムイオン 〜130 〜400 〜3
「燃料電池はリチウムイオンの10倍の容量」とよく言われるが、それは重量当たりのエネルギー密度で見た場合を指す。そしてこれは理論値で、実際はさらに差は少ない
NECの久保氏が示した機器と必要となる出力密度。現在、パッシブ型(後述)の燃料電池で70mW/cm2を達成しており、100mW/cm2を目標としている

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