古くて新しい「ジャケットフォン」構想の課題神尾寿の時事日想

» 2005年03月17日 09時56分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 ウィルコムの本格攻勢が始まった。

 「電話かけ放題2900円」は業界内の予想を下回る定額料金であり(3月15日の記事参照)、インパクトのある価格だ。あるドコモ関係者によると「(音声定額プランは)月額1万円〜2万円のハイエンドサービスになると予想していた」という。

 だが、ウィルコムの前には課題が山積している。その中でも大きなハードルが、“魅力的な端末”を増やすことだ。ウィルコムの音声通話用端末では、京セラの「AH-K3001V」(関連記事12)がマニアックな人気を博しているが、それはドコモやauの端末とは別次元の人気だ。ラインナップ数も少なすぎる。ライフスタイルツールとして携帯電話に対抗するには、最低4〜6機種の選択肢が必要だ。

 そのような中で、ウィルコムが打ち出したのが「ジャケットフォン」構想である。詳細はレポート記事に譲るが(3月16日の記事参照)、携帯電話のコアユニットをモジュール化し、様々なジャケットに組み替えて用途別に使い分けるというのは面白い。

 このコンセプト自体は、かなり古くからある。その代表例がIBMの「MetaPad」構想で(2002年2月7日の記事参照)、PCのコアユニットをモジュール化し、それをノートパソコンやデスクトップパソコンの筐体に差し替えることで、“形態の束縛”から逃れようとした。2003年にはアメリカのベンチャー企業アンテローブ・テクノロジーズ社がIBMからMetaPad技術のライセンスを受けて、「モジュラー・コンピューティング・コア(MCC)」技術を使った超小型PCを開発、主に業務用として今も販売している(2002年5月23日の記事参照)。また、日本では、パイオニアが昨年、ハイエンドカーナビゲーション「カロッツェリア サイバーナビ」において、CPUやHDD、GPUなどを着脱式のモジュールにした「ブレインユニット」を開発。専用の筐体ユニット「リビングキット」を使うことで、カーナビ/カーオーディオ機能を家庭内でも使えるようにした(2004年5月12日の記事参照)

 このようにジャケットフォンに類似するコンセプトはいくつかあるのだが、どれも大きな成功は収めていない。コアモジュールと筐体ユニットの分離は一見すると合理的だが、筐体ユニットのバリエーションが増えなかったり、その価格が高すぎれば、ユーザーはメリットを享受できない。

 コアモジュールを使うというジャケットフォンのコンセプトは面白いし、形態の束縛から切り離された多用途性の確立という点で期待できる。しかし課題は、多くのジャケットを安価に提供し、一般ユーザーに魅力的なものにまでこのコンセプトを育てられるか、だ。それができなければ、ジャケットフォンは他のコアモジュールコンセプトと同様に、“理想の現実化”の段階でつまずくことになるだろう。

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