動き出した「携帯電話=無線LAN」融合への動き神尾寿の時事日想

» 2005年03月23日 10時15分 公開
[ITmedia]

 3月18日、オランダのRoyal Philips Electronicsが携帯電話向けの802.11g対応無線LANチップを発表した(3月18日の記事参照)。同社のプレスリリースによると、IEEE802.11gに対応しながら低消費電力を実現したという。

 欧州、そして北米では、スマートフォンの流れの先に「携帯電話ネットワークと無線LANの統合」というシナリオが見えている。しかし、これまで携帯電話向け無線LANチップは802.11bベースのものしかなく、速度面で3Gインフラを補完するにはやや物足りなかった。しかし、802.11gの採用に目処が立ったことで、「3Gを補完する無線LAN」という図式が現実味を帯びてきた。

 欧米における携帯電話の高機能化がスマートフォンから起きているのも、無線LANの統合という観点では都合がいい。これらの端末はホワイトカラー向けビジネス端末という位置づけだが、彼らの行動範囲にある「無線LANエリア」はオフィス内から街中まで急速に増えている。利用ニーズも社内情報システムへのアクセスやフルブラウザーの使用が中心であり、速度とコストで3Gネットワークを補完する無線LANのメリットが出しやすい。

 一方、日本市場では、主力がコンシューマー向け端末という事もあり、携帯電話向け無線LANは今ひとつ盛り上がらない。

 オフィスの無線LAN化や、都市部を中心とした公衆無線LANアクセスのスポットエリア整備は着々と進んでいる。例えばNTTコミュニケーションズの「ホットスポット」は約1200カ所(2005年2月時点)、NTTドコモの「MZone」は513カ所(2005年3月22日時点)、ソフトバンクBBの「Yahoo! BBモバイル」は約670カ所(2005年3月22日時点)のスポットエリアがある。特にNTTコミュニケーションズとNTTドコモの公衆無線LANアクセスは、東京メトロの各駅をエリアとし、海外事業者やConnexion by Boeing(飛行機内インターネット接続サービス)とローミングできるなど、ビジネスユースを強く意識している(2004年4月27日の記事参照)。しかし、日本の携帯電話はビジネス分野での高機能化が遅れており、これら無線LANインフラは今のところ「ノートPC向け」に限られている。

 携帯電話への無線LAN融合は世界的な流れであり、今後、無線LANチップの小型化と低消費電力化、低価格化は進んでいくだろう。クアルコムのように3Gコアチップそのものに無線LAN機能を内包する動きもある。だが、普及モデルという点では、コンシューマー分野から高機能化した日本市場と、ビジネス分野から高機能化する欧米市場の特性にギャップがあり、チップセットのように「そのまま輸入する」というわけにはいかない。携帯電話向け無線LANの流れを、どのように日本市場に適合させるか。これが近い将来に向けての、日本キャリアの課題の1つになりそうだ。

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