新規参入組の前に立ちはだかる「メトカーフの法則」神尾寿の時事日想

» 2005年04月07日 09時45分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 4月5日、インフォプラントが学生を対象にしたアンケートの調査結果を発表した。この中で、利用中の携帯キャリアを選んだ理由として最も大きかったのが、「家族・友人が利用しているから」で、全体の6割弱もあったという。

 自らの学生時代を振り返ってもらえば分かりやすいが、学校生活では社会心理学で言う「同調圧力」が働きやすい。特に自我が発達途上の年少者ほど同調圧力の影響を受けやすく、実際、この調査結果でも中学生の7割弱が周囲に影響されている。今回の結果の一因はそこにあるといえるだろう。

 キャリア選択にとって「周囲の影響」は無視できない要素だ。これを理解するには、Bob Metcalfe氏が1995年に提唱した「メトカーフの法則」を持ち出すとわかりやすい。

 メトカーフの法則では「ネットワークの価値はノード数の二乗に比例する」。ここでいうノードは当初、コンピューターなど接続機器を表したが、近年ではネットワークに参加する「ユーザー」も定義されている。

 携帯電話ビジネスで考えた場合、ノードはユーザーであり、ネットワークはユーザーから見た各キャリアのサービス浸透度や、拡大解釈すれば“ブランド”にまであてはまるのではないか。例えば、友達のケータイからチラリと見えるロゴマークや、メール交換する相手のドメインといったものまでが、メトカーフの法則でいう「ネットワーク価値」を左右するシンボルになる。

 実際、筆者は「友達関係を持つグループ」での利用キャリア変移を追跡調査したことがあるが、数人の高感度なユーザーがキャリアを変えると、それに引きずられるように、ほかのユーザーまでキャリア変更したり、変更を検討する傾向が見られた。特にメール交換の活発なグループでは、友達の「メールアドレスが変わる=キャリアが変わる」ことに敏感に反応するようだ。

 キャリアの価値が、メトカーフの法則で決まる。これはウィルコム、そして携帯電話新規参入組の前に立ちはだかる壁と言えそうだ。ドコモはいうまでもないが、最近ではauも、かなり強力なブランド力を形成している。特にコンシューマー市場では、メトカーフの法則で築き上げられた「既存ユーザーの壁」をどう崩すかが、新規参入組にとって重要なミッションになるだろう。

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