フィンランドのNokiaは5月25日、米国で開催された「Linux World」で、インターネットタブレット「Nokia 770」を発表した(5月26日の記事参照)。Nokia 770はGSMや3Gなどの無線通信方式をサポートしておらず、Nokiaにとっては電話機能を持たない初の情報端末となる。
また基本OSにLinuxを採用した点でも業界を驚かせた。Nokia 770はNokiaの戦略の中でどのような位置付けの端末なのか──。Nokiaのマルチメディア部門 コンバージェンスプロダクト担当副社長ヤンネ・ヨルマライネン氏に聞いた。
ITmedia Nokia 770は、Nokiaにとって初の電話機能のない携帯端末となります。この端末を開発した背景を教えてください。
ヨルマライネン氏 家庭で手軽にインターネット接続したいというニーズが高まっています。リビングのソファに腰掛けてメールを送受信したり、音楽やインターネットラジオを聴いたり、携帯電話で撮影した写真をBluetoothで770に送り、家族や友人と一緒に見る──。そんな利用シーンを想定しています。無線通信技術、インターネット、携帯電話、それにデジタルホーム端末により、生活のさまざまなシーンに応じた適切な端末を提供しようという戦略です。
家庭での無線LANの普及により、市場は整ってきました。Nokiaでは、この“デジタル・ホーム市場”にチャンスがあると見ており、新しいカテゴリと位置づけています。この770を皮切りに、今後も製品を投入していきます。
また電話機能という意味では、現時点ではありませんが、2006年のソフトウェアアップグレードでVoIPをサポートします。これに向けて、近い将来提携を発表する計画です。この時点で同時に、IM(インスタントメッセージ)機能も実現します。
ITmedia Nokia 770ではLinuxを採用しました。この理由は何でしょう?
ヨルマライネン氏 これはポケットに入る小型のコンピュータで、モバイル端末よりもITに近いものです。そこで、それに適したプラットフォームを探したところ、Linux(Debian、GNOME)という結論に達しました。オープンな選択肢であったこと、開発コミュニティとアプリケーションがあることが大きな決め手となっています。
Nokiaでは、開発プラットフォーム「maemo」のソースコードを公開しており、maemo.orgには多くのアクセスがあります。発表して1カ月も経過していませんが、ワープロやゲームなど、すでに100以上のアプリケーションがポーティングされています。
ITmedia この分野ではMicrosoftと対抗するのでしょうか。Nokiaの強みはなんでしょう。
ヨルマライネン氏 タブレットPCと比べると、ポケットに入るという点が異なります。コミュニケーションがインターネットに移行しており、インターネットがコミュニケーションの技術手段として利用されつつあります。Nokia 770は、その交わる点に位置するものといえます。
Nokiaの強みとしては、高品質、小型・軽量といった技術、携帯端末で培った使いやすさを実現するノウハウ、それにNokiaというブランド力です。
ITmedia Nokia 770と同時に、自社特許をLinuxカーネルに開放することも発表しています(5月26日の記事参照)。
ヨルマライネン氏 われわれはこのイベントで、Series 60で米AppleComputerのWebブラウザ「Safari」と同じオープンソース技術を採用することも発表しました(6月13日の記事参照)。
オープンソースの魅力は、技術革新を加速することとコミュニティです。NokiaはこれまでにもSeries 60で開発者を支援してきました。5月25日の発表は、Nokiaの特許をLinuxカーネルを対象に開放するというものです。また、オープンソースに対して訴訟など、敵対的な行為を行う企業に対してNokiaの特許を利用できないようにします。開発者を保護する目的もあります。
第1弾として、Linuxカーネルのみを対象としましたが、今後ほかのオープンソースプロジェクトにも拡大していく予定です。
今回の発表は、Nokiaは、オープンソースムーブメントに賛同しており、その一部でありたいという意思表示です。
ITmedia 10年後、Nokiaは携帯電話メーカーではなくなっているのでしょうか?
ヨルマライネン氏 携帯電話の加入者数はまだ伸びており、今年中に30億人に達すると予測しています。まだ市場はあります。音声は引き続き重要なアプリケーションですが、10年後となると、われわれの製品ポートフォリオにおける携帯電話の割合は低くなり、“スマート携帯端末メーカー”などと自称しているかもしれませんね。
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