規模の大きい潜在需要――モバイルヘルスケア市場神尾寿の時事日想

» 2005年07月29日 12時02分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 7月25日、韓国から携帯ヘルスケア市場のレポートが取り上げられた(7月25日の記事参照)。ヘルスケア市場は「病気の早期発見」の需要もあり、デジタル化が著しい分野の1つ。特にホーム/モバイルヘルスケア市場は今後の拡大が見込まれている。その中で、最も身近なデジタル機器である携帯電話の活用が注目されているのは当然だろう。

 先進国の中でも日本は、高齢化と少子化が同時に進行した結果、今後10年で老老世帯や独居世帯が急増し、老老介護の問題も増える。

 特に地方の高齢化は深刻だ。公共交通機関が整備されていない地方ではクルマしか移動手段がないが、ドライバーが高齢化すれば運転は指数関数的に危険になる。老老世帯は移動の手段を次第に奪われていき、事実上「地続きの離島」に暮らす存在になってしまう。

 このような高齢化社会の中で、モバイルヘルスケアの重要性は高まる。特に地方の独居世帯や老老世帯では複雑な機器の設定・操作は不可能なため、ヘルスケア機器に通信モジュールを組み込み、パッケージ化された製品が必要になるだろう。また携帯電話型ならば、通話機能もあるので、緊急時にコールセンターから安否確認を取ることもできる。

 また、高齢化の影響が著しくないシルバー層にも、ヘルスケアの潜在ニーズはある。特に大きいのがクルマだ。

 繰り返しになるが、地方の移動手段は「クルマしかない」のが実情であり、高齢者世帯が増えればドライバーの高齢化が問題になる。今後、地方を中心に高齢者ドライバーの健康問題が起因となる事故が増加する可能性が高いのだ。

 過日、トヨタIT開発センターの吉岡顕氏と講演でご一緒させていただく機会があったのだが、その席でもモバイルヘルスケアの重要性が話題に上った。

 吉岡氏はテレマティクスのヘルスケア応用について「ヘルスケアはITSが他の分野と融合する最初の例になるかもしれない」と語った。実際、トヨタではテレマティクスサービス「G-BOOK ALPHA」でGPS位置情報付きの緊急通報サービスを標準搭載しており、将来的に生体モニタリングとの組み合わせも考えられる。これはクルマ側からのアプローチであるが、より簡便な方式として携帯電話や、通信モジュール内蔵の専用モバイルヘルスケア機器も考えられるだろう。

現役世代にはヘルスモニタリング

 高齢者向けのモバイルヘルスケア機器/サービスが普及し、低廉化が進めば、それらは現役世代向けにも応用できそうだ。特にニーズがありそうなのが、従業員向けのヘルスモニタリングシステムである。

 中でも規模が大きいのが、職業ドライバー向けだろう。商用車、特に大型車による事故は被害が甚大になりやすく、それゆえにドライバーの健康状況は重要だ。しかし、大型商用車のドライバーが置かれる環境は過酷なケースが多く、「(到着指定時刻に)5分の遅れをしないためにドライバーは命をかけている」(商用車メーカー幹部)のが実態だという。心理的なプレッシャーや長時間労働が当たり前という状況から、一部のドライバーが勤務中に飲酒をし、事故を起こすケースもある。

 現在、商用車向けには燃費改善や業務効率の向上のためのテレマティクスサービスが普及し始めているが、今後、ドライバーのヘルスモニタリングが含まれる可能性がある。また大型商用車による飲酒運転が社会問題化すれば、アメリカの一部の州のようにアルコールモニタリングシステムの実装が義務づけられる可能性があり、そこで商用車テレマティクスや携帯電話のモバイルヘルスチェックが利用される事も考えられるだろう。

 ドライバー以外にも、電車やバスの運転手、建設機器の操作員、高所作業員など健康上のトラブルが大きな事故につながる職種は多い。健康状態の急変や心理的プレッシャーによるパニック状況を検知し、緊急通報する機器/サービスが低廉化すれば、安全性確保のニーズから普及するだろう。

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