筆者が自宅に無線LANを入れた頃には、近所にアクセスポイントは1つもなかったのですが、最近は、いくつか引っかかるようになってきました。マンションに光ファイバーが入って、無線LANルーターを入れている人も増えたようです。東京近郊のベッドタウンでこの状況ですから、なかなか普及してきたといえるでしょう。
これがアメリカになると、昨年ぐらいからものすごい勢いで増えています。4月にシアトルに行ったとき、ホテルの部屋でノートPCの無線LANユーティリティを起動したら、40〜50個はアクセスポイントが見つかりました。ホテルの窓から見えているビルに入っている会社のほとんどが無線LANを入れてる、といった感じです。そのうち“有線でつなぐ”なんていうのは時代遅れになっちゃうんでしょうかね。
さて今回は、「OFDM」について解説します。OFDMはマルチキャリア方式と呼ばれる通信方式の1つで、複数のキャリア(搬送波)を使うことで、より多くのデータを送ることができるようにした通信方式です。
OFDMはIEEE 802.11a/gといった無線LANや、ワイヤレスUSBなどに採用されている変調方式です。携帯電話の世界でも次世代通信技術として注目されており、HSOPAや3.9Gと呼ばれるスーパー3G、4GではOFDMを使うことになるのではないかと見られます(6月17日の記事参照)。
いわゆる波の形としてよく見かけるものは、正弦波(sinカーブ)という波です。これは波の中でも「純粋」な波です。音として聞くと澄んだ感じがします。これに対して、この正弦波と違った形の波を歪み波といいます。実際、世の中にある波のほとんどはこの歪み波です。
電波の話でいえば、変調前の搬送波は正弦波ですが、ベースバンド信号や変調後の変調波はすべて歪み波になります。音声なら、人の声や楽器の音は歪み波です。
不思議なことに、この歪み波は正弦波を組み合わせて「合成」することができます。どんな形の歪み波であれ、それがくり返し起きる「波」になっているなら、合成ができるのです。逆にいうと、任意の歪み波を多数の正弦波に分解できるということになります。
前回、スペクトラムについて話をちょっとしましたが、スペクトラムとは、歪み波を構成するさまざまな周波数の正弦波がどのような強さになっているのかということと同じです。
ちょっと数学的な話をすれば、任意の歪み波は、sinやcosの式で表すことができるということです。これをフーリエ級数またはフーリエ変換といいます(詳しくは後述)。
2つの値しか取らないデジタル信号も、波(方形波)として見ることができます。通常の感覚と違うのは、波として見たときには、1ビットが単位になるのではなく、1と0の組合せが1つの波形になることです。1ビットだけでは、波の一部にしかなりません。1があって、0になって、また1に戻る直前までが1つの波になります(図)。
実際のデジタル信号では、0や1が交互に来るだけでなく、0や1が続くこともあります。しかし波として見たとき、最も周波数が高くなるのは、1と0が交互に続くときです。それ以外の1や0が連続する部分は、周波数が低くなります。周波数とは「1秒間に何回波が繰り返すのか?」ということです。そして、波としては1から0に変化して始めて1つの波になるため、1や0が続いている間は、どんなに長くとも波としては半分にしかなりません。
1と0の組合せの2ビットが波1つになるため、最も高い周波数は、デジタルデータの転送速度bps(ビット/秒)の半分になります。つまり、100kbpsのデジタルデータは、最大で50kHzの波(方形波)になるのです。
ただし、実際のデジタルデータでは、0や1が連続することがあるため、これより低い周波数にもなります。実際にデジタルデータを転送している最中は、周波数が変化しているわけです。
では、このデジタルデータはどのようなスペクトラムを持つのでしょうか? それが下の図です。これは、方形波を構成している正弦波をプロットしていることで得られるものです。前回解説したように、波は、周波数的には上下に広がる性質があり、周波数fの歪み波のスペクトラムは、fを中心として前後に広がります。
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