「汎用充電器市場」の整備が必要では? 神尾寿の時事日想

» 2005年10月11日 10時14分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 先週は多忙を極める1週間だった。IT業界の国内一大イベント「CEATEC JAPAN 2005」が開催された一方で(特集記事参照)、筆者は自動車関連の仕事で4日に名古屋、5日の午後から7日にかけて北海道に出張していた。CEATEC JAPANの会場には数時間しか滞在できず、じっくりと取材できなかったのが残念である。

 週末はITmedia取材班の記事を読んでいたのだが、その中で非接点充電器「Splashpower」に目が止まった(10月7日の記事参照)。最近の出張続きで、増えていく充電器の煩わしさを痛感していたからだ。

増える充電器と、足りないコンセント

 取材7つ道具といえば聞こえがいいが、筆者は普段から多くのデジタル機器を持ち歩いている。まずはモバイルノートPCと携帯電話。これは外出先でのメールチェックや空き時間の仕事に欠かせない。さらにデジタルボイスレコーダーと、コンパクトタイプのデジタルカメラ、iPodは必ずカバンに入っている。そこに追加して、気分次第でPSPかニンテンドーDSを放り込んで一式だ。

 これらの中で、乾電池で駆動するのはボイスレコーダーのみ。他の6つはすべて充電池で駆動する。iPodはPCから充電可能としても、書斎のコンセントには最低でも5つの充電器がセットされているわけだ。さらに自宅にはA4サイズのノートPCとテスト用の携帯電話やモバイル機器もあり、当然ながらコンセントの数は足りない。AVタップを使って、東京電力のでんこちゃんの怒りを買う寸前のタコ足配線をしても、接続しきれない充電器が順番待ちをしている有様だ。

 さらに宿泊を伴う出張では、事態は深刻である。ノートPCはバックアップも含めて2台を持って行く。さらに携帯電話をはじめとするデジタル機器の充電器をすべて持って行かなければならない。しかもずぼらな筆者は、ノートPCの充電器を持って行くのを忘れたり、帰京時に充電器をホテルに置き忘れてきてしまう。今回の北海道出張でも、モバイルノートPCの充電器を自宅に忘れてしまい、バックアップ用に持ち込んだノートPCのお世話になった。筆者の管理不足もあるが、そもそも必要な充電器の数が多すぎるのだ。

 筆者の仕事は特殊だとしても、一般的なビジネスマンならば、携帯電話以外にノートPCやデジタル音楽プレーヤーなど、2〜3の充電器を常に必要とする人は多いのではないか。また、携帯電話やノートPCをよく使うユーザーの中は、充電器も常に持ち歩いたり、自宅以外に置くために追加購入している人もいるだろう。様々なIT機器がモバイル化する中で、見落とされがちなのが「充電器の問題」である。

汎用充電器の後押しに期待

 幸い、携帯電話の充電器は共通化する方向に向かっている。ドコモのFOMAと、W32S/W32H以降のau端末は共通充電器が使用されている。従来のように対応機種の問題がなくなり、自宅用以外の充電器を用意し、クルマの中や仕事先に“置きっぱなし”にしやすくなった。携帯電話用としては市販で汎用タイプの充電器もあるが、純正品が汎用化するのは安心感の点でもメリットが大きいだろう。

 さらにSplashpoweのような非接点充電器が汎用化し、様々なデジタル機器に対応すれば、充電環境は大幅に改善する。1台のフラットベッドタイプの「充電テーブル」の上に、携帯電話やiPod、モバイルノートPCを乗せるだけで充電されるというのは、使い勝手がよいし、見た目もスマートだ。非接点充電の仕様部分が複数メーカーで共通化されれば、レポート記事にあるように「ホテルやレストランのテーブルに充電機能を埋め込む」のも不可能ではない。

 バッテリーへの充電は安全性にも関わるため、携帯電話の世界では「基本的に純正品以外はキャリアとしては認めない。充電機能付きのサードパーティ機器を(キャリア認定品として)販売するハードルは高い」(キャリア関係者)というのが現在の状況だ。市販品の利用は自己責任になるため、慎重なユーザーは購入しづらく、充電器市場の活性化や技術革新が起きにくい。

 また、携帯電話よりも市場規模の小さいノートPC向けは、さらにサードパーティ製品による競争が起きにくく、汎用品や小型軽量など付加価値性の高い充電器市場が生まれない。

 例外もある。アップルコンピューターのiPodでは、サードパーティ製の充電器や充電機能付き周辺機器を、アップルが認定してアップルストアで販売している。これはドコモショップやauショップなどキャリア直営店で、“お墨付き”のサードパーティ製充電器が買えるようなものだ。アップルは以前から周辺機器による「iPodのエコシステム」構築に熱心であるが、こういったサードパーティ製品を後押しする環境整備は、周辺機器市場の活性化にとってプラスであるだけでなく、ユーザーに安心感も提供する。これは重要なことだ。

 モバイル機器が生活の中にあふれる今こそ、ユーザーの「充電環境」を改善する時ではないか。別にコネクター形状を完全に統一する必要はない。サードパーティーメーカーが汎用充電器を作りやすい仕様を整備し、新製品の検証や認定プログラムを積極的に行う。サードパーティメーカーが売りやすく、ユーザーが安心して買える仕組みも必要だろう。しかし、こういった取り組みをする事で、ユニークで魅力的な汎用充電器が多く登場するはずだ。

 あらゆるモバイル機器は充電しなければならず、ユーザーは「たくさんの充電器」に悩まされている。キャリアやメーカーは自社製品のことだけ考えるのではなく、ユーザーを取り巻く“利用環境”の方に目を向けてもらいたい。

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