ソニーにとってのFeliCaビジネス(後編) 神尾寿の時事日想:

» 2005年11月02日 14時04分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 FeliCaの個々の機能に立ち返ってみると、レスポンスのよさや、モバイルFeliCaで効果を発揮するマルチアプリケーションの部分が注目される。だが、今後の発展を視野に入れると、FeliCaのセキュリティ機能の高さを生かした「個人認証」分野での利用も重要になるという。

“FeliCa+PC”で個人認証

 「今では職場や家庭でPCは『1人1台』になってきていますが、一方で情報漏洩のリスクが高まっている。こういった1対1の関係にあるPCのセキュリティロックなどでも、FeliCaは使えます。例えば、FeliCa社員証や(個人の)おサイフケータイを鍵代わりにすることができるのです」(谷井洋二・FeliCaビジネスセンター センター長)

 PCからの情報漏洩を防ぐセキュリティ機能としては、従来からある暗証番号方式の他に、レノボのThinkPadなどが積極的に搭載する指紋認証システムがある。それらに対するFeliCaの優位性はどこにあるのだろうか。

 「FeliCaは認証に使う鍵自体にメモリを内蔵していますから、単体でセキュリティロックをかけるだけでなく、生体認証の情報を保存しておいて組み合わせて使う(二重ロック)など応用性が高い。アプリケーションとしての拡張性がひとつの強みだと考えています」(谷井氏)

 ソニーではFeliCaを使ったセキュリティ機能を普及させるため、VAIOへのFeliCaリーダー/ライター搭載を進めており、2005年冬商戦向けラインアップからはFeliCaリーダーライターをほぼ標準搭載している(4月21日の記事参照)。まずは自社製品からFeliCa機能を搭載し、今後、普及していくおサイフケータイとも連携する環境を作っていく考えだ。

 また、PC以外の分野でもFeliCaを使った電子ロックシステムを訴求していく。すでにオフィスや家の電子ロックシステムは商用化されており、この分野は普及を目指す段階にきているが(3月3日の記事参照)、今後の開拓市場として注目しているのがクルマの鍵だという。

 「まだ、詳しくお話できる段階にはありませんが、クルマ向けの電子錠についてもFeliCaのビジネスがあるのではないかと検討しています」(谷井氏)

コンシューマー向けAV連携で「ソニーの復活」にも貢献

 FeliCaは、鉄道など公共交通や電子決済など“社会インフラ”への普及という、これまでのソニーでは異色のビジネスを成功させてきた。その上で、今後はソニーのエレクトロニクス事業にも積極的に関わるという。

 「これまでのFeliCaビジネスはソニーグループの外を見ていました。交通や決済分野の普及を筆頭に、この分野は成功してきている。しかし、ソニーグループはVAIOやコンシューマーAV機器など(エレクトロニクス分野)が重要なビジネスですので、今後はソニーの他の製品とFeliCaの応用に力を入れていこうと考えています」(谷井氏)

 その第一弾が今冬のVAIOシリーズでの標準採用である。コンシューマー機器への展開はソニーにとって重要だが、そのためには「(社会・生活の)インフラとして普及していないと、お客様がFeliCaを理解できない」(谷井氏)。鉄道や電子決済で普及が進んだからこそ、コンシューマー機器への展開も考えるようになったという。FeliCaにとって新たなフェーズといえる。

 ソニーでは将来のFeliCaとコンシューマー向けエレクトロニクス機器を連携させたヴィジョンとして「NFC」を掲げている。これはFeliCaを認証トリガーとして使い、異なるデジタル機器間で情報のやりとりをするものだ(3月3日の記事参照)

 例えば、写真を撮影した携帯電話をPCにかざせば、その写真データはPCに取り込まれる。プリンターにかざせば、写真はプリントされるというように、デジタルデータの扱いが「物理的に機器をかざす」だけで実現できるようになる。携帯電話だけでなく、デジタルカメラやテレビなども対応していけば、今後のデジタル家電で重要になるUIとユーザーリテラシーの問題解決にも有効だ。

 この分野に詳しい岡田浩・ソニーFeliCaビジネスセンター ビジネス開発担当部長は「NFCはFeliCaと他のP2P通信を組み合わせられるのもポイントです。例えば認証や設定を簡易化する目的でNFC(FeliCa)を使いますが、これだけだと通信速度が424Kbpsしかないので、大容量データの送受信はBluetoothやWiFiを使う仕組みです。認証設定はNFCで終わっていますから、ユーザーは(BluetoothやWiFiの)設定の難しさを感じずに、データのやりとりが実現できます」と話す。

 NFCの研究開発はかなり進んでおり、それほど遠くない時期に商用化も可能だという。むろん、その際にはおサイフケータイの活用も視野に入ってくる。「『簡単設定』のようなアプリをダウンロードすれば、携帯電話とデジタル家電が“かざすだけ”で連携する。そういった世界も夢ではない」(岡田氏)

 「FeliCaのコンシューマー機器への展開は我々にとって非常に重要です。まずはVAIOに(FeliCa対応機能を)入れました。今後はソニーの各部門に働きかけて、デジタルカメラやテレビにもFeliCaを入れていきたい。連携する相手が増えることで、FeliCaの可能性は広がりますから」(谷井氏)

 現在のソニーにとって、エレクトロニクス分野での復活は至上命題だ。特にデジタル家電分野は今後、「高度化した機能やサービスをどれだけ使いやすくするか」が重要な課題になる。FeliCaを使ったNFCは、UIの改善という形で今後ソニーの強みになる可能性がある。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.