第3世代携帯電話のほとんどが、SIM(USIM)と呼ばれるICチップに契約者情報などを格納していることはあまり知られていない。FOMAの場合「FOMAカード」、ボーダフォンの場合「USIM」、KDDIの場合「au ICチップ」と呼ばれているものがそれだ。
SIMは海外のGSM圏では日常的な存在で、別の端末にSIMを差し替えることで機種を変更できる。こうした仕組みがあるからこそ、海外では携帯キャリアの契約と端末の販売を別々に行えるわけだ。
日本では、契約者情報の格納が主目的のSIMだが、海外ではSIM内のメモリに各種の情報を記録できるようにしようという動きがある。そしてついに“1Gバイトのメモリを持つSIM”というものも現れた。
ICチップ市場で27.1%のシェアを持つ仏Gemplusは、128MバイトのSIMカードを仏Orangeに納入すると発表した。同社は2008年には1GバイトまでSIMメモリ容量を拡大する方針だ。その狙いは何なのか。
「個人情報やユーザーがダウンロードしたデータを、大容量メモリのSIMを使えばうまく移行できる。例えば、機種変更のときに、せっかく集めたデータを新しい機種に移すのは難しい。ショップで移しても、多くのコンテンツが失われてしまう。また作業に40分かかることもある」
そう話すのは、ドコモやボーダフォン向けのSIMベンダーでもある日本ジェムプラスのテレコム事業本部長、クリストフ・ランビノン氏だ。同氏はさらに4月に施行された個人情報保護法の影響も指摘する。
「データ移行時に、ショップはユーザーデータをどう扱うか。保証ができるのか。携帯電話内のデータは個人情報そのものだが、同法の施行によりキャリアの制約事項が増えた」
ランビノン氏が挙げる、もう1つのSIMの活用法が通信キャリアによる端末メニューのカスタマイズだ。「SIM内にメニューのユーザーインタフェースを保存することで、オペレーター独自のカスタマイズを施せる」
そもそも通信キャリア自体が端末を開発・販売している日本では、キャリア独自のメニューは当たり前。しかし全く同じ端末を複数のキャリアが利用する海外では、こうしたSIMによるメニューカスタマイズの需要がある。
しかし、今後国内でもMVNOなどが広まるに従い、こうしたSIMの利用法の意義が高まっていくだろう。数千のロットの端末でも、独自の仕様にできるからだ。
数々の可能性を持ったSIMの新機能。しかしすぐに導入が可能というわけではない。まずは端末側の対応が必要だからだ。
仏Orangeの例では仏SAGEMが対応端末を投入した。これがGemplusの新型SIMに対応した初の端末となる。「すぐに別のアジアの端末メーカーが対応する予定だ」とテレコム事業本部のオリヴィエ・ジュバノンマーケティングディレクターは話す。
具体的には、端末側はSIMとの高速インタフェースの実装が必要だ。これまでのSIMは容量が64Kバイト程度だったため読み書き速度が遅かった。新しい方式としてGemplusが提唱するのが「HSP」だ。ETSI(European Telecommunications Standards Institute:欧州電気通信標準化機構)で標準化を進めており、3GPPなどにも提案される見込みとなっている。具体的にはメモリカードのMMCと同じプロトコルを使う。
これにより、SIMに格納した動画や音楽などを直接読み出して再生することが可能になる。
日本では端末にSIMを使うのが当たり前になってきたばかり。ランビノン氏は、「次世代のSIMのサービスがやっと整ってきた。日本のキャリアも移行するいい時期だ」と今後の期待を話した。
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