QualcommはCDMAだけの会社ではない――CEOジェイコブス氏語る

» 2006年01月20日 13時36分 公開
[吉岡綾乃,ITmedia]

 1月19日、米QualcommのCEOであるポール・ジェイコブス博士が来日したことに合わせ、クアルコムは記者懇親会を行った。

 ジェイコブス氏は、Qualcommの創業者であるアーウィン・マーク・ジェイコブス氏の息子である(2005年3月9日の記事参照)。クアルコムジャパン会長の松本徹三氏は、ジェイコブス氏を「BREWのコンセプトとMedia FLOのコンセプトを産みだし、推進した父」と紹介した。

 ジェイコブス氏は冒頭で「私は米国でVerizon Wirelessのネットワークを利用している。普段利用しているSIMカードを欧州に持っていき、Samsungの端末に差し替えただけで利用できた。日本に来ても、端末はそのままでボーダフォンのネットワークを利用し、北米での電話番号をそのまま使うことができる。cdma2000でもできなかったし、日本ではGSMのサービスがされなかったから、GSMでも無理だった。W-CDMAだからこそできたことであり、それはとてもエキサイティングだ」と挨拶。3G先進国である日本だけでなく、ラテンアメリカや北米、ヨーロッパなど世界のさまざまな地域でW-CDMAが普及しつつあることを紹介した。

ポール・ジェイコブス氏は43歳の若きCEO。学生の頃からQualcommに勤めて開発に携わってきた人物で、Qualcommの社員番号は31番だそう

 ジェイコブス氏は、EricssonやNokiaなど6社の端末メーカーが、Qualcommが3G携帯技術の特許ライセンスに関して反競争的な行為を行っているとして、欧州委員会に対して訴えたこと(2005年10月29日の記事参照)に触れた。

「今回欧州を訪問したのでオペレーターと話したところ、(オペレーター各社が)我々のチップセットを利用することで、端末メーカーが安くいい端末を開発できていることに対して、きわめてポジティブな見方をしていることに安心した。NokiaやEricssonといったメーカーだけでなく、新興の端末メーカーが安く端末を開発できることは、我々のビジネスモデルを採用することによる明らかなベネフィット。我々も彼らから受け取る特許料を次の開発に回すことができ、それをみなさんに役立ててもらえる。いいサイクルが回り始めている」(ジェイコブス氏)

クアルコムはCDMAだけの会社ではない

 ジェイコブス氏が時間を割いて話したのが、同社の802.11nへの取り組みだ。「QualcommはCDMAだけだと思われているが、そんなことはなく、柔軟に取り組んでいる。広域(Wide-Area)の通信や放送だけでなく、WiFi(Local-Area)も8年やってきている」と話し、2006年に登場予定の802.11nでは、MIMOと伝送速度制御アルゴリズムを適用した同社の技術が採用されることをアピールした。

Qualcommの無線技術ロードマップ。広域の通信技術としてはCDMA2000系の拡張規格「EV-DO Rev.A/Rev.B」や、W-CDMA系の拡張規格「HSDPA/HSUPA」が、放送系技術としては携帯向け放送の「Media FLO」などが控えている。このほか、WiFi系技術にも技術提案もしており、802.11nで採用される見込み

 「次に来るのは4Gだと言われるが、必要なのは、ユーザーが必要な時に利用できる使いやすいもの。何か1つベストなものを決めるのではなく、3Gをベースにしながら、必要なニーズを必要なテクノロジーで取り込んでいくことが大事」と話し、説明したのが「MMX(Multicarrier Multilink eXtensions)」だ。MMXではRev.A/Rev.B系技術や、HSDPA/HSUPA系技術、802.11系技術、Media FLOなどいろいろな技術を組み合わせ、使いこなすことを想定している(1月19日の記事参照)

電子ペーパーへの取り組みも

 Qualcommは2004年から2005年にかけて、ディスプレイ技術会社Iridigm Display Corporation(2004年9月10日の記事参照)、GSM向けユーザーインタフェースを開発するTrigenix(2005年8月12日の記事参照)、モバイルコンテンツ配信メーカーのELATA(2005年8月18日の記事参照)、無線ブロードバンド技術開発企業のFlarion Technologies(2005年8月12日の記事参照)など、いくつもの企業を買収している。

 Trigenixの買収は、ユーザーインタフェースを簡単にカスタマイズできる技術「uiOne」(6月3日の記事参照)開発のため、ELATAの買収はuiOneとコンテンツを配信するシステム「DeliveryOne」(2005年8月12日の記事参照)のため、Flarionの買収は自社のCDMA技術にOFDMAを組み合わせるためと想像が付くが、ディスプレイ技術会社であるIridigmを買収した目的は少々分かりにくい。

 ジェイコブス氏はIridigmのディスプレイ技術について「表示を変えるときにだけパワーを使うが、表示しっぱなしであれば非常にローパワーで使えるもの。また、直射日光下で見やすいという特徴がある。実際に商品化して公開できるのはまだまだ先になると思うが、まず2色表示くらいから始めて、フルカラーに移っていくことになるだろう」と説明した。買収の狙いについて「通信ではなく(Media FLOなど)放送を見据えてのもの。携帯放送を考えると、デバイスのバッテリーの問題はとても重要。バッテリー消費で大きいのがバックライトだ。そこで、バックライトを付けずに利用できる反射型の表示技術に目を付けた。例えば、表示したままで利用するコンテンツ、というシーンはあると思う。将来的にうまく使っていきたい」と説明した。

携帯電話にはGPS機能が必要

 KDDIの携帯電話が実現している位置情報を利用したサービスは、Qualcommのベースバンドチップセットに含まれる「gpsOne」というGPS機能を利用したものだ。廉価版からハイエンドまで、Qualcommの通信チップの多くは位置情報取得機能を備えている。

 携帯電話がGPS機能を持つ必要性について尋ねたところ、「米国ではCDMA方式の携帯電話では位置情報を取れることが必須になっている。緊急通報(E911)をするときにも、携帯電話から位置情報を取得するなど、携帯電話のGPS機能は広く利用されている。もともと米国で携帯電話に位置情報取得機能が義務づけられたのは、以前からその必要性を感じていたQualcommが、政府にロビー活動を行い、それが採用されたもの。携帯電話がGPS機能を持つことは必要だし、使い方はいろいろあると思う」(ジェイコブス氏)と話した。

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