新たな時代にメーカーブランド復活もあり得るか 神尾寿の時事日想:

» 2006年01月24日 11時29分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 1月23日、NTTドコモがHigh Tech Computer Corporation(HTC)製のWindows Mobile 5.0搭載端末を発売すると発表した(1月23日の記事参照)。同機はQWERTYキーボードを搭載したスマートフォンで、iモードは非搭載。個人向けではなく、ドコモの法人チャネルに限定して販売される。

 法人限定とはいえ、ドコモがQWERTYキーボード型スマートフォンを投入することは業界内の耳目を集めそうだが、筆者は別の部分にも注目している。それは今回の端末が、ドコモブランドではなく、HTCブランドで販売される“メーカーブランド”モデルであるという点だ。

インセンティブモデルの功罪

 周知のとおり、日本の携帯電話業界ではキャリアがメーカーから端末を買い上げ、インセンティブ(販売奨励金)を付けて安価に売るモデルが慣習化している。

 このインセンティブモデルの功績は、ユーザーの新規加入負担や端末買い換え負担を少なくし、携帯電話サービスの利用を促進してきたところにある。携帯電話普及期には新規加入者を加速度的に増大させ、1999年のiモード移行は日進月歩で進化する新サービスの対応端末を市場にすばやく浸透させていった。また、インセンティブモデルにより、キャリアが独自の高機能化・新サービスを投入しても、メーカーがそれに足並みをあわせて新端末を開発するというオーダーメイド体制ができあがった。

 しかし、インセンティブモデルはメリットばかりではない。インセンティブモデルの弊害は、キャリアとメーカーに依存関係を作り、お互いのビジネスをいびつに拘束してしまったことだ。

 キャリアは契約者数の飽和やARPU向上に繋がるサービス領域が減少する中で、さらなる技術革新や新サービス開発をしなければならず、インセンティブ負担は日増しに大きくなってきている。しかし、これまで続けてきたインセンティブモデルを廃止すれば、ユーザーの反発は必至であり、販売代理店網も破綻する。他キャリアとの競争もある以上、やめたくてもやめられないのが実情だろう。

 一方、端末メーカーは、商品企画におけるキャリアの影響力が大きく、また日本の各キャリア独自のサービス対応に追われるので、グローバル市場を見据えた本来あるべき「メーカーのビジネス」に踏み出しきれていない。日本市場の新規市場が飽和・買い換え主体になる中で、海外の市場規模を狙えなければ、ますます日本市場のインセンティブモデルに依存するしかない。しかし、日本キャリアがインセンティブ負担に耐えかねて、ユーザーの買い換えサイクルを伸ばす方向でインセンティブモデルを見直したらどうなるのか。将来を見据えれば、キャリアのインセンティブに依存する日本メーカーの体質はリスクが大きいと言えるだろう。

メーカーブランドとキャリアブランドの併存を検討する時期

 筆者は日本のインセンティブモデルを全否定はしないが、部分的な見直しは必要だと考えている。特に音声・データ系のサービスが一通り出揃い、フルブラウザや汎用アプリケーション環境が整ってきた今は、いい機会だと思う。

 例えば今回のドコモの発表のように、従来のラインアップとは別にメーカーブランドを導入するというのは、ひとつの選択肢だ。iモードやiアプリといったキャリア独自のサービスには非対応だが、フルブラウザや汎用アプリケーションの利用はできる。キャリアブランド端末との違いは、端末の販売価格と料金プラン、キャリア独自のサービス/アプリ環境の対応、サポート/サービス拠点の違いなどで付ければいい。

 なお、メーカーブランド端末向けの基本料金や音声通話料については、インセンティブ負担がない分、キャリアブランド端末よりも安く設定すべきだ。一方、パケット料金については、フルブラウザ前提のメーカーブランド製端末の方が、定額料金プランがやや高めというのは仕方がないところだろう。

 日本市場でキャリアブランドとメーカーブランドの併存ができるようになれば、ユーザーとメーカーの選択肢が広がる。日本のキャリアは優れた独自サービスを構築しているので、メーカーブランドを導入したからといって、従来のビジネスモデルに大きな影響を受けることもあるまい。むしろ、ハイエンドユーザーや法人ユーザーに対して、新たな市場を提案できる可能性がある。

 今回のドコモの発表は、あくまで法人チャネルに限定したものだが、将来を見据えた「メーカーブランド制」の導入・併存は検討する価値があると思う。

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