子ども向けケータイで新たなUIやサービスを神尾寿の時事日想

» 2006年03月10日 12時16分 公開
[ITmedia]

 携帯電話市場の中で「子ども向け」が活況を呈してきた。これまでこの分野は、安価な端末にセキュリティ機能だけ詰め込んだようなものが多かったが、子ども向け市場の本格化とともに、コンテンツプロバイダや玩具メーカーも“本気”になり始めている(3月8日の記事参照)。今後、ウィルコムや新規参入事業者がMVNOに積極的になれば、バンダイのように自らハードウェアとサービスを一体化させたキッズケータイを投入するケースも増えるだろう(3月1日の記事参照)

 このような動きの中で、筆者が注目しているのが、玩具メーカーやキッズ分野に強いエンタテイメント企業による新たなUIやコミュニケーションサービスの開発だ。特に日本の玩具メーカーやゲームベンダーが持つUI開発の能力とノウハウは、世界的に見ても高い水準にある。例えば任天堂のUI分野における開発能力や独創性は、アップルコンピューターを凌駕するレベルにあると筆者は考えている。「楽しく・分かりやすく、そして新しいUI」の宝の山は、日本のゲームやおもちゃ市場に広がっている。

デバイスやコミュニケーションに欲しい“新たなセンス”

 子ども向け携帯電話市場の拡大とともに、玩具メーカーやゲームベンダーが積極的にキッズケータイ開発に加わることは、携帯電話のUIやサービスの可能性を広げるカンフル剤になる。特に期待したいのは、新たなデバイスやサービスの活用だ。

 例えば先日、ボーダフォンと愛知製鋼が共同開発した「6軸センサー」(2月28日の記事参照)。これはナビゲーション分野など“大人向け”に使うのも便利だが、玩具メーカーが“子ども向け”のUIとして活用するなら、どう仕上げるのか。物理的な動きをUIにする試みは長らく研究されてきたが、大人向けだと受容性の課題があった。しかし、子ども向けで新たなUIとして打ち出すならば、すんなりと受け入れられるかもしれない。

 コミュニケーションサービスも、子ども向けならば新たな可能性が生まれるかもしれない。プッシュツートークやインスタントメッセンジャー、TV電話などは、エンタテイメント性のセンスと価格設定の次第では、子どもの方がうまく活用しそうだ。そこで成功したUIやカルチャーを他の世代にも展開した方が、新たなコミュニケーションは根付きやすいのではないか。

 子ども向け市場で重要なのは、実は金額ベースの規模ではない。そこが新しい価値創造をする上で、良質な場所であるということだ。大人向け市場ほど複雑でないがゆえに、本質的な“楽しさ”や“分かりやすさ”といった、デジタルUIやサービスにとって重要な要素を見いだしやすい。

 バンダイに限らず、多くの玩具メーカーやゲームベンダー、コンテンツプロバイダが「キッズケータイの開発」に本気で関わってほしいと思う。キャリアや端末メーカーも、その動きを後押しすべきだ。ニンテンドーDSやiPodを引き合いに出すまでもない。新たな世代によって磨かれた優れたUIは、圧倒的で破壊的なイノベーションになるのだ。キッズケータイ市場の活性化と切磋琢磨は、日本の携帯電話業界が世界で戦う上での武器になる。

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