ワンセグで利用できるCAS技術を開発──KDDIなど

» 2006年05月17日 14時00分 公開
[園部修、杉浦正武,ITmedia]
KDDIの技術統轄本部 技術開発本部長、渡辺文夫氏。「(新暗号方式である)K2を、実際に実装できるかきちっとやってみようと考えて開発した」

 KDDIとKDDI研究所、NHK放送技術研究所は5月17日、携帯端末や移動体向けの放送型サービスで利用できるコンテンツ保護技術を共同開発したと発表した。ワンセグ上で、ソフトウェアベースのCAS(conditional access system:視聴の可・不可をコントロールするシステム)として活用できる。

 ポイントは、ソフトウェアベースの「ダウンローダブルなセキュリティ」(KDDI)であること。地上デジタル放送で利用されているCASはB-CASカードなどを利用しているが、今回のシステムは追加のハードウェアが必要ない。「米国などでは、ダウンローダブルなシステムが主流になっている。これだとアタック(悪意ある攻撃)を受けても、ネットワーク経由でセキュリティソフトウェアを更新できるというメリットがある」(KDDI研究所の松本修一副社長)

新暗号「K2」でソフトウェアベースのCASを実現

 リアルタイムでストリーミング配信される放送型のサービスを利用し、著作権が保護された映像などを視聴するには、高度な暗号/復号処理を行う必要がある。しかし、モバイル端末の限られた処理能力の中で高度な演算処理を実行するのは難しいという問題があった。このため従来は、「セキュリティ機能をチップ化して、ハードウェア的に解決していた」(KDDI)

 今回開発した技術では、KDDI研究所が開発した携帯向けの暗号アルゴリズム「K2」(3月14日の記事参照)を採用し、携帯端末での著作権保護を実現した。K2は負荷が軽く、かつ高速処理が可能な暗号方式で、端末にK2の復号機能を実装するだけで簡単に対応できるという。

暗号名 高速性 特徴
K2 約5Gbps KDDI研究所と九州大学が新開発したストリーム暗号
MULTI-S01 数百Mbps 乱数生成器「PANAMA」をベースにしたストリーム暗号
AES 数百Mbps 3GPP2の標準暗号化アルゴリズム
KASUMI 約60〜100Mbps W-CDMAの標準暗号化アルゴリズム
KDDIの資料より。いずれもPentium IV/3.2GHz環境でのデータ、K2以外は机上計算結果


 K2によって暗号化されたデータは、ユーザーが端末の通信機能を利用して鍵(ライセンス)を取得すれば復号できる。このため、ケーブルテレビのように事前に契約したチャンネルだけを視聴したり、特定の番組や特定の日時の視聴権を購入するといった利用にも対応できる。

 会場では実際に、ライセンスを取得しない状況から「EZweb経由でライセンスを取得→視聴可能になる」プロセスのデモも行われた。「ワンセグの映像、音楽、データをバラバラに、あるいはまとめて保護できる」(KDDIの技術統轄本部 技術開発本部のメディア技術開発部長、中村博行氏)ため、“音声だけ無料で聞かせて、映像も見たくなったユーザーに有料でライセンスを購入してもらう”というコンテンツの作り込みも可能になる。

Photo
Photo (左)左の端末は、ライセンスがないため番組を視聴できない。右の端末はライセンスがあるため問題なく視聴できている(中央)データ領域からEZwebにアクセスして、ライセンスをダウンロードすると……(右)番組を視聴できるようになった

 KDDIの技術統轄本部 技術開発本部長、渡辺文夫氏は、この技術を使えばユーザーの趣味嗜好にあったコンテンツを推薦することもできると話す。「ライセンスの鍵は、誰か(何らかの事業者)が配信するわけで、その誰かは取得した鍵データとユーザーをひも付けできる。ある番組の鍵を購入したユーザーに、『来週の番組は何時から始まります』というメールを送ることも可能だ。そういうサービスがいいかどうかの議論はまた別にあるとして……」

 なお、今回のデモは「あくまで技術上可能というだけで、ワンセグでやるのか、いつ始めるのかなどは未定」(KDDI)とのこと。同技術を搭載した端末の試作機は、5月25日から28日に開催されるNHK放送技術研究所の一般公開で展示される予定だ。

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