日本市場の“キーボード型スマートフォン”は夜明け前神尾寿の時事日想:

» 2006年06月12日 08時13分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 フルキーボード型端末の市場が、にわかに活気を帯びてきた。6日にウィルコムが新バージョンの「W-ZERO3」(6月6日の記事参照)、7日にノキア・ジャパンがビジネス向けスマートフォンを発表(6月7日の記事参照)。そのフラッグシップとして「E61」を公開した。8日には、NTTドコモが今秋を目処に「BlackBerry」を投入するとアナウンスした(6月8日の記事参照)

 筆者は以前から、日本でもスマートフォン分野、特にフルキーボード型スマートフォンの市場を作っておく必要があると考えている(2005年11月15日の記事参照)。これは北米を軸とする海外において、この分野が「第2のPC」に似た様相を見せ始めていたからだ。日本のメーカーが、海外市場の動きから取り残されないためにも、フルキーボード型スマートフォンが日本市場に投入されることは必要だ。

 しかし、その一方で、日本市場におけるフルキーボード型スマートフォンは、販売面でしばらく苦戦するだろう。日本では、ITに強い一部の大企業を除けば、企業単位でのモバイルデータサービスの活用が始まっていないからだ。むろん、流通系の専用データ端末市場などはあるが、北米のようにホワイトカラー全体にスマートフォンが広がるような状況にないのが現状だ。特にノキア「Eシリーズ」や「BlackBerry」は、企業の情報戦略としての導入が前提になるため、日本企業がその意義と効果を正しく理解できるかが鍵になる。

 IT関連企業を除けば、日本のビジネスシーンでは携帯“電話”以外の使い方があまり開発されてこなかった。メールはむしろ仕事中のプライベート利用や、同僚同士の簡単な連絡といった使い方で留まっているのが現実だ。

日本市場の中途半端さが見られるW-ZERO3

 一方で、国産のフルキーボード型スマートフォンである「W-ZERO3」は、やや中途半端な位置付けにあると言える。

 ウィルコムとシャープでは、W-ZERO3のメインターゲットを“ビジネス市場”に設定している。しかし、ノキアの「Eシリーズ」や「BlackBerry」のように、企業のサーバー連携を必須にするのではなく、PC連携機能によってコンシューマーやビジネスコンシューマー(企業内の個人契約者)でも導入・利用できる。本命はビジネス市場だが、そこにフルキーボード型スマートフォンの市場がほとんど存在しないため、一部のリテラシーの高いコンシューマー層のイノベーターまでターゲットを広げた。だから、商品企画とできあがった製品が、中途半端な印象になってしまうのだ。

 また、「ビジネス向けスマートフォン」として見ると、W-ZERO3には足りない要素もいくつかあると思う。

 例えば、サイズとデザインである。ビジネスパーソンをターゲットにするならば、ギリギリでもスーツのポケットに収まる大きさ・重さにする必要がある。W-ZERO3には、ビジネススーツに対する“こだわり”が感じられない。

 Bluetooth機能が非搭載なのも残念なポイントだ。ビジネス向けで、マルチタスクのスマートフォンならば、「電話をしながらスケジュールやアドレス帳、オフィス文書を確認する」といった使い方が想定される。このような利用シーンでは、Bluetoothヘッドセットなどハンズフリー通話機能が便利だ。

 実際、ノキア製のスマートフォンは、EシリーズなどES (Enterprise Solutions)部門が開発担当する端末では、ほぼすべてがBluetoothを搭載。特にフルキーボード型モデルではBluetoothは“必須機能”といっていい状況だ。

 W-ZERO3のように多機能なフルキーボード型スマートフォンならば、Bluetooth機能を搭載し、純正のBluetoothヘッドセットを標準添付にしてもいいくらいである。

日本市場の“フルキーボード型スマートフォン”は夜明け前

 日本におけるフルキーボード型スマートフォンの市場は、まだ“夜明け前”の状況である。特にビジネス市場は、非IT系企業のホワイトカラーに色濃く残る「電話中心」のビジネス慣習やマインドから変えていかなければならない。これは時間のかかる取り組みだ。

 しかし、海外市場を見渡せば、2006年の段階でスマートフォン市場は全体の10%程度であるが、2009年には20〜30%にまで広がる見込みだ。グローバル市場の母数の大きさと、新興市場におけるエントリーモデルの爆発的増加を鑑みれば、スマートフォン市場の成長率は著しく高い。低コスト戦略で弱い日本メーカーが海外に進出するには、ビジネス向けスマートフォン市場は避けて通れない分野の1つである。

 海外製スマートフォンの参入、そしてW-ZERO3など国産スマートフォンの登場など、日本のスマートフォン市場にもようやく変化の兆しは見え始めた。だが、日本メーカーが海外市場で戦う力をつけるには、「日本のスマートフォン市場」、特にビジネス市場の創出が必要だ。メーカーの努力はもちろん、携帯電話キャリアの積極的な市場開拓とメーカーの後押しに期待したい。

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