“ウィルコムだけ”を積み上げて堅調な成長を目指す──ウィルコムInterview(2/2 ページ)

» 2006年06月26日 18時47分 公開
[神尾寿,ITmedia]
前のページへ 1|2       

W-ZERO3の狙いは法人市場にある

Photo

 ウィルコムの堅調な成長をマクロ的にみれば、マイクロマーケットを開拓するという手法の奏功があった。そして個々の取り組みで興味深かったのが、「法人市場」での成功だろう。ここでは音声定額が支持されて、毎月の純増数の半分近くが法人契約という状況になっている。

 だが、喜久川氏は「法人市場では逆風もあった」と話す。個人情報保護法の影響である。

 「データ通信のAir H"では、個人情報保護法への社会・企業の過剰とも思える反応があり、我々の想定以下の伸びになってしまった。しかし、『PCを持ち歩く』ニーズはお客様の側には強くあるのです。インターネットやイントラネットにモバイルでもアクセスできることは、生産性を向上させるために重要ですので、(個人情報保護法に対応しつつ)それを実現するためにW-ZERO3を投入したという背景があります」(喜久川氏)

 W-ZERO3は一部のコンシューマーやビジネスコンシューマーの間で人気になっているが、ウィルコムが想定しているメインターゲットは、企業の社内ネットワークにアクセスするエンタープライズ分野での活用だ。ノートPCの代替を考えれば、大きな液晶とQWERTYキーボードの搭載、マイクロソフト製OSの採用はメリットになる(6月16日の記事参照)

 しかし、海外市場におけるNokiaのEseriesのように、企業のエンタープライズ分野に訴求できているかというと「いまだできていないのが現状」(同氏)だという。

 「W-ZERO3はプロダクト(製品)側が先に出てしまって、ネットワークへのセキュアなアクセスという部分の訴求が遅れていました。本来は法人向けモバイルソリューションの中での端末なわけですが、今はW-ZERO3だけがフォーカスされてしまっている。ですから、簡単にイントラネットにアクセスするためのツールが必要で、これをアプリケーション込みで今夏までに提供していきます。ここからやらないと、(W-ZERO3の)企業での大規模導入は始まらないと考えています」(喜久川氏)

 これは他社のスマートフォンも同様であるが、日本の法人モバイル市場は、一部のIT関連企業や外資、流通系を除けば音声通話が中心だ。和製スマートフォンであるW-ZERO3を投入するウィルコムも、市場開拓からの取り組みが続く。

 一方で、同社の大きな強みになっているのが、音声定額で従来からの法人ニーズを獲得できている点だ。

 「我々の特徴は『070なら定額になる』と言えることです。1つの企業がウィルコムの音声定額に入ったら、そこと繋がりのある関連会社や取引先も(音声定額を訴求する事で)ウィルコムに契約していただける。ここは当初から狙っていたのですが、(音声定額によって)法人市場でウィルコムがブランドを確立できました。

 現状では音声定額とW-ZERO3で(法人市場向けラインアップを)二極化しているので、その中間を埋めるものが必要だと考えています。その際のアプローチはW-ZERO3的なもので、さらにスモールサイズにしていくというものになるでしょう」(喜久川氏)

ウィルコムにとっての番号ポータビリティ

 携帯電話キャリアではないウィルコムは、現時点で番号ポータビリティ(MNP)には参加しない。しかし、6月6日に行われたW-ZERO3(WS004SH)の発表会で、ウィルコムの八剱洋一郎社長が「(MNPへの)参加の意思表示ができるならぜひしたいと考えている」と話すなど、MNPには並々ならぬ関心があるようだ(6月6日の記事参照)。ウィルコムはMNPをどのように捉えているのだろうか。

 喜久川氏はこれについて「現段階で述べますと、我々はMNPに参加できませんから、『影響を受けない』ということになります。もちろん、MNPに参加できないことによる潜在的なデメリットはあります。もしウィルコムが参加できれば、携帯電話キャリアからウィルコムに移ってきてくれるユーザーの増加が見込める。チャーンイン(移り気で頻繁にキャリアを変更するようなユーザーの獲得)の面では(MNP不参加は)マイナス要因なのですが、そもそも我々はMNPに参加できないことを前提に今のビジネスを構築しているので、これは『チャンスがすこし少なくなりましたね』というレベルでしかない」と話した。

 もちろんMNPに参加しないメリットも、ウィルコムには存在する。音声定額の訴求という点である。

 「これは法人市場で特にそうなのですが、我々は070という携帯電話と違う番号を使い、『070なら音声定額』でプロモーションしやすい。この070定額を訴求する上では、MNPに参加しないことがメリットとも言えます」(喜久川氏)

 一方で、ウィルコムから携帯電話キャリアに乗り換えられてしまうチャーンアウトについては、「我々は独自性を強みにしているので、(MNPに参加しても)その心配はない」と自信を見せる。

 「とはいえ、MNP参加にともなう設備コストをウィルコムが負担できるかというと、コストの問題が生じます。(携帯電話キャリア同士の)MNPによって市場が活性化されて、ユーザーがキャリアをきちんと選ぶようになる方が、ウィルコムのポジショニングからするとメリットがあることだと考えています」(喜久川氏)

“ウィルコムだけ”を積み上げていく

 独自性のあるサービスを武器に、確固たる地歩を確立したウィルコム。同社は今後、どのような方向を目指すのか。

 「W-SIMも含めてプロダクトとしての多様化をもっと進めていきたいですね。また、我々が独自性を打ち出すマイクロマーケットの数を増やしていく。例えば医療系とか、テレメトリングのようなM to M(Machine to Machine)とか、それぞれの分野にあったプロダクトを提供して取り込んでいきたい。小さなドメインをたくさん作り、もしかしたらそれが連携していくかもしれない。料金面では定額制が一番わかりやすいですから、これも充実させていきます。これらの取り組みができるのはウィルコムだけですから」(喜久川氏)

 その是非は別として、日本の携帯電話キャリアは同質のビジネスモデルとコスト構造の中にあり、マスマーケティングの軛から逃れられない。その中でウィルコムは、既存キャリアとは異なるインフラを武器に、マイクロマーケットの開拓という「携帯電話キャリアに難しいビジネス」を着実に実現させてきている。1つ1つは小さいかもしれないが、その積み重ねは、モバイルビジネスの拡大にとって無視できない存在といえるだろう。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.