急速に、かつ着実にリファインした“esの可能性“ 神尾寿の時事日想:

» 2006年07月05日 16時02分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 7月4日、ウィルコムとシャープ、マイクロソフトの3社がWindows Mobile端末新商品「W-ZERO3[es]」(ダブリューゼロスリー エス)の発表を行った(7月4日の記事参照)。国産では唯一のQWERTYキーボード型スマートフォンとして注目の一台である。

 今回のesを一言で評するならば「リファイン(洗練)」だろう。先代W-ZERO3は良くも悪くもPDAライクであり、スマート“フォン”と呼ぶにはためらわれた。吉岡記者の「萌えない」発言(2005年10月21日の記事参照)には、その率直な感覚が現れていたと思う。少なくとも、多くの一般携帯ユーザーが「本能的に欲しい」(7月4日の記事参照)と感じるには無理がありすぎた。ITリテラシーの高い一部のユーザーが、理詰めでその価値を見いだす端末だったのだ。

 しかし、esは違う。筆者の目には、これはスマートフォンだと素直に映る。全体的な小型化を行い、テンキーを備えたことで、携帯電話らしいルックスを手に入れた。大きめのハイエンド端末といっても無理がないデザインとクオリティになったと言えるだろう。

 機能面でのリファインもしっかりと行われている。その中でも注目は、日本語入力ソフトにATOKが採用されたことと、独自のメールソフト「W-ZERO3メール」が用意されたことだろう。メニュー構成などはWindows Mobileそのものであるが、使い勝手の面では一般的な携帯電話に近づいてきている(7月4日の記事参照)

 また拡張性が重視されたのも今回のポイントだ。特にプロジェクターへの対応とワンセグチューナーのラインアップは、ユーザー層の幅を広げる上で効果的である。

 W-ZERO3シリーズはesの投入により、一般ユーザーへの訴求力を増した。コンシューマー層向けとしては厳しいが、PCを日常的に使うビジネスコンシューマーや法人ユーザー向けとしては、かなり魅力的な端末に仕上がっていると思う。

UIは日本市場にあわせたものを検討すべき

 一方で、Bluetoothと無線LAN機能までもがオプション扱いになったのは残念だ。特に前者は、ハンズフリー通話やPC連携を鑑みれば、スマートフォンには必須の機能といえる。後者もエンタープライズ分野での活用を考えれば、内蔵してほしい機能だろう。今回、デザインやサイズを重視したのは正しいが、次期モデル以降はデザイン重視を継続しながら、Bluetoothと無線LANの内蔵にチャレンジしてほしい。

 またUIも、さらなる改善と洗練に期待したい部分だ。これはノキア製のスマートフォンに対しても感じるのだが、日本と欧米では、スマートフォンに求める機能やデザイン性が異なる。日本市場向けのスマートフォンには、日本の利用環境やユーザーリテラシーにあったUIが必要だ。esを始めとするW-ZERO3シリーズは、日本メーカーのスマートフォンでありながら、Windows MobileのグローバルなUIを日本語化しただけでそのまま搭載している。せっかくの日本メーカー製なのだから、UIもすべてシャープが「日本向け」に作り込んでほしい。彼らにはザウルス時代から培ったPIMのノウハウがあり、コンシューマー向け携帯電話のUI作りにも実績がある。それらを注ぎ込めば、W-ZERO3のUIはもっと一般ユーザー向けになるはずだ。マイクロソフトも、PC向けWindowsのようにグローバルでUIを統一するのではなく、モバイル分野は各地域市場・メーカーの自由な作り込みを支援すべきだろう。

継続的なリファインに期待が高まる

 esの投入で筆者が感心しているのが、先代W-ZERO3発売から短期間にも関わらず、全般にわたってリファインされていることだ。ある程度開発期間は並行したのだろうが、W-ZERO3発売後のユーザーからの要望まで改善されているのは高く評価できる。ウィルコム・シャープ・マイクロソフトの3社が、W-ZERO3シリーズに積極的な姿勢で臨んでいるのは間違いない。

 esが市場でどう迎えられるかは発売されるまで分からないが、W-ZERO3シリーズは「日本のスマートフォン」として、新たな市場を切り開いてもらいたい。特に日本ではコンシューマー/ビジネスコンシューマーの層が厚く、様々なサービスへのニーズが高いので、esの後継や派生モデルのラインアップを厚くして、日本市場における“本流のスマートフォン”を模索・開拓していってほしいと思う。継続的なリファインを期待を持って見守りたい。

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