きちんと使えるものを、適切な時期に──カシオが考える腕時計型デバイスの未来携帯+腕時計の未来を探る(3)(1/2 ページ)

» 2006年07月06日 21時36分 公開
[江戸川,ITmedia]

 モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)の中でBT Watchに取り組むサブワーキンググループには、シチズン時計、セイコーインスツル、セイコーエプソン、そしてカシオ計算機が参加している。いずれのメーカーも腕時計型の新商品を開発するにあたってBT Watchに期待するものの、その足並みが揃っているとはいえないようだ。中でもカシオ計算機は、この市場を冷静に見ている。

 同社は1998年にリリースしたPCリンクウォッチ「PCクロス」を皮切りに、99年にはGPS内蔵ウォッチ、2000年には腕時計型MP3プレーヤーや腕時計型デジタルカメラを投入するなど、さまざまなジャンルの製品を開発してきた。その時々の市場のニーズを捉えながら、それなりの成功を収めてきた経験を踏まえて、BT Watchの投入時期を見定めている。

 「現在はまだ商品を出す時期ではない」──。こう話すカシオ計算機の開発担当者に話を聞いた。

Photo 1998年にリリースしたパソコンリンクウォッチ「PCクロス」
Photo 2000年にリリースした腕時計型MP3プレーヤー「リストオーディオプレーヤー WMP-1V」と腕時計型デジタルカメラ「リストカメラ WQV-1」

リストカメラ誕生秘話

 カシオ計算機は、「QV-10」で初期のデジタルカメラ市場を牽引した第一人者として知られる。デジタルカメラの高性能化、小型化技術の集大成をリストカメラ(2001年6月の記事参照)で実現したのかというと、実はそればかりが理由ではなかったと、開発本部時計統括部の第一企画室リーダー、奥山正良氏は当時を振り返る。

 「リストカメラを発売する前に、若い女性の間ではレンズ付きフィルムやプリクラがちょっとしたブームになっていました。写真を撮って家庭で保存するというのではなく、写真を持ち歩くというようにスタイルが変化していたのです。画像を通じたコミュニケーションの文化ができあがっている中で、“ふだん身に付ける腕時計にカメラを搭載するのはどうだろうか”というのが、リストカメラを開発するに至った経緯です」

 リストカメラについては、こんなエピソードがある。洋楽ファンならずともおなじみのビートルズ。そのメンバーのポール・マッカートニー氏が、この初代リストカメラを入手したのだ。同氏が撮影した画像は、2001年に発表されたアルバム「Driving Rain」(ドライヴィング・レイン)のブックレットの中に掲載されている。

Photo 「人々が使って便利なものを腕時計の形の中に押し込んでいき、新しい市場や新しい使い方を提案したい」と話す奥山氏

「写メール」登場で役割を終えたリストカメラ

 同社のリストカメラは、3機種登場している。モノクロカメラ・モノクロ液晶を搭載する初代。カラーカメラ・モノクロ液晶の2代目、そしてカラーカメラ・カラー液晶の3代目である。いずれも全世界で販売され、一定の成功を収めたという。

 そんなリストカメラの役割に終止符を打ったのは、当時の「写メール」に代表されるカメラ付き携帯電話だ。携帯電話は腕時計のように身に付けているわけではないが、常に持ち歩くという点では同じ。これまでの画像コミュニケーションを、遠く離れた友人とも交わせるようになるという携帯電話の進化が、リストカメラに求められていた役割に終止符を打った。

 カシオ計算機はデジタルカメラや携帯電話の主要メーカーでもあり、最後までリストカメラにこだわる必要はなかったということだろう。ニーズの変化に敏感で、引き際を間違えないということも同社の強みの1つのようだ。

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