変われないワンセグと、その中でのMedia FLOの意義 神尾寿の時事日想:

» 2006年07月20日 11時17分 公開
[ITmedia]

 7月19日、ワイヤレスジャパン2006が開催した(特集参照)。筆者は初日にカンファレンスの講師を担当していたこともあり、昨日、取材も兼ねて参加してきた。

 今年はMNP直前の開催であるためか、各キャリア・メーカーともに新端末や新サービスなど直近の展示に力が入っている。その中でも、明らかな傾向として感じたのが、「ワンセグ」の普及が確実視されてきたことだ。ワンセグがトリガーになり、映像コンテンツのニーズが高くなる。それを前提にしたデバイスやサービスの展示が多かったのが印象的である。

 もちろん、温度差はある。シャープなど家電系端末メーカーやメディア連携を重視するKDDIが早期のワンセグ普及に肯定的なのに対して(7月19日の記事参照)、ドコモやドコモに近い通信系メーカーは現在のワンセグにやや慎重な姿勢だ。今年3月のNTTドコモの社長定例会見で社長の中村維夫氏が述べたように、現在のワンセグ対応携帯電話が「テレビ受像機と変わらない」(同氏)状況への不満が窺える。特にドコモは、iモードという巨大なコンテンツプラットフォームを所有するため、ワンセグの中身が“固定テレビと同じ”ではiモードモデルに組み込みづらく、受け入れにくい。iモードとの共存共栄を考える上でも、2008年のサイマル放送解除に期待しているようだ。

ワンセグの広がりが非サイマルを阻害する

 しかし、ワンセグが2008年に非サイマルに一気に転換するかというと、それは難しそうである。大きく2つの理由がある。

 1つは市場が「サイマル放送のワンセグ」を受け入れ始めていることだ。過日、日経デジタルコアの勉強会に講師として招かれたときに、イプシ・マーケティング研究所社長の野原佐和子氏と同席したのだが、同研究所の調査によるとユーザーのワンセグ視聴意向は現時点で52.5%あるという(7月7日の記事参照)。その結果を受けて野原氏は、「ワンセグはTV電話やおサイフケータイよりも(ユーザーの)ニーズが高い」と述べた。

 また筆者が定期的に行っている携帯電話販売店との意見交換会でも、ワンセグは「売りやすい商材」(大手販売店幹部)だ。プッシュトークやおサイフケータイはもちろん、リスモなど音楽ケータイと比べても説明がしやすく、お客様の理解と納得が得やすい。その中でも重要なのが、固定テレビと同じというのが、説明しやすいポイントなのだという。このようにユーザーと販売店は、今のワンセグをそのまま受け入れていきそうである。

 そして、もう1つの理由が、ワンセグの広まりが携帯電話以外のモバイル端末で広まっていることだ。話題になっているのは任天堂のニンテンドーDSなどポータブルゲーム機やマルチメディアプレーヤーでの対応だが、むしろ影響が大きいのがカーナビゲーションでの採用が進んでいることである。

 カーナビ分野での地上デジタル放送対応では、画質の良い12セグ対応が一般的である。このスタンスは今も変わっていないが、もともと固定テレビ向けの12セグをクルマで受信しようとすると受信可能エリアは限られる。そのため現在は、12セグ受信ができないエリアでは自動的にワンセグ放送に切り替わる仕組みが用意されている。これは特に移動中のテレビ視聴を楽しむリアエンタテイメントシステムでニーズの高い機能だ。例えば、パナソニックオートモーティブシステムズの「ストラーダFクラス」では2006年モデルで12セグ/ワンセグのチューナーユニットを標準装備。生産が追いつかないほどの人気になっている。他のカーナビメーカーは地デジチューナーをオプション設定するが、来年にはワンセグ対応込みで標準装備になっていくだろう。

 これら携帯電話以外のワンセグ対応機器は、“固定テレビと同じ番組が見られる”ことをセールスポイントとしている。特にカーナビは12セグ受信との自動切り替え・補完的な利用になるため、固定テレビとワンセグの内容が完全に一致している必要があるのだ。非サイマル放送はニーズがあるどころか、むしろ不要な存在と言える。

普遍化するワンセグの代わりに、Media FLOという選択肢

 現在の市場環境を鑑みると、ワンセグは今後、様々なモバイル機器向けに「固定テレビ向け放送と同じ」ものとして普遍化していく。そのニーズは確かに大きく、重要なサービスになるだろう。だが、それゆえにワンセグは変われない可能性が出てくる。

 しかしその一方で、モバイル向け放送サービスが、サイマルのワンセグ放送だけで終わるのもつまらないと思う。液晶やオーディオ環境などはワンセグの牽引によって進化するのだから、それを活用する映像サービスは多様化した方がいい。普遍化するワンセグを軸として、携帯電話向け放送・映像サービスの裾野を広げる別のアプローチがあってもいいだろう。

 この分野で筆者が注目しているのが、クアルコムが提案するMedia FLOだ(2005年2月19日の記事参照)。これは多チャンネルのリアルタイム型とクリップキャスト型という異なる放送サービスを組み合わせられるものであり、データ配信やオンデマンド配信との親和性も高い。モバイルのセンスを持つ放送サービスの選択肢として、興味深いものである。今回のワイヤレスジャパン2006でも、クアルコムブースでMedia FLOの放送デモンストレーションが行われているが、画質やレスポンスが極めてよいのが印象的だった。日本でMedia FLOの実働デモが見られる機会は少ないので、来場したら足を運んでみる価値はあるだろう。

 「ワンセグから始まる放送・映像サービス」という切り口は、今年のワイヤレスジャパンの興味深い切り口のひとつだ。ほかにも、「おサイフケータイ」や「スマートフォン」というテーマでも、将来を考える上で重要な展示が数多くあった。ITmediaでも順次紹介されるだろうが、できれば会場を訪れて、自らの目で見て触ることをお勧めする。

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