ブロードバンドの進展でインターネットビジネスが本格化するという言葉がもはや絵空事ではなくなった。IT企業が相次いでプロ野球界に新規参入したことも無関係ではない。ネットバブル崩壊から数年を経て、基盤を強固にした企業が多い。その1つがアマゾンジャパンだ。送料無料など、充実したサービスで書籍をはじめさまざまな商品販売で存在を確立した同社社長に聞く。

ITmedia インターネットビジネスとして、アマゾンは2004年はどのようなコンセプトで市場に臨みましたか?

チャン 非常にエキサイティングな年でした。過去3年間は、ビジネスの基礎作りと位置づけており、それをベースに、2004年は基礎を越え、新しいビジネスやカテゴリーに注力できた年でした。2003年に、電気製品やホームアンドキッチンなど、本やCDなどのメディア以外の製品の取り扱いをはじめました。さらに、2004年には玩具も加え、従来のメディアだけでなく、一般的な商品の提供の提供も充実させることができました。

 また、携帯電話を利用したショッピング環境の強化など、システム面での取り組みも進めることができました。日本の携帯電話の浸透度を考えると、重要な取り組みだと考えています。

地球最大のセレクションを

ITmedia 消費者が求めるものを提供する上で気をつけていることはありますか?

チャン アマゾンには使命があります。1つは、地球最大のセレクションを持つストアになること。もう1つは、最も顧客のニーズを考える企業になることです。これを実現するために、日本の産業構造の把握など、ローカルマーケットの研究をしっかり行います。また、われわれには380万人のアクティブカスタマーがおり、その顧客からのフィードバックを大切にしています。

 3つ目は、われわれのグローバルな経験を生かすことです。米国の商品ラインやノウハウ、さらには、採用しているテクノロジーなどを参考にし、顧客がよりよいショッピング体験ができるようにしています。

 こうしたプロセスにしたがってビジネスを進めたことにより、さまざまなことが実現したことに満足しています。将来的には、商品ラインなどにおいて、米Amazonとの間のギャップを徐々に埋めていくという方向性でビジネスを行います。

在庫管理も緻密に

ITmedia 日本で成功した要因をどう考えますか? 市場の研究や情報システムへの取り組みなどについて教えてください。

チャン 3つの戦略が世界共通で定められており、日本もこれに従っています。ここでも、最大のセレクションが柱の1つです。日本でビジネスを展開したときも、和書と洋書を合わせて170万アイテムをそろえました。当時は競合はいませんでしたので、全く異なるショッピング体験を顧客に提供できました。4年続けることにより、今は700万アイテムにまで増加しています。


セキュリティ投資はしっかりと行っているとチャン氏。代引きの利用者は必ずしも減っておらず、決済方法への好みもあると話す。

 2番目は低価格での商品提供です。日本の書籍店では定価以上の価格で売られている洋書をわれわれは割引して販売し、割引が難しい商品では、送料を無料にするといった手法で対応しました。DVDや商品券による割引など、ほかの商品でも同じような取り組みを行いました。

 そして、戦略の3つ目は利便性の向上です。各カテゴリごとに、製品を提供してくれる複数のサプライヤー企業とビジネスをすることで、高い在庫水準を維持できます。サプライヤーや運送会社とはオンラインでシステムが連携していおり、われわれに入った受注情報は、そのまま運送会社にも流れます。データを透明化したことで、業者側もリアルタイムに情報を得ることができることで、すばやい対応が可能になったのです。

 ただし、それでもスピードの問題はありました。参入当時は業者の在庫に依存しており、自社在庫を抱えることに消極的でした。業者の倉庫から商品を発送するには2〜3日のリードタイムがかかりますが、もし、自社で倉庫を持っていれば数時間で出荷できます。そのため、われわれは注文パターンを分析し、動きの早い在庫と遅い在庫などに分け、それぞれに対して在庫方針を立てました。

 さらに、過去データからの需要予測も行っています。たとえば、あるページに対する訪問者と、実際に商品を購入した人数の割合を把握することで、適切な在庫水準を割り出します。

ITmedia 米国と日本におけるインターネットビジネスの違いを何か感じていますか?

チャン Amazonは1995年の設立され、10歳を迎えようとしています。顧客のニーズなどについては基本的に世界のどこでも変わらないと考えています。ただし、違っている点も認識しています。たとえば、決済手段や配送などです。米国ではクレジットカードと小切手、欧州はこれに銀行送金が加わります。一方、日本はクレジットカードとキャッシュが主な決済手段であるため、代引き販売も行っています。さらに、携帯電話による決済、コンビニエンス配送もほかの国にはないサービスです。

書籍市場もオンラインは順調

ITmedia Webサイトを支える情報システムに関するIT戦略はありますか?

チャン あります。1つは自社のプラットフォームの改善を続けることです。もう1つは、Amazon Webサービスです。これは、Amazonのサイト機能やコンテンツを第3者が自分のWebサイトに組み込み、無料で利用できるサービスです。

ITmedia 書籍市場はここ数年あまりいい状況ではありません。インターネットでビジネスを展開する立場からはどのように見えますか?

チャン 確かにあまりよくありません。2003年は、ハリーポッターの成功でようやく少し持ち直した状況です。ただし、オンラインのブックストアは確実に成長しています。インターネットによる購買の利便性の特徴である検索性をさらに拡張して、アマゾンでは過去の購買履歴から、消費者の「おすすめアイテム」を提示しています。

ITmedia RFIDを活用した在庫管理などを将来導入することを考えていますか?

チャン われわれもほかの小売業と同じように、サプライチェーンマネジメントを戦略的に非常に重要と考えています。そのため、既存のビジネスモデルに合った技術が何かをいつも考えており、将来的に検討するかもしれません。

ITmedia 2005年の展望は?

チャン 今までやってきたことを引き続き行います。アマゾン全体というよりは、書籍や音楽など、それぞれのカテゴリーの顧客の満足をもっと考えていきたい。また、選択肢の増加を図るために、技術革新にも取り組みます。

神戸と東京合わせて10年になります。個人的には神戸が好きですが、常に何かが動きいている東京も楽しい。日本人の人を暖かくもてなす姿勢に感動しています。クリスマスから正月にかけて、カナダのトロントへ戻り、家族と話をしたり映画を見たりします。

[ITmedia]

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