企業の日常業務はますます、デジタル化されたデータに依存するようになっている。2005年に施行となる「e-文書法」は、その動きをさらに促進することになるはずだ。ストレージベンダーから情報企業へと進化を続けるEMCに、企業と情報の関係について語ってもらった。

ITmedia この1年を振り返ってみていかがでしたか?

フィッツ ストレージ業界全体も成長しましたが、EMCはそれ以上のスピードで成長を遂げることができました。また、新たな顧客もいくつか獲得することができ、EMCはストレージ業界における位置をさらに確かのものにできたと考えています。

ITmedia 情報が作られてから保存されるまでのステップに応じて最適なストレージインフラを組み合わせるという「Information Lifecycle Management(ILM)」というアプローチが浸透してきたことも大きな要因でしょうか?

フィッツ 過去18〜24カ月にわたってILMを提示してきましたが、顧客側の反応は非常にいいものです。今年前半に行った調査では、回答者の75%が今後2年間のうちにILMを実施したいと述べています。また、既存の顧客以外の人々もILMに興味を抱き、実装したいという意向を示しています。

ITmedia ILMがもたらすメリットとは何でしょう? 改めてお聞かせください。

フィッツ 一言で言えば、ITインフラを簡素化し、情報の持つ価値とビジネス上の価値との連携をとらせる、ということです。たとえば電子メールですが、未読のメッセージと届いてから2週間目のメッセージでは価値が大きく異なります。後者の場合、参照する頻度は非常に少なくなるはずです。そこで、情報の価値が下がるに伴って、シームレスに安価なインフラに移行できるようにするというのがILMの目的です。これにより、情報やデータの価値とビジネス上の価値との整合性が取れるようになります。

 もちろんそれ以外にも、バックアップ/リカバリによるデータの保護や事業継続性の確保といった要因も、ILMを推進する力になっています。

e-文書法に注目

ITmedia 今後もILMがストレージ業界の軸となるのでしょうか?

フィッツ われわれは次に、エンタープライズ・コンテンツ・マネジメント(ECM)分野に注目しています。日本では先月、「e-文書法」が成立しました。これが施行されればこれまで紙で保存されてきた文書を電子的に保存することが認められるようになります。これにともない企業は、さまざまな文書を電子的に保存するようになるでしょう。

ITmedia e-文書法によってどんな変化が生じるのでしょう。

フィッツ まず媒体が紙から電子的なものに変わり、ECMを組み合わせることにより、情報を蓄積したり、読み出すときの効率が向上します。それにインフラ構築/運用に要するコストも減りますね。単純に考えても、文書を収納するキャビネットなどが不要になるわけですから。

ITmedia それに向けたソリューションは?

フィッツ ITの視点からは、それを管理するためのインフラが必要になります。われわれはソフトウェアやサービスを組み合わせ、そのためのビルディングブロックを提供していきます。

 EMCは昨年、さまざまな企業を買収してきました。これにより、われわれは「ストレージ企業」から「情報企業」へと進化しているのです。ビジネスモデルを見ても、ハードウェアとソフトウェア/サービスの比率が大きく変わりました。かつてはハードウェアが売り上げの7割以上を占めていたのに対し、2004年は後者が53%を占めるまでに成長しています。顧客やパートナーに提供できる価値も、ECMをはじめ、アプリケーションよりのソリューションへと変化しています。

「情報」そのものの重み

ITmedia 今年10月に発生した新潟震災によって、改めて不測の事態に備えたビジネス継続性に注目が集まりました。

フィッツ ちょうど2年前のインタビューの際にも、日本の企業はもっと災害への備えを行う必要があると述べたように思います。過去の経験から分かるとおり、人災にしても天災にしても、予期しないことは必ず起こるものです。そうした事態が生じたとき、自社にとって価値ある情報を霧散させず、迅速に情報を復旧できるような堅牢なインフラが必要でしょう。


データや情報の価値をビジネスの価値に結びつけることがわれわれの使命だと語ったフィッツ氏

 その意味で、テープではなく、これまでに比べ安価になったディスクへのバックアップが着目されるべきだと思います。ディスクの場合、テープに比べバックアップやリカバリ作業に要する時間を短縮でき、コストも非常に競争的になっています。これは今後の成長の鍵になると考えています。

ITmedia 企業にとって「情報」の持つ意味は、ますます大きなものになっていますね。

フィッツ ITシステムはこれまで、サーバやアプリケーション、ネットワークという複数のレイヤに分かれ、そのネットワークというパイプの中をデータが流れているというモデルでした。ここではサーバやアプリケーションが重視されてきました。しかし今、データや情報そのものが重要だという認識が高まりつつあります。重要な情報をいかにして保護するかという観点から、ビジネス継続性などが重視されるようになるでしょう。

 企業にとって、情報はただ保存すればいいというものではありません。効果的な活用が、新たなサービスやチャンスにつながります。たとえば通信事業者ならば、顧客のサービス利用状況を踏まえて新たなモバイルサービスを提案するといった具合に、顧客のことをより深く知ることで、新たなサービスを生み出すことができるでしょう。

ITmedia さまざまな法的コンプライアンスという要件もあります。

フィッツ 企業が保存する個人情報や顧客情報の量はどんどん増大しています。この傾向は今後も変わらないでしょう。

 米国では、米企業改革法によって電子メールを一定期間保存することが義務付けられました。日本でも、先ほど申し上げたe-文書法があります。こうした要因もあって、企業が蓄積する情報の量はますます増加し、莫大なものになるでしょう。これらをどこに、どのように蓄積し、どのように保護するか。また重要なものとそうでないものをどのように区別し、適切に保管し、活用していくか……企業にとって、これらは今後の大きな課題です。

 こうして蓄積される膨大な情報を、少ないコストで、企業内のさまざまなインフラやアプリケーションにまたがって活用できるようにし、データの価値をビジネス上の価値としていく必要があります。その意味で、ILMの重要性はますます高まるでしょう。

 EMCもそのために、幅広い製品ポートフォリオを通じてILM戦略を引き続き推進していきます。ハードウェアプラットフォームやソフトウェアだけでなく、過去12〜18カ月の間に買収を通じて入手した製品も含めた、包括的なラインナップを提供していきます。2005年もストレージ市場は年6〜7%のスピードで成長するでしょうが、われわれは最低でもその2倍の成長を見込んでいます。

香港をベースにアジア太平洋地域を飛び回り、「飛行機の上にいる時間のほうが長い」ような日々を送っているフィッツ氏。年末年始の休暇だけは、妻と4人の子供とともに水入らずで過ごす。「Brackberryでメールをチェックしていると、家族に隠されちゃうんですよ」とか。

[ITmedia]

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