2003年のIT投資はコストダウンが至上命題であった。しかし、ITが現場レベルにまで浸透しつつある中、あるポリシーを持って長期的な視野で投資を行うべきことこそが重要だといえる。そんな中、顧客志向を繰り返し社員にも伝えてきたことで、日本HPも大きく変わってきたと樋口氏は語る。

顧客志向を明確にすることで見えてきたもの

ITmedia 2004年を振り返っていかがですか。

樋口 2004年は、中国の景気主導になっている感は否めませんが、顧客の業績も回復傾向にあり、その結果、IT投資を含めた投資意欲が戻ってきたようです。ここに来て、携帯や半導体が調整局面を迎えていますが、銀行の不良債権問題も進み、円高傾向にあることなどの理由で、相対的に見て日本が力強くなってきているように思います。

 2003年のIT投資というと、コストダウンが至上命題でしたが、そういう状況から、深刻化するセキュリティの問題や、ディザスタリカバリーなどの部分に視点が移ってきました。コストに対する意識も依然として相当強いですが、それまで事業部ごとに投資してきたものを効率よく運用する、または統合する必要性が課題として見えてきているので、2004年の後半では、エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)やアダプティブ・エンタープライズなど長期にわたる明確なポリシーを持って投資していこうとする企業が増えています。

ITmedia 以前、2003年はコンパックコンピュータとの合併に伴うフォローアップの年だったと総括されていましたが、そういったプロセスを経て、内部的にはどう変わりましたか。

樋口 合併というのは、社内システムだけでなく社員の心も一つにする必要があり、非常にエネルギーのいる作業です。それを飛び越えては前に進むことはできません。

 それらもある程度解決し、今年わたしが注力したのは、内部的な組織改革とモチベーションの向上でした。社員のモチベーションを高めることで、閉そく感を持つことなくや生き生きと働いてもらい、それが結果的に顧客の付加価値として機能することが望ましいからです。本社のほうを向いて仕事をし、本社の方針をそのまま顧客に伝えるような取り組みでは、社員のモチベーションが上がるわけがありません。

ITmedia 具体的にはどういった取り組みを行ったのでしょうか。

樋口 例えば、誰も責任を取らないし、部下も上司に対して相談どころか話をするのも嫌がる、といったような職場は思い切った改革を行う必要があります。そのため、横方向の連携や、信頼されるマネジメント層を育成するとともに、勇気を持って組織改革を行うなどしました。

 加えて、非常に当たり前のことを事あるごとに繰り返し社員に伝えてきました。キーワードでいえば、スピード、オープン、結果主義、日本市場に根付くこと、そして顧客第一主義です。顧客の方を見ていなければ今の時代は生き残っていけません。

 今求められているのは、ハードのスペックが上がったことをアピールすることではなく、それによって顧客が抱える悩みがどのように解決できるのかを説明することです。顧客に密着し、声を聞き、その声を日本HPの社内で響かせ、それに対応していくのは簡単なようでなかなかできないことです。

ITmedia 日本HPの売上高は非常に好調のようです。この成功要因はどのあたりですか?

樋口 顧客志向をクリアに示すだけで、これだけ社内の生産性や効率性、そして経営数字が変わるものなのだとわたしも驚いています。少し前ですと、営業が後ろを見たときに誰もサポートしてくれないような状況もありましたが、今は全社員がサポートしています。そうなると、営業も安心して顧客と向かい合えます。そういった状況になって、サービスビジネスは記録的な受注へとつながりました。

 エンタープライズ市場でいうと、コンパックとの合併によって、顧客がシステムを検討するときに、HPは必ず声をかけていただけるようになりました。また、ボリュームゾーンであるPCやローエンドのサーバについては、合併によって規模の理論が働き、一台あたりの研究開発費、製造費、広告費などが効率よく動くようになりました。コスト勝負の分野ですので、こうした部分が与える影響は大きいですね。

トータルのインテグレーションができるということが重要

ITmedia HPというと一般的にはハードベンダーだと思われています。しかし、最近は、インフォメーションライフサイクルマネジメント(ILM)分野への参入が示すように、提供する価値がソフトオリエンテッドなものがますます多くなっています。今後もPC関連事業には従事するのでしょうか。

樋口 はい。PCもPDAも情報システムのコンポーネントの一つだといえます。特にPDAなどは、ユビキタス時代になるとより活用されるかもしれません。それらを含めたトータルのインテグレーションができるという価値が強みとなるでしょう。

 わたしたちは、サーバやストレージといったインフラ、ハードそのものを得意とするベンダーだと自負しています。そして、マネジメントレイヤーも含めたものがインフラだと考えていますので、ILM分野への参入も理にかなったものです。

ITmedia サーバの効率化が進むと台数需要自体が減少するという構造的な問題がありますが、これについてはどのような施策で臨むのでしょうか。

樋口 IT需要が今と変わらすに推移するのであれば、確かに効率化により台数需要は減るでしょう。しかし、今後のITの進化の方向としては、ITが会社の外へと向かいます。ICタグなどに代表されるように、ITが現場レベルに入っていきますので、この部分が全体に対する需要減を補ってあまりあるような状況になることを強く希望します。いずれにせよ、各企業のIT依存度は確実に高まっていくことは間違いありません。


効率化による台数需要減が一番影響するのはメインフレーム。日本はまだまだメインフレームが多いが、この部分をオープンでグローバルスタンダードなものにしていくことが重要」と樋口氏

 ハードはどんどん価格が下がり、商売にならないのでは、と悲観的に見られるかもしれませんが、トータルの需要はITは明るいと見ていますし、それを支えるサービスの提供にも自信を持っています。

ITmedia 8月には、大型平面テレビや音楽プレイヤーなどを発表し、家電などの関連市場へと業務を拡大していますが、どういった意図があるのでしょう。

樋口 巨大なアメリカのコンシューマー市場において、家電の世界に参入するというのは大きな意味合いを持っています。ここで重要なのは、アメリカで成功することです。

 さまざまな家電のデジタル化が進むということは、データを流せる素地が各製品に備わるわけです。このことは、PCの世界で起こった標準化の動きが家電の世界でも起こりうることを予見させます。そうなると、単品単品で作っているベンダーより、人口が一番多い国で商売しているベンダーが有利になってくるでしょう。家電市場において標準作りの中心的な位置を確保することで、勝機も十分に生まれます。

ITmedia 2005年はどういった年になりそうでしょうか。

樋口 これまで、景気もそこそこに回復してきましたが、2005年は調整局面を迎えるだろうという予想が出ています。とはいえ、年末商戦を見ると、日本HPは11月にかなりの売り上げとなっています。勢いはついていますので、それを継続していきたいと思います。

 これまで取り組んできたことは、それまでできていなかったことをやるといった感じでしたので、やるべきことは現場にちゃんと耳を傾ければ分かりました。しかしこれからは、まったく異なるフェーズへと足を踏み入れることになります。人が育てば自然と会社は伸びるというのは、これまでを見ても明白ですので、人を成長させることで組織も成長させていくというところを地道ですが進めていきます。

ITmedia 2005年の日本HPを一言で表すとどういったものになりそうですか。

樋口 少し過激かもしれませんが、「基礎固めから攻勢へ」というところでしょうか。グローバルスタンダードでかつオープンなものを提供することで、顧客の企業競争力を上げるお手伝いをするのが日本HPの役割です。

この1年は、放電ばかりで充電していなかったので、ゆっくり鋭気を養います。改革も一段落し、今年は少しゆったりした気分になれそうなので、他の企業の経営者の悩みや考えをつづったような本を読むなどしたり、日々の仕事の中でつい後回しにしていた疑問などをゆっくり調べてみたいです。

[ITmedia]

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