昨秋、ジャストシステムの浮川和宣社長と初子専務は、ワシントンDCのXML Conferenceで誇らしげに「xfyテクノロジー」を披露した。「ユーザーは機能が使いたいわけではない。データがXMLによってスマートになれば、データとアプリケーションの関係は主客逆転する」と浮川氏。ユーザーの価値観に立脚した思想は、一太郎から受け継がれたものだ。和宣社長と初子専務に話を聞いた。
ITmedia 2004年はどんな年でしたか。
浮川和宣 インターネットのブロードバンド化がさらに広がり、パソコンやそのソフトウェアのビジネスが動いてきた年だったと思います。アップルのiPodが話題となっていますが、われわれも「BeatJam」というソフトウェアを累計で700万本くらい出荷しました。OpenMGを組み込むことで著作権を保護しながら、音楽ファイルをPCにダウンロードし、Net MDやメモリースティックに転送して持ち運ぶことができます。
ソフトバンクBBが始めた新しい電子ソフトウェア流通の取り組みにも参加しました。パソコンの能力とブロードバンドをフルに活用できるため、ひとつの理想形にまたパソコンが一歩近づいたといえるでしょう。これからが楽しみです。
ITmedia 理想という意味では、昨年11月に米国で「xfyテクノロジー」を発表しました。背景を教えてください。
浮川 ジャストシステムはプログラミングを中心したエンジニアが多く、xfyテクノロジーは彼らの研究から生まれたものです。インターネットが普及するにしたがい、素晴らしいコンテントが世の中に登場しつつあります。それらを活用すれば、仕事や生活を変えられるはずで、ソフトウェアの機能がもっともっと必要とされています。
例えば、ショッピングサイトで商品を購入しても、複数にまたがった購入履歴、つまり、自分が今月幾ら使ったのかが分らないのです。HTMLはブラウズ中心の言語でデータはユーザーのものになっていないからです。
そういう意味からすれば、一太郎も機能はまだまだ作り手側のお仕着せと言っていいでしょう。「この機能を追加したい」「この機能はいらない」と考えるユーザーが、自由自在に組み立てられるようにするにはどうしたらいいのか、xfyプロジェクトはそうした背景からスタートしました。
xfyテクノロジーは現在、WebサイトからTechnology Preview版がダウンロードできますが、2005年6月までにはきちんと使えるものを提供したいと考えています。
私たちは人の知力を高めたい
ITmedia ほかに意欲的なプロジェクトはありますか。
浮川初子 もう1つ大きなプロジェクトは、「GrowVision」です。GrowVisionは、XMLベースで構造化された知識と文書などから自然言語処理によって生み出された知識をリポジトリに蓄積し、情報の入力、情報の蓄積・共有・知識化、知識の活用というライフサイクルすべてを支援するプラットフォームです。情報の入力や知識の活用という段階でフロントエンドツールとして使われるのがxfyテクノロジーになります。
ジャストシステムの製品群やテクノロジーは和宣社長(右)と初子専務が生み出す子どもたちのようだ
自然言語処理技術はこれまでにもATOKやConceptBaseで取り組んできたのですが、既存システムやインターネットから入手できる構造化されていない、例えば、「言葉」のような情報から知識を抽出できるコアエンジンをさらに開発しています。
シリアライズされた言葉だけでは十分ではなく、構造化されたものが必要だというところからXMLが生まれました。GrowVisionは、構造化された知識と、自然言語処理によって言葉や文書からを知識を抽出するという両方をうまく組み合わせ、人の知識の表現レベルを高めていくことを狙っています。xfyによって、知識を表現するひとつのメディアが出来上がるのではと期待しています。
浮川和宣 GrowVisionを活用すれば、例えば、議事録や電子メールをひも付けし、背景情報を持たせてシナリオが分るようになります。ある先輩社員が良い仕事をしたとして、そのシナリオがたどれるわけです。
企業には1人1台のパソコンが導入されましたが、会議用に資料を印刷しても最終版は紙でしか存在しないことが多いのではないでしょうか。これでは手書きの昔と何ら変わらず、パソコンは依然として「お清書マシン」に過ぎません。
ITmedia 実際に採用したり、採用を検討している企業はありますか。
浮川 大林組と共同研究を続けています。例えば、ある事故があってそれを解析する中で、研究成果が生まれることはしばしばあります。そうした背景情報があり、どのような理由で研究が始まったのかが分れば、もっと設計者や現場のレベルでその研究成果を使えると理解できるでしょう。
GrowVisionの本格的なリリースはxfyのリリースと関連してくるのですが、2005年の夏くらいから開始したいと考えています。
ITmedia しかし、日本のソフトウェア業界も欧米のベンダーばかりになりつつあります。
浮川 われわれが取り組んでいるナレッジソリューションは、極めて高い生産性の改善率が期待できます。あるメーカーでは2年間で故障率を75%も低減できました。上流工程で抽象度の高い知識を再利用できるからです。しかし、先生が生徒に教えても全員が100点満点を取れるわけではないのと同じで、ユーザー側も生産性改善に対する努力が必要になります。ROIは何%かと聞かれてもユーザー次第なのです。
米国のソフトウェアには、だれでも電卓で叩きさえすれば答えが出る、それを保証できるものが多いと思いますが、私たちはそれは嫌いなんです。もっと深いところで企業の生産性を画期的に高めたいと考えています。
徹底してユーザーの価値観に立脚
ITmedia xfyテクノロジーで多くの特許申請を行っていると聞きました。
浮川 基本特許に近いところがたくさん申請できています。恐らく、彼らとは徹底してユーザーの価値観に立脚しているところが違うのだと思います。XMLといってもトップダウン型です。データに意味を付けるためのボキャブラリーにしても、作り手は同じ業界の何百社を集めて策定したと言うかもしれませんが、業界が異なれば、すべてを単一のボキャブラリーで記述することなど到底不可能です。そこで、われわれはエンドユーザーの価値観からスタートし、異なるボキャブラリーで記述されたデータをシームレスに作成・編集でき、かつ新たなボキャブラリーへの対応も容易なxfyテクノロジーを開発したのです。
ユーザーは機能が使いたいわけではありません。データがXMLによってスマートになれば、データとアプリケーションの関係は主客逆転します。
エンドユーザーだけでなく、ソフトウェアを書いている多くの人たちも、このプラットフォームでは平等の立場で参加できます。新たなボキャブラリーに対応したプラグインなどを作成し、上位構造をつくることもできます。特定のベンダーだけが偉そうな顔をする世界は嫌いなんです。
今年は少し早めに休みを取り、夫婦でカリフォルニア州サンディエゴ近郊の暖かいところに出掛ける予定です。この体型では心配ですから……、ゴルフで体を絞り、体力もつけたいと思っています。仕事ですか? ええ、宿題もたくさんあるので夜はしないといけないでしょうね。
[ITmedia]