今では携帯電話を持っていない人を探すほうが難しい状態だが、「企業におけるモバイル活用はまだまだこれから」とノキア・ジャパンの柳下氏。エンタープライズにモビリティがもたらされ、さまざまな場所から簡単にリソースにアクセスできるような環境が整えば、生産性は確実に向上するという。

ITmedia 御社にとって2004年はどのような年でしたか?

柳下 大きな新しい取り組みがスタートした一年だったと考えています。世の中では携帯電話が新しいモバイルツールとして浸透してきましたし、われわれも組織を再編成して「エンタープライズ・ソリューション事業部」を設立し、企業にビジネスモビリティをもたらすという取り組みを進めています。

 この動きは2004年中も徐々に進んできましたが、本格的には2005年以降に展開すると考えています。その鍵となるのは、ファイアウォールやVPN、特にSSL VPNといった新しいテクノロジが重要だと考えています。これらはモバイルエンタープライズを実現する上で必須のテクノロジになるでしょう。

 また、これまでビジネスターミナル(=端末)としては主にPCが利用されてきましたが、SSL VPNの場合、携帯電話が重要な選択肢になると予測しています。2004年、日本ではNTTドコモのFOMAをはじめ相次いで3G(第三世代)サービスが開始され、ようやく定着してきました。しかも、パケット定額制によって想像よりも早く普及しつつあります。新しいビジネス端末として携帯の果たす役割は重要なものになるでしょう。

企業の世界にもモビリティを

ITmedia 携帯電話をツールとして使いこなす動きは当たり前ではありませんか?

柳下 確かに携帯電話を用いたメールは普及していますが、そのほとんどはコンシューマーメールで、企業情報とリンクしたものではありません。企業情報に対するアクセスはほとんど進んでいないのです。


「まずトップ自ら携帯電話をはじめとするITツールを使い、その利便性を理解することが大事。トップが目利きならばうまくいく」と述べた柳下氏

 米国では、携帯電話を使ったメールの普及はまだまだですが、企業情報や仕事用の電子メールに簡単にアクセスできるBlackBerryのようなツールが出てきています。企業におけるモバイルの重要性が認識されているのです。われわれは日本においても、企業におけるモビリティを実現するためのソリューションを提供していきます。

 最近の新しい携帯電話には、PCと同じように文書を閲覧できるドキュメントビューワやメールクライアントが搭載されています。さらにVPNクライアントを提供することで、社内リソースに簡単に、安全に、そしてすばやくアクセスし、共有できるようなソリューションを提供していきます。

ITmedia そのような環境を実現していくうえでの課題とは何でしょう?

柳下 1つは、各社のソリューションが自社の端末のみをサポートしたものにとどまっており、統一されたものが少なく、結果として使いにくくなっていることです。ターミナル側の問題もあります。これも、標準的なメールクライアントではなく独自のものを搭載しているため、さまざまな制限があります。リモートからメールを参照することはできても、端末へのダウンロードができなかったりします。

 速度の問題もあるでしょう。けれどこれは3Gになってかなり改善されたように思います。価格についても定額制の流れに向かっていますが、改善の余地はあると思います。

リモートアクセスのカベは「企業の文化」?

ITmedia 技術の問題ではありませんが、仕事とプライベートの区別が付けにくくなるなどの問題も生じそうです。

柳下 ですが普通に仕事をしていても、移動の合間にちょっとした「デッドタイム」がどうしても生じますよね。そこでPCを立ち上げてインターネットにつないで……とやっていれば、10分やそこらの時間はすぐに経ってしまいます。そんなときに携帯電話からぱぱっとイントラネットにつなぐことができれば生産性は向上するはずです。それが幸せかどうかは別ですが(笑い)。

 また在宅勤務は、一部の外資系企業ではちらほら見られるようになってきましたが、日本企業ではまだ少ないですね。携帯電話に限らず、ラストワンマイルのアクセスも安価になり、いろいろな手段が整備されてきましたが、「生活」と「仕事」のバランスをどのようにとるかが大きな課題になるでしょう。企業の文化というのも1つのカベになりそうです。SSL VPNにしてもその問題が付きまといます。

ITmedia とおっしゃいますと?

柳下 SSL VPNのメリットは、自宅などから安全かつ簡単に企業システムにアクセスできることです。しかし、情報漏洩の可能性などを理由に、こうしたアクセスの形を許可しない企業もまだあります。確かにVPNでのアクセスを許可すれば、セキュリティリスクは高まりますが、生産性もまちがいなく向上します。われわれベンダーとしては、仮想ワークスペースクライアント・インテグリティ・スキャンといったテクノロジを通じてそうした心配を払拭し、企業の生産性向上を支援していきたいと考えています。

ITmedia 4月からは個人情報保護法が全面施行となります。

柳下 企業側も個人情報保護法を踏まえ、セキュリティに対し非常にセンシティブになっています。ただ、しっかりと対策をとることは必要ですが、「こうしなければだめだ」という脅しのアプローチで焚きつけるやり方はあまりいいこととは思えません。セキュリティをネガティブなもの、コストの意識でとらえるのではなく、生産性向上という投資効果をきちんともたらず「イネーブラ(Enabler)」としてとらえてほしいと考えています。

ITmedia 他に2005年、注目すべき動向はありますか?

柳下 お客さんが求めているのはインフラではなくアプリケーションです。中でも最もクリティカルなアプリケーションは何かというと、電子メールだと思います。2005年は電子メールソリューションにフォーカスし、いかに簡単に、すばやく使えるようにするかに力を入れていくつもりです。

 実現方法はいくつかあると思います。端末側に電子メールクライアントを搭載するという方法もあれば、端末に依存せずに使えるゲートウェイ的なものもあるでしょう。どれか1つでカバーできるとは思っていません。複数の手段を提供し、エンタープライズユーザーの大半をカバーできる電子メールソリューションを提供していくことが2005年の重要なステップだと考えています。中長期的には、パートナーとの提携も含めた形で電子メール以外のアプリケーションも展開していく方針です。

ITmedia そこにはウイルスなどのリスクも生じますよね。

柳下 それはそうです。クライアント側にアンチウイルスソフトを搭載したり、キャリアや企業側のゲートウェイに対策ソリューションを実装したりと、今のPCの仕組みや考え方を携帯の世界にも適用できるのではないかと考えています。特に企業の場合は、いろいろなやり方が考えられるでしょう。個人がそれぞれ勝手に端末を選ぶのではなく、企業側が中のソフトウェアも含めてしっかり管理できるような仕組みも求められるでしょう。端末やキャリアと連携し、今ある仕組みをさらに充実させる形で、そのためのツールやセキュリティアップデートを配布する仕組みを提供していければと思います。

年末年始はいつも仲間とともに冬山登山という柳下氏。「『頂上でコーヒーを飲もう』と楽しみにしながら上ってみたら、肝心のコーヒーを忘れていたこともありました」(同氏)。寒さに震えながら日の出を待つのも、楽しみの1つという。

[ITmedia]

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