IBM IMPACT 2009 JAPAN SOA CONFERENCE:変革に即応できる「SOAのエントリー・ポイント」を実証

5月19日に開催された「IBM IMPACT 2009 JAPAN SOA CONFERENCE」では、事例やデモを交えつつ、早期に結果を得てそこから発展させる、SOAの各種取り組みが紹介された。


 企業を取り巻く環境の変化が激しくなり、変化への迅速な対応が求められる時代になってきた。IT投資も、単に投資額を抑制するだけでなく、将来を見据えて瞬敏な環境を整える必要がある。こうした背景で注目を集める技術が、SOA(サービス指向アーキテクチャ)や、エンタープライズ・マッシュアップだ。

既存システム活用のプロセス自動化で早期に業務効率を向上した事例

キヤノンソフトウェア SOA事業戦略プロジェクト サブチーフ 新正三氏 キヤノンソフトウェア SOA事業戦略プロジェクト サブチーフ
新正三氏

 キヤノンソフトウェア SOA事業戦略プロジェクト サブチーフの新正三 氏は、“プロセスの自動化で「仕事を早く進める」方法”と題したセッションで、BPMの一環として、SOAを活用してプロセス自動化を行ったユーザー事例を紹介した。

 例に挙げられたユーザー企業は、契約先の企業から事務作業などを委託されるビジネスを展開しているという。具体的には、まず契約先から受けた業務指示を情報システム(オープン系)に入力、業務指示を細分化した作業指示書を印刷する。その後、作業指示書の申請―承認プロセスを経て勘定システム(メインフレーム)に入力し、実際の作業を進めるというのが、これまでの業務フローだった。

 しかし、この2つのシステムはそれぞれ独立した存在であり、人手で連携しているため、さまざまな課題が生じていた。例えば、二重入力を行うので非効率的かつミスも生じる危険がある。また、紙ベースの承認では進捗状況の把握が難しく、契約先からの進捗問い合わせがあれば両システムを確認しなければならない。そして、個々の業務プロセスが人手を介して進められるため可視化できず、プロセスステップごとの負荷を把握できないことから、業務効率化も難しい状況だった。

 こうした課題を解決するためにキヤノンソフトウェアが取り組んだのは、業務プロセス基盤を導入して、これを通じてシステム間連携を行う方法だ。既存システムに関しては、勘定システムはメインフレームをラッピングする形でWebサービス化し、また情報システムはデータベースをトリガとしてデータを取り込む形として、それぞれ業務プロセス基盤と柔軟に連携できるようにした。情報システムへの入力を行った後、作業指示書の印刷を行うのは従来通りだが、同時に業務プロセス基盤へとデータが送られ、申請―承認を経て勘定システムへ転送されるようになっている。このワークフローやデータ連携、既存システムにそれぞれ若干の改修を行ったものの、基本的な部分には手を入れずに実現したという。こうして、課題であった二重入力は解消され、問い合わせ対応やプロセス可視化も業務プロセス基盤によって可能になった。

 「早期にシステム化効果を実感すること、開発リスクを低減するため既存システムを活用すること、業務変化に柔軟に対応できるシステムを構築すること。今回の事例では、この3点を課題解決のための基本方針として進めた」と新氏は話す。

 また、この事例では、業務部門だけでなく、SIや情報システム部門にも少なからずメリットがあったという。業務プロセス基盤が情報システムや勘定システムをはじめとする各サービスを呼び出す構成となっているため、追加機能をサービスとして開発をしておけば他の用途でも応用できるようになったのだ。

 「例えば、検索するというサービスを作っておけば、問い合わせ対応やシステム間連携指示など、さまざまな画面での検索に対応できるようにできる。こうしたサービスを応用していくことで、開発効率や開発品質の向上に役立つ」(新氏)

スモールスタートを心がけ短期的な成果を挙げる

ユーフィット ソリューションコンサルティング部 コンサルタント 入山秀樹氏 ユーフィット ソリューションコンサルティング部 コンサルタント
入山秀樹氏

 続いて登壇したユーフィット ソリューションコンサルティング部 コンサルタントの入山秀樹氏は、“業務プロセスのモニタリングによる、リスクの最小化とビジネス機会の獲得”と題して、BAM(Business Activity Monitoring)の重要性について説いた。

 「ビジネス環境変化への迅速な対応を可能にするには、結果が出る前の段階で変化を知る必要がある。すなわちビジネスプロセスでの視点が必要であり、これがBAMの考え方」と入山氏は話す。

 BAMは、業務に評価指標を設けて監視・分析を行うという点でBIに似ているが、あくまでもBIとは補完的な存在だという。BIは結果に基づく分析であり、収集した情報を蓄積・分析して、過去の業務の実行結果について今後の戦略や意思決定に活用するものだ。しかしBAMは指標に基づいた業務プロセス実行の監視を行い、進行中の業務をリアルタイムで把握してアクションに役立てるものとなる。

 「結果が出てからの対応では遅い、というケースも少なくない。いち早くアクションを起こすためにはリアルタイムで把握しなければならない。特に、ビジネスプロセスをモニタリングすることで、真の問題の可視化が可能になる」(入山氏)

 近年では、多くの企業でワークフローのシステム化が進んでおり、ビジネスプロセスのリアルタイム監視も容易になってきた。また、監視した結果を受けてビジネスプロセスを改善する際にも、システム上で容易に改善できるようになってきた。SOA標準技術の活用も、BAMの結果を業務に反映させるのに役立つ。

 このようなBAM実装例を、入山氏は紹介した。この事例においてユーザー企業は、BPEL(Business Process Execution Language)によって受注販売業務の一連の処理を実装、モニタリングを行った。例えば見積プロセスにおいては、顧客情報の多面的な分析を行って強みや弱みを把握し、成約率、与信確認NG率、注文書受領NG率などをKPIとして測定し、業務状況の把握を行っているという。

 入山氏はBAMに取り組む上でのポイントを、監視、実装、推進の3点から説明する。

 「見たい指標は何なのか、それを整理することが監視する上でのポイント。Webを検索すれば、海外のみならず日本でも多くのサンプルが提供されており、参考になる。一方、実装のポイントは、上手にツールを活用すること。ビジネスプロセスの改善などを通じて監視する指標そのものも随時変わっていくので、手間をかけずに実現すべき。そしてBAMを推進するポイントとしては、最初はスモールスタートで短期的な成果を上げ、BAMの良さを現場に実感してもらい、積極的に参加してもらうことが大事。あるいは、例えば紙ベースの業務で、人手の作業が多いところなどにワークフローを導入する際、同時にプロセス可視化を図っていくといった方法が効果的だ」

「スピード感」「手軽さ」を備えたエンタープライズ・マッシュアップの可能性

日本IBM ソフトウェア事業 テクニカル・セールス&サービス エバンジェリスト 森谷直哉氏 日本IBM ソフトウェア事業 テクニカル・セールス&サービス エバンジェリスト
森谷直哉氏

 Web2.0を代表するテクノロジーとして普及してきたマッシュアップ。それをビジネスに活用する「エンタープライズ・マッシュアップ」が、ITで迅速に効果を上げるために役立つものとして期待されている。日本IBM ソフトウェア事業 テクニカル・セールス&サービス エバンジェリストの森谷直哉氏は、“「エンタープライズ・マッシュアップ」で実現する「効率化」、解き放たれる「可能性」”と題して、エンタープライズ・マッシュアップの現状や可能性についてデモを交えつつ紹介した。

 エンタープライズ・マッシュアップでは、Web上の情報に加えて、企業内のアプリケーションやデータベース、ファイルサーバ、さらには個々のPC上のデータも有用な情報資産として取り込んで、活用する。これまで企業が用いてきた、IT部門を中心に開発されるエンタープライズアプリケーションに対し、エンタープライズ・マッシュアップは「スピード感」「手軽さ」「カスタマイズの容易さ」「ほどほどの完成度」が最大の特徴だ。

 「アプリケーション要求のロングテール化というべきか、『個々の業務で日々発生する動的な問題解決要求に即応する目的』や、『利用するユーザーや使われる期間が限定的であるなど、従来の開発方法では投資対効果が見合わない分野』といったアプリケーションに、エンタープライズ・マッシュアップが向いていると考えられる」と森谷氏は説明する。

 IBMでは、「IBM Mashup Center」を中心としたエンタープライズ・マッシュアップ環境を整えており、これらを活用することで迅速かつ容易にアプリケーションを作成できるとしている。例えば航空機メーカーの米ボーイングでは、ハリケーン「カトリーナ」被災地に救援物資や人員を送るのに役立てるべく、空港や航空機などの情報を組み合わせ、機種に応じて適切な空港をビジュアルに検索できるマッシュアップアプリケーションを、IBM Mashup Centerによって3週間で構築したという。

 森谷氏は、エンタープライズ・マッシュアップの活用ロードマップとして、「まず始める」「カスタム素材の投入」「SOAとマッシュアップのハイブリッド」という3つのステップを説明した。

 「ガートナーも『マッシュアップは企業でも使えるレベルになりつつある』としている。マッシュアップは、つなぎ合わせるのが得意な技術であり、つなぎ変えるのも得意、つまり試行錯誤も容易な技術。そうして作られたアプリケーションが、より多くのユーザーで長期間に渡って使われるとなれば、SOAとの組み合わせなどを通じて強固化することも可能になっている」(森谷氏)

従来の開発手法では形にできず、アイデアベースで終わっていたようなアプリケーションも、エンタープライズ・マッシュアップを通じて発展させ、企業のイノベーションに役立てられると森谷氏は説き、トラックを締めくくった。

IBM Smart SOA“バーチャル・フォーラム”開催

IBM Smart SOA“バーチャル・フォーラム”が開催される。いつでも、どこからでも、簡単に参加できるWeb上のSOAソリューション展示会だ。臨場感あふれる会場内は、SOAやBPMの情報が充実しており、次のページでアクセスすることができる(利用には登録が必要)。

>> バーチャル・フォーラムへ


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提供:日本アイ・ビー・エム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2009年7月16日