クラウドから始まった足立区のシステム最適化物語(前編):「モノ申す」自治体の情シス(2/3 ページ)
東京都足立区は2012年度末に独自構築によるプライベートクラウド基盤の運用を開始した。民間企業よりもIT活用が遅れがちとされる地方自治体にとって、それは無謀ともいえるチャレンジだろう。ベンダーロックインからの脱却を含めた情シス最適化に挑む足立区に話を聞いた。
「ベンダーロックイン」の壁
クラウドによって情報システム基盤を共通化する方針が定まっていく中、現状のシステム環境を洗い出す必要もあった。そこで、ベンダーロックインの壁が立ちはだかる。
約300あるシステムはシステムごとにベンダーが固定化しており、それがバラバラに稼働するまさに「サイロ化」状態にあった。上述のように、自治体では人事ローテンションのために、更改するタイミングで担当した職員でもシステムのことがほとんど分からない。システム更改の時期が近づいたタイミングでベンダーからの提案を受け、それをもとに予算化し、導入していく。その慣行が伝統にもなっていた。
クラウド構築ではこの慣行を突き破って、できる限りベンダーを統一してシステムを共通化しないといけない。長いこと足立区にシステムを提供してきたベンダー側の抵抗は、当然ながら激しいものだったに違いない。例えば、現状把握のために計測ツールを入れるだけでも、「そんなことをすれば安定稼働を保証できない」とベンダーが警告するようなケースがあるともいわれる。
そうした心配の中で、情報システム課では現状把握や構築に向けた準備を進めていった。「CPU稼働率が70%もあれば効率的だといわれますが、実際に計測してみると30〜50%ほどでした。性能面では過大になっていることが分かり、やはりシステムを集約して効率を高めていかないといけないと思いました」(秦氏)
その後、2011年頃にかけて足立区としての情報システム共通基盤のあり方や設計、ベンダーや協力会社、製品の選定といった作業が進められていく。しかし、地方自治体が自前でクラウドを構築するという事例がほとんどなく、浦山氏によると、足立区が主体的に動かなければ作業を進められないシーンが幾つもあった。
「民間ではクラウドに取り組むケースが次第に出てきましたが、自治体が自らやるというのは無いので、ベンダー側も対応が難しかったのでしょう。公共相手と民間相手では担当が異なるベンダーも多く、そもそもベンダーの社内でも対応できる準備がまだ整っていなかったと思います」(浦山氏)
その理由は、“自治体ならでは”ともいえるさまざまな制約が背景にあるためだ。足立区の場合、クラウド環境は区の一般業務を対象とした「内部業務基盤」、区立の学校などの業務が対象の「学校教育基盤」、個人情報を扱う住民サービス業務が対象の「基幹業務基盤」の3つが計画された。
特に基幹業務基盤は、個人情報を厳重に保護することが絶対条件であり、個人情報保護条例や個人情報の取り扱いを監視する個人情報審議会によって、その個人情報管理のあり方が詳細に定められている。ここでのシステムは、LGWAN(総合行政ネットワーク)以外のネットワークとは分離しなければならない。
一方、内部業務基盤と学校教育基盤は、当初には一体化する予定だったが、検討した結果として異なる基盤になった。「学校などの利用形態が特殊だと判明し、将来的に柔軟なシステム変更などに対応できることを考慮して、分けることにしました」(秦氏)
クラウド基盤の設計ではこうした自治体の特殊事情も汲んで対応する必要があった。ただ、自治体のクラウド構築事例がほぼ見られない当時において、足立区の要望へ適切に対処できるだけの経験がベンダー側にも少なかったようだ。
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