こんな「提案営業」なんていらない! 正しい「御用聞き営業」になろう!:ITソリューション塾
一方的に自分から積極的に話したり、膨大な資料を説明したりすることを「提案営業」だと思い込んでいる営業マンがどうやらいるようだ。
「うちは提案営業に力を入れています」という、あるITベンダーの営業部長。かなり自信を持っているようだ。
そんな彼の自慢の部下に、「実際のところどうなの?」と聞いてみると、おもむろにカバンから分厚いバインダーを取り出した。そこには、自分たちの製品、サービスについての説明資料やパンフレットが、ぎっしりと、そして整然と詰まっていた。「お客さまのところに行って、何でも提案できるように用意しているんですよ」と自慢げに話してくれた。
後で、ほかの方に彼の営業成績を聞いてみると、案の定、いまひとつだそうである。どうも、この営業部長も部下の営業マンも、提案営業の意味を勘違いしているようだ。
第1に、お客さまは製品やサービスを欲しいなどとは思っていない。この大前提を忘れている。お客さまが欲しいものは、自分の抱える課題を解決することであり、製品やサービスは、その手段にすぎない。
お客さまの課題を十分に聞き出すことなく、こちらにとって都合の良い製品やサービスを説明したところで、お客さまにしてみれば、「良いお話を聞かせていただききました。社内で検討の上、後日こちらから連絡をさせていだきます」と笑顔で応えてくれるだけ。それ以降、待てど暮らせど連絡が来ることはないだろう。
第2に、資料を説明することを提案だと思っていること。提案営業とは、こちらが用意した資料を積極的に説明し、お客さまを説得して、ねじ伏せることだと思っている節がある。
彼に同行した経験のある営業マンに話を聞いてみた。すると、彼は、のべつお客さまに話し続けていたという。自分から積極的に話すこと=提案営業という図式があるようだ。しかし、お客さまにとっては、きっといい迷惑だろうと思う。そうやって、彼は、仕事をしたという充実感に酔いしれているのかもしれない。
第3に、謙虚さがないようだ。彼は、人の話に耳を傾けない。問題点を指摘しても、自分の主張を正当化する。一見、自信ありげで、頼りがいのある人物にも見える。しかし、他人を言いくるめることができた自己満足に酔いしれ、お客さまの不満を見過ごしてしまう典型的なタイプである。
自分のやり方や製品に自信を持つこと。そして、思い込んでまい進することは、称賛されてしかるべきである。しかし、周囲やお客さまの声に耳を傾け、その考えを他人の目線で客観的に評価し、修正していくことができなければ、お客さまに受け入れていただける言葉は、生まれてこない。そんな、謙虚さが、ビジネスのチャンスを引き寄せるものだと思う。
「お客さま8割、自分2割が、会話の黄金比率」
2割という時間を使い、お客さまに話したい、伝えたいという気持ちを引き出し、お客さまに話をさせるように誘導し、同時に整理していく。つまり、自分の2割は、錬金術師の治具であり、お客さまの8割は、金の鉱石ということになる。
提案とは、「お客さまの課題を解決するための手段の提示とその意思の表明」である。その起点にあるお客さまの課題を明らかにしないままに、提案などできるはずがない。
自分たちの製品やサービスについての説明資料は、お客さまの課題を聞き出すきっかけとして、利用すべきものだろう。買ってもらう商品の説明ではない。
パンフレットを見せながら、「こんなことにお困りではありませんか?」、「こんな機能があれば、仕事が楽になるのではありませんか?」と使う分には、役に立つだろう。
それをきっかけに、「・・・ということは、こういうことでお困りなんですね?」となり、だんだんと、お客さまの課題の核心に迫ることができる。
また、お客さまについて、事前に調べておくことも大切だ。こんな業種業態、業績であり、競合他社は、製品やサービスは・・・。では、きっとこんな課題があるはずだ。そんな仮説を携えて、お客さまに赴く。それを一気にひけらかすのではなく、小出しにしながら、お客さまの話を引き出していくことも大切である。
とにかく、お客さまの話を聞き出すことが全ての起点であると心得るべきである。お客さまは、自分の課題を話しながら、自分で課題を整理することになる、そして、お客さま自身にもその解決の必要性が意識に上る。
こちらが、押し付けた課題ではなく、お客さまが、自ら課題の存在を意識し、課題解決の必要性を自覚することこそ、課題を明らかにするということ。この前提なくして、提案は効力を発揮しない。
提案営業とは、究極の御用聞き営業である。まずは、お客さまの御用=解決してほしい課題を引き出すことに徹すること。それができて、初めて提案のチャンスを手に入れることができる。
※本記事は斎藤昌義氏のオルタナティブ ブログ「ITソリューション塾」からの転載です。
斎藤昌義
ネットコマース株式会社・代表取締役
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業を担当後、起業。現在はITベンダーやSI事業者の新規事業立ち上げ、IT部門のIT戦略策定やベンダー選定の支援にかかわる。
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