人材不足は“量”ではなく“質”が深刻――ITスキル標準はどこへ行く:2015年問題の本質を探る(5)(1/4 ページ)
2015年問題はIT人材の量的不足ばかりが注目されているが、IT業界にとって深刻なのは、むしろ質的人材不足である。これを解消するために、ITスキル標準を活用した人材育成体系や仕組み作りが大手IT企業を中心に進んでいるが、そのITスキル標準自体の行く末に不安が出てきた。各IT企業はどうすればよいのだろうか。
連載:2015年問題の本質を探る
- 第1回:スクラッチ開発偏重が引き起こす人材不足
- 第2回:要求定義のあいまいさが人材不足を引き起こす
- 第3回:Webビジネス企業の台頭による人材不足にどう対処するか
- 第4回:エンジニアの大量雇用とリストラの繰り返し、その解決策はあるのか
- 第5回:人材不足は“量”ではなく“質”が深刻――ITスキル標準はどこへ行く(本記事)
IT人材の“質的不足”とITスキル標準
IT人材の不足は量的だけではなく、質的にも不足している。質的不足とは“必要とされるレベルのスキルを持った人材が不足している”という状態を指す。『IT人材白書2014』によれば、量的に不足している企業が82.2%、質的に不足している企業が91.9%あるという。量的側面のみが注目を集めている2015年問題だが、実際にはIT業界にとって質的人材不足の方が深刻と言える。
質の問題を解消するには、IT企業は自社のIT人材を育成する体系を構築し、実践する必要がある。ITスキル標準(ITSS:IT Skill Standard)は、IT人材育成の体系を構築するための基盤として活用されてきた。すでに27%以上の企業で活用されており、従業員1001名以上の大企業では82.9%の企業が活用している。
ITSS導入における2つの目的
多くのIT企業がITSSを導入するのは、主に2つの目的がある。
1.業界における自社IT人材のスキルレベルを把握
ITSSを使って自社のIT人材を評価することで、職種別やレベル別の人数を把握し、自社の業界内におけるポジションを明らかにできる。
IT企業の多くはソフトウェアを中心としたサービス産業であるため、製造設備が製品を生み出す製造業などとは異なり、従業員の質や量に大きく事業が左右される。そのため、自社の戦力であるIT人材のスキルレベルを業界標準に合わせて把握するのは、経営戦略を立案する上で非常に重要なことだ。この目的を達成するためには、業界標準であるITSSをカスタマイズせずに、そのまま導入することが必要となる。
2.ITSSを活用したIT人材育成体系の構築や仕組み作り
これは、ITSSを活用して自社の職種体系に合わせたレベル定義を行い、IT人材育成体系やしくみを作ることを目的とするものだ。他社にはない独自のITサービスを提供している場合には、ITSSにはない職種を定義してレベル分けをする必要がある。また、ITSSの中で特定の職種や、1つのレベルのサービスしか行っていない場合には、レベルの細分化をしないと人材育成に活用できない。そのため、ITSSを自社用にカスタマイズする必要がある。
この2つの目的を同時に実現するには、業界標準であるITSSのフレームワークを残したまま、自社独自の職種の追加やレベルの細分化を行う必要があり、ITSS導入を難しくしている。IPAの調査でも、ITSS活用における課題のトップに「ITスキル標準が自社の業務内容と合わないから」という理由が挙げられている。
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