沖縄の病院で活躍する“ビデオ通訳”サービス、外国人患者の診察がスムーズに:タブレットで使える
外国人が日本で診療を受けようとすると言語のカベが問題になりがちだ。沖縄県の浦添総合病院は、観光客など外国人患者とのコミュニケーションを円滑にするために、タブレットを使った通訳サービスを導入したという。
2020年の東京オリンピック開催に向け、外国人旅行者に対するサービス提供の遅れが問題になっている。日本を訪れる外国人旅行者数は、2013年に初めて1000万人を突破するなど増加傾向にあるが、世界中からやってくる旅行者に対して、多言語対応ができているサービスはまだまだ少ない。
医療サービスもその1つだ。例えば外来診察の場合、言葉が通じないことで、診察にかかる時間が増えるだろうし、最悪の場合診察できないケースもあり得る。外国語が話せるスタッフを採用するにも多大なコストがかかってしまうだろう。旅先での“もしも”に対応できる受け入れ体制が喫緊の課題となっているのだ。
沖縄県にある、社会医療法人 仁愛会 浦添総合病院(以下、浦添総合病院)もそんな悩みを抱えていた。同病院では英会話ができるスタッフがいるものの、近年は台湾や中国、韓国からの観光客が増え、英語が話せない患者が来院する機会が増えたという。「最近では、外来診察で月に1〜2回は外国人の方が来るようになりました」と浦添総合病院 システム課の上野孝生さんは話す。
言葉が通じなくても、ジェスチャーなどのコミュニケーションで診察は可能であるものの、長期にわたる入院などでは言葉のカベは大きな問題になる。「細かい指示をした際に、ジェスチャーだけではニュアンスが伝わらないといったことが多々ありました」(上野さん)。バイリンガルやトリリンガルといったスタッフを採用することも検討したが、コスト面で断念せざるを得なかったという。
タブレットで気軽に使える「通訳サービス」を導入
そんな状況に変化が訪れたのは2014年の秋。NECから電子カルテシステムの導入を持ちかけられた際に「クラウド型ビデオ通訳サービス」を知ったことがきっかけだ。同サービスは英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語の通訳サービスを、ビデオ通話システムにより24時間365日いつでも利用できるもので、東京都北区などの自治体が導入している(関連記事)。
NEC側も当初は同サービスを病院で使うことを想定していなかったという。「もともとは観光地などで使うことを想定していたようで、電子カルテの“ついで”のような紹介でした。しかし、病院が置かれている状況を話すとすぐに納得してくれました」(上野さん)
クラウド経由で提供するサービスなので、導入に際し、端末と通信環境さえあればシステムを構築する必要はない。「新たなスタッフを雇うとなるとコストが未知数なので、ためらう部分があったのですが、このサービスは月額制なのでコストの計算もしやすい。費用に見合った効果が得られるということで導入に踏み切りました」と上野さんは振り返る。
同病院では3台のタブレット端末を導入し、外来と病棟の一部に家庭用無線LANを使ってWi-Fi環境を構築した。家庭用の無線LAN回線でも「映像や音声の遅延はほぼない」(上野さん)とのことで、現在は病院内のどの場所に通信環境が必要なのか精査しているそうだ。
細かなニュアンスも伝わるように
サービス導入の準備が整ったのは、2014年12月下旬ごろ。試験的に運用を始めたところ、ちょうど手術目的で入院する外国人患者が病院に来たという。「日本語が話せる友人と一緒に病院に来たのですが、友人の方が帰ってしまったあとに、急に“体調が悪い”という呼び出しがありまして。ジェスチャーでも意味が伝わらなかったので、通訳サービスを使ったところ、すぐに意図が伝わりました」(上野さん)
これまでは外国人の患者が来た際、英語が話せるスタッフを探して院内を駆け回るといった場面もあったそうだが、通訳サービスを使うことで職員の負担も軽減したという。「『自分では対応できないのではないか』という心理的な負担も軽減されましたし、英語ができるスタッフも急に引っぱり出されて業務が止まってしまうということも減りました」とのことで、効果は実感できていると上野さんは話す。
同サービスが医療機関で採用されたのは、この浦添総合病院が初となる。同法人が経営する他の病院に紹介するとスタッフが興味を示してくれるそうで、人間ドックセンターやクリニックなどへの導入を検討しているという。「病院でも通訳システムは必要。そのように発想を変えれば、いろいろなコラボレーションができる。そんな事例として広まっていってくれればいいと思っているんです」(上野さん)
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