品薄続く「獺祭」、増産のカギは“クラウド”?(1/2 ページ)
知名度の向上とともに品薄状態が続いている、山口の銘酒「獺祭」。品薄の理由は原料である酒造好適米「山田錦」が不足しているためだ。しかし今、国の政策やITの力によって、獺祭の生産量が大きく増えようとしている。
お酒が好きな方なら、誰しも一度は「獺祭」(だっさい)という名前を聞いたことはあるはずだ。山口県の旭酒造が作るこの日本酒は、ここ数年で急激に知名度が上がり、人気が出たことから品薄状態が続いている。居酒屋で偶然発見しても「売り切れなんです」と言われて、がっかりしたことがある方も多いだろう。
品薄の理由は、獺祭の原料である酒造好適米「山田錦」が不足しているためだ。山田錦は稲の病気である「いもち病」にかかりやすい、背が高く風で倒れやすいといったことから栽培が難しく、収穫量が安定しにくい。そのため、困難な米作りに挑戦しようという生産者がなかなか増えず、品薄が続いているのだ。それでも旭酒造は独自のルートで山田錦を調達してきた。
獺祭が誕生する前、旭酒造は「県内でも負け組」と言われる、山口の山奥の小さな酒造会社だった。起死回生を狙って東京市場を開拓しようと、山田錦を使った高級酒作りを目指したが、県内の農家からの評価が低かったため、正規のルートでは“まとも”な米が入ってこない状況だったそうだ。
「正規ルートからはいい米が入ってこないため、自分たちで山田錦を作ろうとし、山口経済連合(現在の九州経済連合会)に種もみの供給を頼んだものの、3年続けて断られて諦めました。しかし、試行錯誤を続ける中で、提供してくれる農家が現れたのです」(旭酒造 代表取締役社長 桜井博志氏)
その後、獺祭の人気が高まるとともに調達量も増え、2013年度は、兵庫県や山口県などの契約農家を中心に約4万3000俵の山田錦を調達したという。2013年における山田錦の生産量は約38万俵とのことで、そのうち1割強を占める計算だ。しかし、それでもまだ足りない。国内外で売り上げを伸ばす獺祭の消費量には追いついておらず、必要な量に対して半分程度しか調達できていないという。
山田錦で“儲かる農業”を
不足している山田錦が増産されないのは、農家の高齢化や担い手不足、栽培が技術的に難しいため新規生産者が増えにくいなど、さまざまな理由があるが、国の“減反政策”の影響も大きい。1970年以降、政府が米の生産目標を定め、それを農家に割り当てて生産量を減らしていく調整を行ったことで、酒造好適米を増産しづらい体制になってしまったという。
「減反政策の中で農家はやる気をなくしてしまった。米を作るよりも、どうやって補助金をもらうかを重視するようになってしまったんです。しかし、酒造好適米の中でも特に山田錦は、一般的な米よりも高値で取引され、その価格は2倍近くになる。山田錦を作れば補助金以上の利益が得られ、農業を戦略的なビジネスとして考えられるようになります。ひいては農業の活性化につながるのです」(桜井氏)
政府も近年は、山田錦をはじめとする酒造好適米の増産を後押しする政策を打ち出している。日本酒の輸出を拡大するという安倍首相の成長戦略のもと、酒造好適米については、2014年度から減反政策の影響を受けずに増産が行えるようになった(減反政策自体も、2018年に終了する方針)。
日本各地の農家に山田錦の栽培にチャレンジしてもらえるよう、桜井氏は精力的に各地を回り、山田錦の種もみを提供したり、栽培に関する勉強会を開いている。山田錦が増産されれば、獺祭の増産にもつながる。大量生産ができるよう、新しい酒造となる社屋も建設しているそうだ。
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