ナースコールが消える? 福井大病院に見る近未来の医療現場(2/3 ページ)
患者の大切な命と情報を守りながら、厳しい現場環境をどう改善していくべきか――。福井大付属病院ではインフラからデバイスまで大規模な変革に挑んでいる。
病院に限らずICTインフラの刷新は、時間と根気の要る作業になる場合が少なくない。技術的な制約も伴うが、既存システムに基づく業務プロセスが確立されている場合、現場からの反発もある。現場が情報活用の必要性を感じていても、毎日の業務の流れを変えることは容易ではない。
山下氏によれば、トップの意思決定でICTインフラの刷新を進められるのが幸いだという。上層部が情報活用の必要性を強く感じていたからで、現場を含む院内への説明には、映画「マトリックス」のシーンを引用した。コードが映像の上下左右から流れてくるあの印象的なシーンだ。
「ユビキタスな情報活用と聞いてもイメージはわきにくいが、登場人物の周りに情報があふれている映画のシーンを見ると分かりやすい」
現場が変わる
ICTインフラの刷新によって、医師や看護師はどこにいても、必要な時に必要な情報を利用できるようになった。病室では患者の側にいながらタブレット端末から電子カルテを閲覧してコミュニケーションをとったり、情報を入力したりできる。カートに積載された専用端末を壊さないようにと、気を使いながら回診する負担も解消された。また福井大病院は医学部の付属病院であることからも、学生が現場で教授と同じ画面をタブレットで見ながら講義を受けることもできるようにしている。
また、患者の不安を和らげる効果も。「例えば、従来は手術前のインフォームドコンセントを専用端末がある診察室でしなければならなかった。診察室に呼ばれる患者さんの不安は相当なもの。それが病室のベッドでもできるようになった」
病院では古くからPDAなど利用されていたが、現在のスマートフォンやタブレットに比べれば筺体が重く大きく、駆動時間が短い。機能も少ないため、現場の評価は芳しくなかったという。現在のスマートフォンやタブレットは従来の課題の多くが解決され、一般にも普及していることから使いやすいなど、医療現場のニーズに応えやすいものになった。
ただし紛失などのセキュリティリスクが高いことや、機動力を得るために無線環境が必要になるといった課題が残るため、ICTインフラの刷新でモバイルデバイスに起因する課題を解決している。
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