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人工知能が給料を決めている会社成迫剛志の『ICT幸福論』

人工知能が人々の仕事を管理し、給料を決める――海外ではそんな事例が登場したようです。人工知能は私たちの働き方をどう判断し、何を基準に給料を決めるのでしょうか。

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この記事は成迫剛志氏のブログ「成迫剛志の『ICT幸福論』」より転載、編集しています。


 “OpenStackSummit Austin”の会場で、人工知能を手掛けているグローバルIT企業の方から面白い話を聞いた。なんとその会社では、人工知能が従業員の給料を決めているのだそうだ。

 まだ給料の全てを人工知能が決めているのではないようだが、それでも既に人工知能の判断によって、給料が上がった従業員がいるとのこと。

 もともと人事制度として全ての従業員が個々人の保有するさまざまなスキルとそのレベルを登録しているといい、最近始まった人工知能活用で、人工知能が全世界の従業員のスキルとレベルを読み込み、判断し、給料の調整を行っているということだ。

 中には、直属の上司が知らない間に、人工知能が給料を上げたケースがあるそうだ。ちなみに人工知能が給料を下げるということはしていないようである。でも、これも「いまのところは」ということだろう。

上司か人工知能か

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 ということは、近い将来、全ての人の給料を人工知能が公平に決めるという時代が来るのかもしれない。ちょっと想像力を働かせて未来を予想してみよう。

  • 全ての従業員のスキルがデータベースに登録される。このスキルデータは、自己申告ではなく、テストや日々の業務におけるパフォーマンスから、人工知能が相対的にスキルレベルを判断した評価とする。
  • スキルデータは、現在のスキルレベルだけではなく、過去のスキルレベルの推移と担当してきた業務内容も登録されていて、スキルエリアごとに、今後のスキル向上の可能性を人工知能が判断する。いわば「向き不向き」を人工知能が公平に判断するということである。
  • 各部署での担当ポジションについて、人工知能がそのポジションの役割、業務内容を決定し、その業務遂行に必要なスキルレベルを決定する。
  • 各ポジションにアサインする人材は、人工知能が決定する。人工知能が人材アサインを決定する要素は、各ポジションに必要なスキル、人材の現在のスキルと「可能性」(ポテンシャル)および「向き不向き」である。
  • 給料は、ポジションとスキルによって決められている。ポジションに必要なスキルエリアとその難易度をベースとしたものとする。

 つまりは人工知能が、各担当ポジションの業務内容と必要なスキルを判断し、人工知能が人材のスキルとポテンシャルを判断し、それらをもとに配属を決定する。そして、担当ポジション毎に給料が決められるということになる。給料は、過去の成果によって決まるのではなく、現在の担当業務によって決められるということである。

 待てよ。ということは、上司は要らなくなるのではないだろうか?

  • 人工知能は、各業務のパフォーマンスを常時ウォッチし、パフォーマンスが下がったり、期待しているパフォーマンスが得られていない場合には、担当者に対してヒアリングとアドバイスを行う。
  • 担当者の状況によって、パフォーマンスが得られないのが一時的なものであるのか、恒常的なものであるのかを判断し、一時的なパフォーマンス低下であれば、他の人材を追加アサインして業務遂行を一時的に補う。恒常的なものであれば、「そのポジションはその人材には向いていない」と判断し、配置変更を行う。
  • また業務間の調整が必要な場合には、人工知能が全社を俯瞰的に検討し、業務フローや分担などの判断を行う。
  • 人材のキャリアパスについては、現在のスキルレベル、過去の担当業務とパフォーマンス、それによるスキルレベルの変動をもとに、人工知能が向き不向きを判断する。
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 と、ここまで考えてくると、人材は各企業に所属するのではなく、巨大な人材プールとしておいて、各企業の人工知能が必要な人材を人材プールから選ぶようになってもよさそうだ。

 複数企業の人工知能が欲しいと判断する人材が重なった場合には、オークション方式とする。こうすると、需要の高いスキルを持った人材が給料が高くなるということなる。

 人材プールということは、なんだか派遣会社のようでもあるが、この場合にはそもそも企業に所属している従業員がいないので、全員が派遣社員ということになる。いや、全員が個人事業主と考えればよさそうだ。

 でも、これではチームワークが生まれないので、やはりうまくいかない気がする。というよりも、そもそもこんな世界になってしまって良いのだろうか?

 思い起こせば、オルタナティブブログでの僕の最初のエントリー「コンピュータに命令され、仕事する人間」(2009年3月13日掲載)も、同様にコンピュータに支持される人間の話題であった。今回想像する未来は、そのエントリーの延長線上にありそうだ。

 いずれにしても、ICTで人間が幸福になれないような世界にはしたくないものだ。

著者プロフィル:成迫剛志

SE、商社マン、香港IT会社社長、外資系ERPベンダーにてプリンシパルと多彩な経験をベースに“情報通信技術とデザイン思考で人々に幸せを!”と公私/昼夜を問わず活動中。詳しいプロフィルはこちら


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