Apple Watchが医療の質を向上させる(1/2 ページ)
慶應義塾大学 医学部の循環器内科で、Apple WatchとiPhone、HealthKit対応のアプリが用意された血圧計などを用いて、外来患者の日常のヘルスケアデータを取得し、医療に生かす臨床試験が始まっている。
人々が日常的に利用しているIT機器から取得できるデータを、診療にも生かせないか――。そんな研究をしている医師がいる。慶應義塾大学 医学部 循環器内科の特任助教、木村雄弘先生もその1人である。
木村先生は、Appleが医療研究用にオープンソースで提供しているアプリケーションフレームワーク「ResearchKit」を活用し、脳梗塞や不整脈の検出ができるか調査するための臨床研究アプリ「Heart & Brain」の開発も手がけた医師。Heart & Brainで取得した1万人分を超えるデータは、医療を補助するデータとして十分活用できるものだった、との学会発表も行っている。
そしてこのたび、慶應義塾大学 医学部 循環器内科では、「Apple Watch」や「iPhone」、そしてiPhoneと連携する血圧計などで取得したヘルスケアデータを、診療に活用する臨床試験を開始した。通院患者が自宅で測定した脈拍や血圧、日々の活動のデータを参照して、病院の外来診療でのサポートに活用し、診療の質の向上と、安心感の提供に役立てたいという。
患者の詳細なヘルスケアデータがより質の高い医療に
一般的な外来診療では、医師と患者は、病院などで対面で向き合ったときしかコミュニケーションが取れないことがほとんどだ。まれに電話やメールでやり取りするケースもあるが、いずれにせよ患者が日常生活をどう送っているかを医師が把握するためには、患者から口頭で説明をしてもらうか、手帳などを見せてもらう必要がある。
また血圧や脈拍などのデータ、その他の検査で得られるデータは、いずれも「患者が病院に来た時点」のもので、それは「普段と同じ」とは限らない。例えば「白衣高血圧」のように、病院に行って血圧を測ると、緊張感やストレスなどから、平常時より血圧が高くなる現象はよく知られている。医師にとって、病院にいない、生活時間の多くを占める自宅などで、患者がどう過ごしているかを知ることは、非常に重要なことなのだという。
そこで木村先生は、Apple WatchとiPhoneを活用し、平常時の患者の状態をモニタリングできないかと考えた。Apple Watchでは脈拍を計測するほか、アクティビティデータを取得。血圧は、AppleのHealthKitに対応し、「ヘルスケア」アプリとデータの連係ができるオムロンヘルスケアの専用アプリ「OMRON Connect」に対応した最新の血圧計を採用し、1日2回計測してもらったデータを自動取得する。
取得したデータは、iOSアプリの「The Diary」を通じて、慶應大学病院側に送付され、医師が任意のタイミングで患者の状態を確認できる。実際には1日1回データを送信してもらっており、医師も毎日チェックをしているという。医師が患者に薬を飲むことを促す服薬指導や血圧計測の依頼、体調が良い/悪いといった患者から医師へのフィードバックは、The Diaryアプリに組み込まれているフレームワーク「CareKit」を用いて実現している。
CareKitとは、Appleが用意している、健康管理用のアプリケーションを容易に開発できるオープンソースのフレームワークだ。ResearchKitが臨床研究のために作られたものだったのに対して、CareKitは医師と患者の間のコミュニケーションをサポートし、患者のケアに活用できるツールとなっている。CareKitを活用した臨床試験は、まだ世界でも例が少ない。
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