企業にイノベーションを起こすリーダー、3タイプ:めんじょうブログ―羊の皮をかぶった狼が吠える
シリコンバレーは、イノベーションを起こす「人」によって作られている。いったい、どんなリーダーがイノベーションを起こすのか。
この記事は校條浩氏のブログ「めんじょうブログ―羊の皮をかぶった狼が吠える」より転載、編集しています。
先日、日本の有名タレント「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳氏がシリコンバレーを訪れ、パネルディスカッションのイベントを開いた。このディスカッションに参加した私は、ある質問の答えに詰まってしまった。
「シリコンバレーでおすすめの場所はどこでしょう?」
なぜ答えに詰まったのかというと、シリコンバレーのエッセンスは「場所」ではないからだ。私のかつてのボス、レジス・マッケンナは「シリコンバレーを作った25人」に選ばれ、アップルの故スティーブ・ジョブズのメンターであったことでも知られる。そのレジスが私によく言っていたのは、“Silicon Valley is a state of mind”ということ。すなわち「シリコンバレーはそれぞれの人の心の中にある」というわけだ。
新たな事業の創造にチャレンジするフロンティア精神がシリコンバレーを作るのであって、ベンチャー企業が集積するサンタクララ郡の地域をシリコンバレーと呼ぶのはたまたまその地域にそのような人材が集まったからだ。言い換えれば、「人がシリコンバレーを作る」のだ。
企業にイノベーションを起こす3タイプのリーダー
今、産業の再生を目指して“シリコンバレーから学ぼう”という動きが活発だ。日本から多くの企業や行政がシリコンバレーの秘密を探りに来る。そしてまず、間違いなく、投資環境やエコシステムなどの仕組みを調べる。しかし、そこでイノベーションを起こす人を理解しないとシリコンバレーの本質は理解できないのではないか。
市場が右肩上がりで成長してきた高度成長時代は「どう作るか、提供するか」の効率が問題であり、組織をデザインしてから人を配置することでうまく回った。しかし、革新技術で産業が再構築されるこれからの時代は、「何を作るか、提供するか」が課題だ。このようなイノベーション活動では、人の登用とマネジメントが鍵であり、人中心に組織を作ることが求められる。
シリコンバレーを参考に、事業でイノベーションを起こすために必要なリーダー像を、“企業内の環境”で考えてみよう。「起業家タイプ」「戦略家タイプ」、そして「パトロン」の3種類のリーダーが必要だと思う。
まずは、起業家タイプのリーダー。成功への執着心が強く、ナンバーワンという言葉を好む。未来ビジョンに没頭するあまり、与えられた仕事をないがしろにすることがあるかもしれない。進取の気性が強く、業界の慣行をものともせず、新しい製品や仕事のやり方の導入に熱心。社外の集まりにもよく顔を出す。一方、組織の枠にはまらないので、「協力的でない」ということでよく摩擦が生じる。信念を通すためには、上司を無視して経営トップへ直談判することもある。
2番目は戦略家タイプの人材。「意思決定の推進役」を果たすことに積極的に取り組む人。口先でワーワー言うだけでなく、アイデアを具体的な計画に落とし込む能力を持っている。社内の特別プロジェクトや委員会のメンバーによく指名される。
現場を任せれば必ずきっちり仕事をこなし、同僚の評価もよい。ただ、能吏タイプとは違い、どんなことでも納得がいかないと「なぜ」を連発し、上司や同僚を閉口させるような一面もある。提案するプランは説得力があるので信頼されている。
パトロンは、全体の方向性についての意思決定できる経営トップや経営幹部。イノベーション活動に予算を付け、支援する力を持っている。「骨を拾ってやるから思い切ってやれ」と、自分がリスクを負って部下の挑戦を後押しする。現場を細部まで理解した上で運営をプロジェクトリーダーに任せる度量がある。社内の他部門から発せられる雑音からチームを守り、泰然自若としている。
このように、人の性格と能力を見極めた上で適材をそろえ、イノベーション活動を進めることで、企業内に「シリコンバレー」が形成されることを期待したい。
著者プロフィール:校條浩
シリコンバレーに本拠を置くネットサービス・ベンチャーズ・グループ代表。日本企業への事業イノベーションのアドバイスとシリコンバレー・日本でのベンチャー投資を行う。2017年、Fintech, AI分野の戦略ファンド・オブ・ファンズを立ち上げ、米国の最先端VCと共に産業革新を進めている。詳しいプロフィールはこちら。
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