乗り気でない人に、働き方改革をどう伝えるか:Microsoft Inspire 2017(1/3 ページ)
働き方改革は、とにかく経営者が腹をくくって実行することが重要――。そう話す日本マイクロソフトの澤円氏が、どうやって働き方改革に興味を持ってもらうかを解説した。
急激に進む少子高齢化や、他の先進諸国と比較した際の労働生産性の低さなど、政府が推進する「働き方改革」に取り組むべき理由は枚挙に暇がない。しかし、実はこうした要素はビジネスへの直接的なインパクトがまだ少なく、自分事になりにくいため、ユーザーにはなかなか響かない――。そんな悩みを持つパートナー企業のために、Microsoft Inspire 2017で行われたセッションで、日本マイクロソフト マイクロソフトテクノロジーセンター長の澤円氏が講演。企業が働き方改革にどう向き合うべきか、同社の取り組みと共に解説した。
「ホウレンソウの重み付け」で無駄な時間を削減
どんな会社でも行われている「会議」。これこそが時短を阻むブロッカーの1つだと澤氏は指摘する。業務を進めるうえで「報告」「連絡」「相談」、いわゆるホウレンソウが重要だとされているが、これらは「同じ粒度で考えてはいけない」という。なぜなら、報告と連絡は過去に起きたことであり、もう済んでしまったこと。一方で相談は未来のことで、時間をかけて議論すべきこと。それなのに、報告や連絡を、相談と同じように時間をかけてやってしまうから、時間がいくらあっても足りなくなる。
報告や連絡は、見れば分かるという類のものも多い。そのために設定されている会議を減らすことが、勤務時間の減少につなげられるという。「そもそも会議室を取り、スケジュールを調整するのはとてもコストがかかる作業だという意識が薄いんです。また、社員を集めるのが無料だと思っている人も多いですね」と澤氏。コストをかけて人を集めて実施する会議では、議論して重要な決定を下す。見れば分かるものは、メールやコミュニケーションツールで共有すれば十分というわけだ。
さらに、報告のためのレポート作成も時短を阻む。レポート自体は何の利益も生み出さないのに、作成作業をしている人は仕事をしている気分になるからだ。ただ過去に起きたことを、見た目がいいようにまとめ直しているだけなのに、これを作るために膨大なリソースを消費している。
「レポートを一生懸命作る時間を、もっとお客さまに会いに行ったり、社内で提案をしたりする時間にしてもらわないと、時短なんて絶対無理です」(澤氏)
しかし、ツールなどを使った作業の自動化を勧めると、「私アナログ人間なんです」などといって、自動化などに難色を示す人がたまに出てくる。
「別にデジタルのプロフェッショナルになれと言っているわけではありません。アナログ人間であることと、デジタルによるレポート作成ツールを使わないということとはなんの関係もありません。そんな人には『あなたは今も洗濯板で服を洗っているのですか?』と聞いてみてください。そんなはずはありませんよね。全自動洗濯機のボタンを押すのも、自動でレポートを生成するのも同じことです。洗濯板で洗濯物を洗うのに費やしていた時間が、全自動洗濯機の登場で別のことに使えるようになったように、コンピュータでも、レポート作成の時間が別のことに使えるようになるわけです。コンピュータを使ってやったほうが早い仕事を自分でやって、仕事をした気になっているのが問題なのです」(澤氏)
コンピュータで自動化できる作業をどんどん削っていき、企業価値を高めていくような仕事にどうやって時間を割り当てていくか、これこそが「働き方改革」そのものだという。
事務作業という「ボトルネック」を改善する
「全体のパフォーマンスはボトルネックによって決まる」――。澤氏は「The Goal」という本を紹介しながらこう話した。「ビジネスのスピードも、ボトルネックで全部決まるのです。ハイパフォーマンスなものが決めているのではありません。ですから、どこにボトルネックがあるかを認識しないと改善はできません。そしてそのボトルネックのほとんどは事務作業です」。
なぜ事務作業が多いのか。それは、報告も連絡も、人と会って話そうとするからだ。スケジュール調整は、ビジネスの中で最もコストがかかる作業の1つなのに、それをコスト計算していない。ここに大きな問題があるという。だから、「人件費×時間×人数」といった計算をして、数値化して認識してもらうことが重要になる。
時短をしていくためにできることは、2つしかない。「さっと決める」と「すぐにやる」だ。なかなか決まらないからすぐにできないのが現状だとすれば、さっさと決めて、すぐにやるために、何が必要なのか。
「決めるための材料を、早く手に入れられる状態にする」ことが重要だと澤氏は言う。しかし、特別なことをしなくてはいけないと考えると、解決策を見誤る。
例えばテレワークは、一部の社員のある局面、妊娠や出産、介護、配偶者の転勤などの状態を助けるために仕事を切り出して、その時期だけ、特別な働き方をするものと考えがちだ。しかし、それでは今までと同じ状態で業務フローが回っているので、外に出された人には大きなハンデになる。
報告書を作って印刷し、配布することが会議で常態化している会社では、家に居る人はその資料を見ることができない。あるいは、会議がほぼ様式化していて、飲み屋や喫煙所で意思決定が行われ、段取りや手続きや根回しなどが残っている環境では、リモートで会議に参加しても全く意味がない。こうした環境やマインドセットから変えていく必要がある。
ちなみに日本マイクロソフトはどうしているかというと、「フレキシブルワーク」に対して、全員が毎日必要な時に必要な人と必要な対話・情報を交わす、という環境を整えているという。「出勤する」「何時から何時まで働く」という2つのパラメータを完全になくし、いつでもどこでも誰とでも働けるようにした。その結果起きたのは、コミュニケーションの量と速度の変化だ。社内のミーティングは、ほぼチャットや電話で、澤氏の部下も全員Skypeでコミュニケーションを取っており、リアルで会うことはほとんどないそうだ。実際、それで十分業務は回っている。
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