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ここまで来た、悪質Web広告の“だましの”手口半径300メートルのIT

“誤タップ狙いがみえみえ”のひどい表示方法が横行する悪質Web広告。最近は、こんな手口まで……。

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 最近、個人で運営しているWebサイトで、大きな決断をしました。広告表示を外すことにしたのです。

 そのWebサイトは、ブログブームが起こった時代どころかテキストサイト全盛期以前から続けていて、かれこれもう20年間も運営しています。それを今、“Web広告などなかった1990年代の姿”に戻すことにしたのです。

個人運営サイトで“お金を稼ぐ”ということ

 個人で運営するサイトで広告を外すのは、実は大した影響がないのかもしれません。私の場合、ある特定ジャンルのサイトとしてはそこそこの閲覧数があったとは思うものの、これだけで食べていくのは難しく、利益は「サーバ代を捻出できる」程度のものでした。

 もちろん、SEOをきっちり行って検索流入を増やし、さらに効果的な広告表示を行えば伸びしろはあったのかもしれません。でも、それは、「自分がやりたいこととは違うのではないか」と思い続けていたのです。

 思えば、ブログブームが過ぎたころから、「自分のブログに広告を表示し、それによって収益を得る」のは当たり前になっており、現在では「広告を貼っていないブログなどない」といってもいいくらいです。

 ただ、商用サイトならともかく、個人運営のサイトで「金もうけ」を考えはじめると、どうしても“お金そのもの”が目的になってしまいがちです。私も、そうなっていないかと自問自答し、お金のためではなく、趣味として細く長く続けていく道を選んだのです。

 広告を「見る側」の立場に立ってみると、最近のバナー広告には“見るに耐えないもの”が含まれていることもしばしばです。どぎつい表現のマンガ、脅すような言葉、子どもにはとても見せられないきわどい写真……。全てがそうであるとは言いませんが、一部でもそういうものが含まれてしまうと、バナー広告全体が嫌われるのも仕方がありません。

 さらに、スマートフォン向けのサイトでは、バナーが中央に薄く表示され、ゆっくり落ちていくような“誤タップ狙いがみえみえ”のひどい表示方法もあります。そうやって表示された広告をじっくり見る人など、ほとんどいないでしょう。

 広告主は「興味を持っていなかった人が偶然、広告を目にすることで商機につながる」と考えているのでしょうが、私はこれまでそんな偶然に出会ったことはありません。あくどい広告表示は、嫌悪感を覚えることはあっても、広告主が思うような効果を挙げることなど極めて少ないと思うのです。

不快な広告を排除できなければ、利用者は……

 それ以上に問題なのが、広告で「だます」手口の巧妙化です。

 スマートフォンでWebサイトを見ていると、突然ダイアログが表示され、「あなたのスマートフォンはウイルスに感染している危険性があります」などという文言があなたの前に現れることがあります

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Webの閲覧中に突然表示されるウイルス感染警告の例(トレンドマイクロのサイトより)

 もちろん、Webサイトを見ただけで、ウイルススキャンを行えるわけがありません。さらにそのダイアログをタップしていくと、無料のウイルス対策ソフトがダウンロードできるなどと偽り、不正な(もしくは何もしない)アプリをインストールさせるようなこともあります。このような仕掛けが広告を通じて配信されるため、怪しいサイトではなく正規の有名なサイトでも安心できないのです。

 こうした悪質な広告は、「アドネットワーク」と呼ばれる仕組みを通じて表示されます。広告を表示するWebサイトは、アドネットワークと契約し、広告主はアドネットワークに広告を配信依頼することで、Webサイトに広告が掲載されます。

 この時、広告を表示するWebサイトには、実際の広告主がどのような企業なのかは見えません。この仕組みだと、悪意のある広告主が不特定多数のWebサイトに悪意ある広告を掲載できてしまうのです。

 利用者が身を守るためには、もはや「全ての広告をブロックする」くらいしかありません。しかし、そうなると、Webサイトはビジネスが立ち行かなくなってしまいます。こうした背景からGoogle Chromeは、「劣悪な広告」をブロックする仕組みを開始しました。アドネットワークである「Google Adsense」を運営しているGoogleは、ブロックされる前に健全化を狙っているわけです。

 このように、インターネット全体ではエコシステムを壊さないよう、劣悪な広告をなくす取り組みをしています。メディアビジネスは広告バナーによる収入で回っているので、このような施策が成果を上げることを願ってやみません。

 ただ、個人ブログについては、お金のために運営しているバナーだらけのサイトよりも、個人の趣味や熱意に支えられ、運営者の熱さが伝わってくるサイトの方が私は好きです。まずは自分からそれを実践してみようと、自分の運営するサイトからは広告を全て外すことに決めたのです。

 もちろん、全ての個人サイトがそうなるべきとは全く考えていません。少なくとも私は、広告収入を気にしないことでページビューを稼ぐ必要がなくなり、好きなことを自分の言葉で素直に伝えられるようになりました。そこには煽り文句や過激な記事タイトルはありません。

 自分のペースで運営できるようになって、「そういえばインターネット初期の趣味サイトはこんな感じだったよなぁ……」と懐かしんでいます。

著者紹介:宮田健(みやた・たけし)

デジタルの作法
『デジタルの作法』

元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。

筆者より:

2015年2月10日に本連載をまとめた書籍『デジタルの作法〜1億総スマホ時代のセキュリティ講座』が発売されました。

これまでの記事をスマートフォン、セキュリティ、ソーシャルメディア、クラウド&PCの4章に再構成し、新たに書き下ろしも追加しています。セキュリティに詳しくない“普通の方々”へ届くことを目的とした連載ですので、書籍の形になったのは個人的にも本当にありがたいことです。皆さんのご家族や知り合いのうち「ネットで記事を読まない方」に届けばうれしいです。


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