日本酒造りにディープラーニング 岩手の銘酒「南部美人」の挑戦:杜氏の経験や勘をデータ化(2/2 ページ)
人工知能を活用した酒造り。岩手県にある「南部美人」は、そんな“おいしい”取り組みに挑戦している。5代目蔵元がその背景と狙いを語った。
米の膨張率や割れ方をデータ化、ディープラーニングで解析
南部美人とともにこのプロジェクトを進めるのは、ITによる伝統工芸の支援などを手掛ける「ima」だ。酒米の最適な吸水時間を、自動的に通知するツールの開発を目指し、2018年2月に実証実験を行った。酒米が吸水をする中で、米の色が変わり、ひび割れが進む様子をUSB顕微鏡で録画して、膨張率のデータを収集したという。
ima代表取締役CEOの三浦亜美さんは、こうした匠の技術を“再現性を高めた形”で次世代に継承したいと話す。
「実際に岩手の酒蔵へ行って、浸漬の工程を見ましたが、自分の目では最適なタイミングが全く分からず『人間ってすごい』とあらためて感じました。お米の割れ方も含め、画像として残したデータをディープラーニングで学習しているところです。これが成功すれば、酒だけではなく、発酵食品などにも応用できると考えています」(三浦さん)
取得したデータはABEJA Platformを使って解析し、撮影用の専用機器も作った。CADで設計し、DMM.makeの3Dプリンタで製作したという。久慈さんは、機械学習によって得られた知見を広く共有すれば、日本全体で酒造りのレベルが上がると期待を寄せる。
「この技術は今のわれわれの蔵には必要ありませんが、人手不足に悩む酒蔵や、息子の世代では必ず助けになるはず。こうしたノウハウをクラウドなどで共有すれば、失敗するリスクが減り、日本の酒造りはもっと良くなるでしょう。業界の人々に何と言われようと、酒造りの未来のためにプロジェクトを進めていきます」(久慈さん)
仮に浸漬のノウハウが共有されても、製品の差別化には「あまり影響がない」と久慈さん。そもそも、浸漬における膨張率の目標は酒ごとに異なる上、その後の工程でも差別化するポイントは山ほどあるという。あくまで、AIは浸漬で“失敗しない”ためのツールという位置付けなのだ。
「日本酒には1000年以上の歴史がありますが、実は400年から500年前に確立した理論をいまだに超えられていない部分があるのです。その意味では、2018年は日本酒造りの大きな転換点になるかもしれません。人工知能は酒造りの参考書となる存在であり、人間にとって最高の相棒になるのだと感じています」(久慈さん)
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