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2005/08/03 15:49 更新


映画「劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者」の制作に迫る!! 水島精二監督単独インタビュー (1/2)

公開から第1週目の興行収入が、主要5大都市で第2位を記録するという快挙を成し遂げた映画「劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者」。その制作総指揮をてがけた水島精二監督に直撃取材! 劇場版「ハガレン」の制作にかけた想いをうかがってみた。
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もっとも描きたかったテーマ「人は誰も世界と無関係でいることは出来ない」

 TVアニメシリーズの結末で、我々が暮らしている「現実世界」と「錬金術世界」とに隔てられてしまったエドとアル。それまでは「兄弟の絆」というテーマを明確に描いていたが、劇場版「ハガレン」で謳われていたテーマは、TVアニメシリーズのものとはやや異なっていた。

―― この作品で監督がもっとも描きたかったことはなんでしょうか?

水島 テレビシリーズから一貫したテーマとしては「兄弟の絆」がありますが、そのほかに劇場版には「世界と自分とは無関係でいる事はできない」というテーマがあります。今はテレビやインターネットなどで、日々のニュースや世の中の動きは常に見えているわけじゃないですが。それなのに、自分が日々生活している世界の出来事を他人事のように受け止めている。自分たちを取り巻いている身近な状況だけが世界で、その外の現実に対して、フィクションのような感じかたをしている気がするんです。それに対して、映画の中でみなさんの気持ちに伝わるようなメッセージを描きたかった。

 劇場版では、エドは自分にとっては異世界の「現実世界」にいるわけですが、彼はこの世界を漠然と「自分の夢の中のようなもの」として受け止めているんです。帰る術の見つからない現状に疲れ、他者との距離を置き、元いた世界に思いを馳せて過ごしている。そんな彼に対してハイデリヒは、たとえそれがどのような結果を招こうとも、自分がこの世界に生きた証を懸命に残そうとしています。そして、エドに対して「ここは君の夢の中の世界なんかじゃない」というセリフをぶつけるんですよ。

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明るく振る舞っているエドだが、手を尽くしても元の世界に帰れないという絶望を胸の内に抱えている。そんな彼に、アルそっくりのハイデリヒは優しく接してくれているのだが……

水島 一方、ジプシーの少女であるノーアは、各地で迫害を受けているせいもあって、自分を受け入れてくれる国を欲しています。それで「シャンバラ」=「錬金術世界」を探しているエッカルトたちに協力することになるんですが、それは彼女が現実から目を背け、未知の理想郷に逃避した結果なんです。でも、結局は現実との関係を断ち切ることはできず、自分自身を見つめて生きていかなければいけなくなる。この終盤への展開を、「たとえ辛くても、逃げた先に理想郷なんてない」というメッセージとして伝えたかったんです。

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ジプシーであるノーアは、ドイツの人々から辛い迫害を受けてきた。そんな彼女が欲したのは、ささやかな安らぎだった

―― たしかに物語序盤のエドは、テレビシリーズの時とは別人のような印象を受けました。無理に明るく振る舞っているというか……。

水島 「錬金術世界」に戻るために2年間も手を尽くしたけれど、自分が信じてきた科学が「現実世界」ではまったく通用しない。序盤ではそんな無力感がエドを捉えています。希望は捨てたくないけど、何をやってもムダ。しかも、まわりには「錬金術世界」にいた人々のそっくりさんが何人もいるんですから、余計にヘコみますよね。見た目はそっくりなのに、まったくの別人なんですから。エドはそんな状況下に置かれているので、テレビシリーズの彼とはまったく違う印象を受けるかもしれませんね。

作品の根底にあるのは、当時のドイツの空気

 劇場版「ハガレン」は、西暦1923年のミュンヘン――ナチスが台頭しつつあるドイツを舞台としている。人心が熱狂の渦を作りながらナチスという狂気を形作っていく時代を土台としたことで、水島監督は劇場版「ハガレン」が持つ空気をどのように表現したのだろうか。

―― 「現実世界」には死んだはずのヒューズそっくりの警官がいて驚きました。でも、性格はちょっと違っていたような……?

水島 いや、性格もまったく一緒なんですよ。それなのに印象が違って見えるのは、彼はあの時代のドイツに生まれ育っているからなんです。生まれ育った土壌が違えば、根本となる性格は同じでも、若干変わってくると思うんです。だから、エドに対して厳しい態度をとることはあっても、彼が優しい男であることに変わりはないんですよ。

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「現実世界」にはヒューズに生き写しの警官の姿が。だが、誇り高きドイツ国民として生まれ育った彼は、我々が知るヒューズとは若干印象が異なる

―― ナチスが台頭し始める頃のドイツの空気が、作品の根っこにあるということでしょうか。

水島 そうですね。「現実世界」の方の世界観として、ドイツという国がナチスドイツへと向かっていく世相が根底にあります。ただ、それを第三者から見たような「狂気」としてではなく、当時のドイツ人から見た「日常」として描いていますね。自分たちがもっとも優れているという思いが加速して、やがてそれがナチスという形をとっていく。劇場版の「ハガレン」は、そんな時代背景を土台にして描いているんです。

実力派の役者たちを声優として起用した理由

 本作には新キャラクターが多数登場しているが、中でもアルそっくりの青年・ハイデリヒや、ジプシーの少女・ノーア、そして秘密結社「トゥーレ協会」の長であるエッカルトら3人は、実力派俳優が声をあてている。彼らが声優として参加していることも、劇場版「ハガレン」の特徴のひとつと言えるだろう。しかし、いったいどのような経緯でこのメンバーをそろえることができたのだろうか。

―― 本作では、小栗旬さんや沢井美優さん、そしてかとうかずこさんという3人の役者の方々が出演されていますが、どういった経緯で彼らを起用することになったのでしょうか?

水島 まず、ノーアはイメージに合う声優さんがなかなか見つからなかったんですよ。そんな時、スタッフの中に沢井さんのファンがいて、彼から強硬に勧められたんです(笑)。僕自身は沢井さんに対して実写版の「セーラームーン」の子、という認識しかなかったんですが、実際に演じてもらったら影のある演技も素晴らしかったんです。それに、アフレコの時も声優としての勉強をちゃんとしてくれたせいか、非常に役にハマっていましたね。

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実写版の「セーラームーン」では明るい女の子を力一杯演じた沢井さん。しかし、辛い境遇で生きてきたノーアという難しい役所も、見事に演じきってくれた

水島 かとうさんの場合は、実はお子さんが「ハガレン」のファンだったらしくて(笑)、テレビシリーズの時から「チョイ役でも良いから出演したいな」とおっしゃられていたらしいんです。ですが、お願いする機会が無くて。

 劇場版「ハガレン」の話を詰めている時に、エッカルトをまだ若そうだけれど、年齢不詳な感じで描こうとう決めた時に、脚本家の會川氏からかとうさんの話が出てピンと来たんです。それで、かとうさんの声をイメージしながら、エッカルトのキャラクターのディティールを構築していったんです。

 実際に演じていただいたら、やっぱり素晴らしくハマってましたね。それでもかとうさんご自身は納得いってないらしくて、撮り直しさせて欲しいとまでおっしゃっていました。僕としてはあれで全然OKなんだけどなぁ……(笑)。

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秘密結社「トゥーレ協会」のトップに君臨するエッカルト。若そうに見えるが、大いなる野望と行動力を持つ彼女を演じるにあたって、かとうさんはベテランとしての経験を存分に発揮していた

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[福西輝明,ITmedia]

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