RPGを知りつくした熟練スタッフの手による、王道中の王道を行く作品:「ワイルドアームズ ザ フィフスヴァンガード」レビュー(1/2 ページ)
1996年の第1作発売から10年、節目の年に登場したシリーズ通算第6作。前作で培われた戦闘システムを継承発展させ、文明と自然の対立という伝統のテーマを扱ったドラチックなストーリーを展開。その完成度は、日本RPG史にその名を刻んだ第1作に勝るとも劣らない。
シリーズを貫く“西部劇調”の意味
「ワイルドアームズ」は、作品ごとにストーリーや世界を一新してきたシリーズだ。第4作「ワイルドアームズ アルターコード:エフ」は第1作のリメイクだが、通しナンバーが打たれた残る5作の間に相互の関連はない。それぞれが独立しており、個別にプレイしても何の問題もなく楽しめる。そのスタイルは、今作でも変わっていない。
ただし、世界は毎回変わってもシリーズとしてははっきりした統一感を持っている。それは“文明と自然の対立”というテーマだと筆者は思っている。人間が文明を発展させて自然を征服し、生活圏を広げていく。それは進歩であり、より豊かな社会を築こうとする営みに他ならない。しかし、それが行き過ぎて自然環境が破壊されれば、人間はそもそも生きていくことが不可能になる。「ワイルドアームズ」シリーズは、人間社会が抱える普遍的なテーマと向き合いながら、10年の歴史を刻んできたように思えてならない。
では、「ワイルドアームズ ザ フィフスヴァンガード」(以下、ザ フィフスヴァンガード)についてご紹介していこう。
全作を通し、舞台である惑星にはすべて“ファルガイア”という名前が与えられている。同じなのは名前だけで、地形も歴史も異なるのだが、それでもすべての舞台がファルガイアなのだ。いわばこの名前は、人間の過度な開発によって危機に瀕した惑星の代名詞と言えよう。
一般にワイルドアームズといえば、“西部劇調”というキャッチフレーズで知られる。確かにキャラクターの服装や街並みなどはウエスタンタッチが目立つし、メインの武器がARM=銃であることもそのイメージを強めている。だが、もっとも肝心なのは西部開拓が意味する人間の行動だ。文明が広がり、自然が削られ、巨大な都市が築かれていく。文明圏と荒野が分かれ、富める者は前者に、貧しき者は後者に追いやられる。この構造はシリーズのテーマとダイレクトに結びつく。ビジュアル面よりむしろ、世界観の基礎をなすこの視点こそが“西部劇調”なのだ。
富める者、富まざる者、そして渡り鳥
開発を重視する社会では、それを可能にするテクノロジーを持つ者が力を握る。そして力が富を生み、持つ者と持たざる者の差はどんどん大きくなっていく。貧富の差は「ザ フィフスヴァンガード」では特に大きく扱かわれている。今回は人間以外に「ベルーニ」という種族が登場するが、このベルーニ族は高度なテクノロジーを持っている強者であり、富める者として君臨している。反対に人間は弱者であり、貧者として完全にベルーニの支配下に置かれている。その関係は主人と奴隷に近い。従来作と比べてもかなりシリアスな設定だ。
社会が不安定であるためにさまざまなトラブルが起こるのは避けがたく、諸問題の解決を引き受ける何でも屋のような職業が生み出された。街から街を渡り歩き、人の嫌がる面倒事を請け負って生計を立てる“渡り鳥”と呼ばれる人々だ。彼らは何の保障もない代わり、地域の因習や隣人とのしがらみに縛られることもない。非常に自由な存在だ。歴代の主人公はこの渡り鳥たちで、彼らが悪しき伝統から抜け出し、新しい時代を切り開いていく過程がストーリーの中核となる。それは「ザ フィフスヴァンガード」でも同じだ。なお、ヴァンガード(vanguard)は前衛に立つ者、先駆者の意。いかにもらしいサブタイトルだ。
世界を知り、決意を新たにしていく主人公
「ザ フィフスヴァンガード」の物語は、辺境ののどかな村・カポブロンコから始まる。主人公のディーンは、自分の故郷以外のことは何も知らない、純朴で真っ直ぐな少年。この世界には1万2000年前に栄えた古代文明があり、その痕跡が各地に眠っている。中でもゴーレムと呼ばれるロボットに似た人形は、当時の技術の粋を集めた存在で、過去の文明を解き明かす鍵とも言われる。ディーンはゴーレムに憧れ、その採掘を生業とするゴーレムハンターになることを夢見ている。同じ村にはレベッカという少女がいて、ディーンとは幼なじみ。正義感は強いものの猪突猛進なディーンの性格をよく心得ていて、的確なサポート(とツッコミ)役を務める。
気ままな暮らしを送っていたディーンとレベッカだったが、ある日のこと、村近くの山を探索している時に、巨大なゴーレムの腕が天空から落下してくる現場に居合わせる。しかもゴーレムの拳の中には、守られるように1人の少女がいたのだ。彼女は記憶を失っており、アヴリルという自分の名前とジョニー・アップルシードという言葉以外は何も覚えていなかった。ディーンは彼女の記憶を取り戻すために旅に出ることを決意し、レベッカも同行することになる。かくしてディーン、レベッカ、アヴリルの3人はカポブロンコを離れ、ファルガイア各地を旅していくことになるのだ。
旅を続けたディーンはさまざまな事件に関わり、さまざまな人々と知り合う。そして特権階級としてファルガイアを支配するベルーニ族と彼らに奴隷のように仕えている人間の姿を目の当たりにする。人間の命など何とも思っていないベルーニ族。彼らがもたらした文明の恩恵に浴し、その支配を唯々諾々と受け入れている人間。その中で生まれるいくつもの悲劇。ディーンはしだいに何かが間違っていることに気づき、それを誰かが変えねばと考え始め、やがて誰かに頼るのではなく自分の手でしなければならない、と覚悟を決めていく。ストーリーはこの過程を焦らず、強引に走らず、エピソードを重ねてじっくりと描く。異なる考えやその正当性についても十分に説明していく。だからこそ、それらをすべて包み込んだ上でディーンが覚悟を決めた瞬間の感動はひときわ大きい。ここはまさに中盤のヤマであり、ストーリーの転換点。見せ場中の見せ場のひとつだ。
ディーンはレベッカやアヴリルをはじめ、旅の過程で仲間になったグレッグ、キャロル、チャックとともにベルーニ族に戦いを挑む。しかし、ベルーニ族は強大で、中でもヴォルスングと彼に仕える四天王と呼ばれる最高幹部がディーンたちの前に立ちはだかる。彼らが今回の主要な敵キャラクターだ。
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