怒りと憎しみが織りなす壮大なる叙事詩――反逆の英雄が咆吼する:「ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲」レビュー(2/2 ページ)
ギリシャ神話の枠を逸脱しないことへのこだわり
ストーリーだけを見ても、ギリシャ神話らしさが十分に感じられるのだが、それをより完璧に仕上げているのが美術である。広い意味ではゴッド・オブ・ウォーシリーズはファンタジーに属する。ファンタジーであれば、基本的に世界観にはかなりの自由さがある。仮に中世ヨーロッパ風の世界をベースとしながらも、アラビア、インド、中国、日本などのテイストを持ち込んでもいいのだ。というより、日本のファンタジーRPGなどでは、こうした要素を意図的に入れることで、ユーザーの目を楽しませてくれるのが普通。実際、いろいろな雰囲気の街が出てくることで、プレイ感覚もその都度新鮮になる。
ところが、ゴッド・オブ・ウォーシリーズはそれを真っ向から拒否する。何をするにも古代ギリシャ風という枠を外さないのだ。もちろん、あくまで古代ギリシャ風であって、史実にこだわっているわけではない。古代にはそぐわない大仕掛けの機械も出てくる。しかし、それでも古代ギリシャらしさが失われることはない。徹底したコンセプトワークのなせる技といえようが、これは非常に難しい。それをやり遂げてしまっている。特筆すべき能力を持つ、素晴らしいアートチームだ。
中でも、アイディアの宝庫なのが敵であるモンスターのデザインだろう。
ギリシャ神話には数多くのモンスターが登場する。ミノタウルス、グリフィン、ケルベロス、メデューサ、ハーピー、サイクロプスなどなど。どれもファンタジーファンにはおなじみのモンスターだろう。だが、見慣れているだけにインパクトという点では弱い。モンスターの魅力は鮮度とも大いに関わっているから、こうしたいわばファンタジーのレギュラークラスしかいないのはデザイン側から見ると選択肢が少なくてキビシイのだ。ところが、さすがは卓越したチームだけに、こういう難問もきっちり乗り越えている。
そのためにはいくつもの手法が組み合わされているが、そのひとつがデザインの細部を変えて前作と見た目の差異を作る方法。サイクロプスなどはその代表格だ。また別なアプローチといえるのが、岩の体と溶岩の血を持つミノタウロス型モンスター。厳密に言えばオリジナルモンスター。ギリシャ神話世界を逸脱する、いわば反則的存在だ。ところがその外見をミノタウロスそっくりにすることでギリギリのところを維持している。巧い解決法だ。
このようにデザインコンセプトがかっちりと貫かれているから、世界観がぶれない。何でもアリの幕の内弁当型ファンタジーも楽しいが、ひとつにこだわって創られた世界も楽しい。かつ美しい。
戦闘は豪快かつイージーに、謎解きは思いっきりハードに
神、英雄、人間。それぞれの自分勝手な思惑が激突することで物語が紡がれるという、いかにもギリシャ神話的なシナリオ。それを補完し、視覚的に強化してくれるデザイン。この2つの巨石を土台にして、このゲームの最大の華であるアクション性が開花する。何と言ってもアクションゲームである以上、これがゲームのキモである。
アクション性に関しては、前作からの変更点が2つある。まずはアクションパターンのバリエーションが増え、しかもそれが使いやすくなっていること。このおかげで戦闘は前作よりもずいぶん楽になっている。マップが少し大きめになったこともあって、かなり戦いやすい。回復用の宝箱もあちこちに置かれている。「II」では、戦闘でゲームオーバーにされる可能性はぐっと減ったといえる。少なくとも難易度をNormal以下にしておけば、いわゆるボス格の敵を除くと、あまり危険を感じることはないだろう。
その一方、謎解きはかなり難しい。これにはパターンが2つある。1つは何をすればいいかは分かっているが、操作が難しいという場合。レバーを引いて扉を開け、それが締まりきるまでに駆け抜ける、というタイプで、この場合はほとんどが時間の制限を持っている。いずれも制限時間はきつめで、わずかの操作ミスも許されない。鉄串の廊下や鐘を共鳴させる神殿などは、プレイした人には忘れられないだろう。何度やったら抜けられるんだ、と苦い思いをした人も少なくないかもしれない。
そしてもう1つが何をしたら道が開けるのか、分からない場合。この手の仕掛けでは無理押し力押しは厳禁である。端ぎりぎりからジャンプしてみる、しかし向こう岸までごくわずか足りなくて谷底へ、とこんな状況に出会った時、タイミングが悪かったのかなとリトライするのは危険な発想。「II」でその考えに陥ると絶対にハマる。周囲をよく見渡し、壊したり、動かしたりできる何かがなにかを徹底的に調べるのだ。こういう仕掛けは純粋にヒラメキによるところも大きいので、思いつかないと延々進まなかったりする。ハッキリいって戦闘などよりも格段にコワイ。
本作は前作に比べて、アクションが豪快になって難易度も下がり、代わりに謎解きが数段レベルアップした内容なのである。そのため、全体を通してプレイした時の印象が前作とは少し変わっている。この点、やや好みが分かれるかもしれない。
しかし、謎解きが難しくなったことは、アクションゲームとしての「II」の評価を下げているわけでは決してない。むしろ、アクションに覚えのない人でも楽しめる、という点でより広いユーザーを対象とした作品になっていると言えよう。なお、腕に覚えのある向きには、そうした改良を不満に思うかもしれない。が、案ずるなかれ。そんな硬派アクションゲーマーには本編クリア後にプレイ可能になる追加モードが待っている。クリアすることで特典が入手できるというオマケモードだが、その歯ごたえは……いや、これについては深く言及すまい。実際にプレイしてみた時の衝撃をお楽しみに、とだけ言い添えておこう。
極めて高い完成度を持つ世界観の上で縦横無尽に暴れ回る。この楽しみはまさにアクションゲームの原点に他ならない。EASYでもいいから最後までプレイすれば、なぜクレイトスがアメリカでプレイステーション 2を代表するキャラクターになれたかわかるだろう。「III」はプレイステーション 3での発売だといわれているが、それでもやはりゴッド・オブ・ウォーシリーズはPlaystatiosn2を代表するアクションゲームだ。スパルタの亡霊が次にどんな活躍を見せてくれるのか楽しみに待ちながら、当面は「II」を遊び倒そう。未来への期待に胸をときめかせながら、至福の時を過ごす。アクションゲーマーにとって最高の瞬間だ。そのお相手がメチャ濃いオヤジであることなど、さしたる問題ではない。
「ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲」 | |
対応機種 | プレイステーション 2 |
ジャンル | アクション |
発売日 | 2007年10月25日(発売中) |
価格(税込) | 7340円 |
CERO | D区分(17歳以上対象) |
God of War and The End Begins are trademarks of Sony Computer Entertainment America Inc.
(C)Sony Computer Entertainment America Inc. All rights reserved.
関連記事
- 「ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲」コンセプトサイトでスペシャル映像を配信
- バーバリアン・キング、そしてエウリュアレとの戦い――「ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲」
クレイトスを窮地に陥れた張本人であるバーバリアン・キング、そしてクレイトスへの復讐に燃えるエウリュアレ。今回はこの2人との戦いについて紹介していこう。 - 壮絶な格闘系空中バトルが展開される――「ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲」
カプコンから発売されるプレイステーション 2ソフト「ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲」。今回は神話世界のモンスターとの壮絶な空中戦についてご紹介しよう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
-
「玄関にでっかい亀梨居る」 亀梨和也がまさかの誤字に「なんかごめん」と謝罪 突然の本人登場に「これ笑ったw」「そりゃビックリする」
-
実家を探索中に発見した30年前のカーディガン、娘が着てみると…… 意外な結果に「昭和世代の服はガチモン」「おかあさん尊敬」
-
小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
-
沖縄の「廃墟ホテル」をリノベ中、ミステリアスな事態発生→壁を壊してみると……「ヒェッ」 めげない投稿者に「ポジティブですごい」と称賛
-
【今日の計算】「6×11÷3−2」を計算せよ
-
「北朝鮮のアニメーターが関与疑い」報じられたアニメ制作元がコメント 「事実関係を調査中」
-
「虎に翼」出演俳優、桜井ユキの結婚相手は誰? 2022年にドラマ共演者と結婚発表
-
【今日の計算】「2+13×2−6」を計算せよ
-
東京メトロ、東西線の一部期間終日運休を“まさかの方法”で告知 「これで知らなかったとは言えない」
- 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
- 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
- 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
- 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
- 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
- 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
- 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
- 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
- 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
- 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
- フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
- 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
- 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
- フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
- スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
- 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
- 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
- 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
- がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
- 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」