ブックレビュー(2000年4月)

インサイドCOM+ 基礎編

著者:Guy Eddon,Henry Eddon
監訳:豊田孝
価格:6800円
体裁:B5変型版 760ページ
付録:CD-ROM×1枚
ISBN:4-89100-149-6
発行:日経BPソフトプレス
発売:日経BP出版センター
発行日:2000年3月6日


 1999年Microsoft Pressより刊行された書籍『Inside COM+ Base Services』の翻訳書。Windows2000で新規に搭載されたCOM+の詳細を記したもので,開発者待望の書籍といえる。

 本書では,Visual Basic,Visual C++,Visual J++を使ってCOM+コンポーネントを構築する方法やCOM+のコンポーネントを利用する方法について解説している。ただし,本書の全般に渡ってVisual C++によるサンプルコードを示しながらCOM+について解説するという形式になっているため,Visual C++についての知識がないと,読むのは難しい。しかし反面,随所にサンプルコードが掲載されているため,Visual C++を熟知している開発者にとっては非常に理解しやすい構成となっている。サンプルコードは添付のCD-ROMにも収録されており,そのままコンパイルして実行し,その動作を確認することもできる。

 本書は,3部構成をとっている。

 第1部「COM+基本アーキテクチャ」は,「コンポーネントソフトウェア」「IUnknownインターフェイス」「開発言語からの独立」「アパートメント」の4章から構成され,COM+の理解に必要なIUnknownインタフェース,DLLエクスポート関数,タイプライブラリなどについて言及している。なかでも,「開発言語からの独立」の章では,実際にVisual C++のATL(Active Template Library),Visual Basic,Visuaj J++を利用し,COM+コンポーネントを構築したり使ったりするサンプルコードが示されており,この部分を読めばとりあえずはCOM+を使えるようになる。また,「アパートメント」の章では,COM+で追加された新しいスレッドモデルである「ニュートラルアパートメント」についても解説されている。

 第2部「COM+基本サービス」は,「オートメーション」「例外」「コンポーネントカテゴリ」「コネクションポイント」「タイプ情報」「永続性」「モニカ」の7章からなり,COM+に付随するさまざまなサービスについて説明されている。ここでは,特にVisual Basicやスクリプト言語から呼び出されることを想定としたCOM+コンポーネントを構築する場合に役立つ情報が紹介されている。

 第3部「リモーティングアーキテクチャ」では,「サロゲート」「実行可能コンポーネント」「カスタムマーシャリング」「標準マーシャリング」「インターフェイス定義言語(IDL)」「非同期呼び出し」「セキュリティ」「ネットワークプロトコル」の8章から構成されている。ここで紹介されている情報は,DCOM(Distributed COM)の機能を使って別のコンピュータからCOM+コンポーネントを利用する場合には必須となる。特に,「セキュリティ」の章では,COM+のセキュリティ機構を知るうえで開発者にとっては必須の情報が詰まっている。Windows環境でn階層アプリケーションを構築したい場合には,必ず読んでおきたいところだ。

 どの章も「インサイド」の名に恥じず,他の書籍に例を見ない細部まで踏み込んだものとなっており,COM+コンポーネントの構築方法や使い方だけでなく,動作の仕組みまでも理解するのに役立つものとなっている。それゆえ,「概要がわかって使えればよい」という実用一辺倒ではなく,本腰を入れて理解したい開発者には一読することをお勧めしたい。分量が多く理解するのはなかなか困難ではあるが,本書で理解した内容は将来的にも必ず役立つはずだ。

 ところで,上述の章構成からもわかるように,本書の書名は『インサイドCOM+基礎編』となっているものの,その内容はCOM+ではなくCOMが中心となっている。よって,本書の内容は一部を除き,Windows 95,Windows 98,Windows NT 4.0でもほとんどそのまま適用できる。実際,本書ではトランザクション機能やオブジェクトプーリング,キューコンポーネントといったCOM+で新たに追加された機能の解説は前書きで触れられているのみである。前書きでは「続編でこれらのサービスの詳細を説明する」旨が説明されているので,続編の早期発刊が望まれる。逆にいえば,本書はCOMの基本から説明しているため,これからCOMやCOM+を学ぼうとする読者にとっても最適な書といえる。もしすでにCOMのことは知っており,COM+で追加された各種サービスを知りたいということであれば,同社より発刊されている『COM+テクノロジガイド』(ISBN4-89100-136-4)も併読することをお勧めしたい。

大澤文孝

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