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Chapter 3:DNS(Domain Name System) 〜概要〜

COLUMN:電子メールとDNS

 この連載はWindows 2000の名前解決が主題となるために詳しく解説していないが,DNSは電子メールの配送とも深くかかわっている。なぜなら,一般的な電子メールサーバーは,DNSのMX(Mail eXchange)レコードを参照して電子メールを配送しているからである。

 たとえば,次のような電子メールアドレスについて考えてみよう。

   dsl@az3.dsl.local

 @記号の右側は,宛先となるドメイン名またはホスト名を表している。az3.dsl.localという宛先の電子メールであれば,ドメイン名“az3.dsl.local”のなかにあるdslというユーザーに送付されることになる。

 MXレコードは,電子メールの配送先となるドメイン名を特定するために利用される。電子メールサーバーは,@記号の右側に指定されたドメイン名に宛てた電子メールをどこに送信すればよいかを決めるため,DNSのMXレコードを参照する。そして,MXレコードに指定されたホスト名を解決するために,さらにAレコードを参照する。MXレコードの書式は,次のとおりである。

   az3.dsl.local.INMX10az3.dsl.local.

 上記のように指定されていた場合,foo@az3.dsl.local.に宛てた電子メールは,az3.dsl.localに配送される。もちろん,このときaz3.dsl.localというホストは,SMTPによる電子メールを受信できるような状態でなければならない。具体的には,sendmailやExchange ServerなどのMTA(Mail Transfer Agent)を稼働させておき,az3.dsl.localに宛てた電子メールを受信するように設定しておかなければならないのである。

 以上の例は,ホスト宛に電子メールを送信する場合の例である。しかし通常は,各クライアントが電子メールを受信するのではなく,電子メールサーバーが自分のドメイン宛の電子メールをすべて処理するように設定することが多い。つまり,自分のドメイン名がdsl.local.であれば,次のような電子メールアドレスを使用するのが一般的である。

   dsl@dsl.local

 この場合,dsl.local.という名前を備えたホストは存在しない。このため,ドメイン名に宛てた電子メールを受信するため,電子メールサーバーが必要となる。ホストに宛てた電子メールを受信する場合と同様に,SMTPサーバーを用意し,そのサーバーでドメイン名に宛てた電子メールを受信するように設定しておく必要がある。ドメイン名に宛てた電子メールを受信するサーバーを指定するMXレコードは,次のようになる。

   dsl.local.INMX10lily.dsl.local.
   dsl.local.INMX20biblo.dsl.local.

 この指定により,dsl.local.に宛てた電子メールは,lily.dsl.localか,biblo.dsl.localに送信すればよいことがわかる。MXレコードにおける“MX”のあとに記述された数値は「プリファレンス値」と呼ばれる値であり,優先度の高さを表す。数値が小さいほど,優先度は高くなる。この場合であれば,ホストlily.dsl.localへの配送を試みて失敗すれば,ホストbiblo.dsl.localに配送される。電子メールサーバーによっては,MXレコードが存在しない場合に,Aレコードを検索して電子メールの配送を試みるものもある。

 MXレコードを使用する利点は,そのドメイン名に対する電子メールサーバーを複数指定できるという点にある。複数の電子メールサーバーを用意し,それらをすべてMXレコードに指定しておくことで,電子メールサーバーの冗長性が増し,電子メールサーバーのダウンやメンテナンスを目的とする停止などにも対応できるようになる。ビルの停電や地震などの自然災害にも対応する必要があるのなら,次のように地理的に離れた場所にある電子メールサーバーを設定しておくこともできる。もちろん,このような設定は好き勝手に行ってよいわけではなく,下記の例でいえばホスト「mailsv.anywhere.us.local」の管理者と十分に相談し,dsl.local.宛の電子メールを受信するように設定してもらわなければならない。

   dsl.local.INMX10lily.dsl.local.
   dsl.local.INMX20biblo.dsl.local.
   dsl.local.INMX100mailsv.anywhere.us.local.

 電子メールサーバーの設定や,それに関連するDNSの設定は,ファイアウォールなどの諸要素が絡んだ場合には,より複雑になる。また,電子メールサーバーの設定を間違えると,自分の組織に迷惑をかけるだけではなく,自分の組織に電子メールを送信しようとしている相手に対しても迷惑をかけてしまうことが多い。MXレコードは,電子メールが配送される仕組みとDNSの詳細について,十分な知識を修得してから設定するようにしたい。

[織田 薫、熊野 大介、Bridge Metaware]

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